王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第3話
第3話 太陽王
ーー前回ーー
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—— 太陽王 ——
この世界に存在する、王族の一人。
太陽神に直接創造された人間と謂れ、王は神の代理人として、この世に君臨する。
そのためか、王族は普通の人間とは異なる。
族民にとって、王は絶対的な存在であり、族の威厳であり、尊厳であり、象徴である。
・・・そう、もう一度。
太陽王は、太陽族の威厳であり、尊厳であり・・・
「あーーーはっはっはっはっは!!!」
象徴・・・・
「今日も今日とて、この世は僕の光で輝いているようだな!はっはっはっは!この僕がいなければ、この世界はただの暗闇だろう?!僕のこの輝かしい目覚めにより、朝となり、僕の煌びやかな眠りにより夜となるのだ!!!なんと神々しい日々だろうね!ほらっ、外では僕の目覚めで小鳥たちも、さぞかし嬉しそうに鳴いているね!!!」
”チュンチュンっ”
「・・・・・・。」
参謀本部とコウモリ部隊とで、シャムスの件について議論が紛糾していた時、突如として現れた太陽王。
現れた瞬間は、一気に部屋の空気が変わった。唯一無二の圧倒的存在。逆らうなど出来ない、この族の王としての絶対的なオーラ。
ココロも洋一も、初めて間近で太陽王に会い、あまりの緊張感から直視出来ず、地面から視線をそらせずにいた。
同じ人間とは思えないオーラを放つ王に、素直に畏敬の念を抱く2人。
王冠をかぶっているから、豪華な服に身を包んでいるから、王のみが刻印される額の太陽マークがあるから・・・いや違う。
存在そのものが、この族の王であるオーラを放っている。黒髪で癖っ毛のある長髪に、黄金の瞳を光らせた整った顔つきは、どうも人間離れしている様に感じた。彼の存在は、この世界の中心である太陽のように、すべてを照らし、すべてを支配しているように見えた。
・・・が、それは太陽王が口を開いた瞬間、終わった。
「ほらほら、皆ひれ伏してないで、遠慮せず顔を上げて良いぞ!!いや、あれか。この僕があまりにも眩しすぎて、ちっぽけな君たちは、直視できないんだね。可哀想に・・・・あっはっはっはっはっ!」
この王。まぁ、よく喋る。
入室して数十分経つが、この調子である。
ノブレが途中途中入ろうとするも、華麗に交わし話を続ける。
ココロと洋一は、イメージギャップによりぐったり項垂れ、坂上に至っては慣れているのか、聞いてる素振りもなく、終わるのを持つように、シャムスの報告書に再び目を通していた。
先程まで紛糾していた会議室に、ある意味・・・静寂をもたらしていた。
「・・・王は、先ほど起きたばかりですが、この世界はそんなの関係なく、ちゃんと朝を迎えてます。」
「ん?何言ってるんだ、セバスチャン。この僕が目覚める前に朝が来る訳ないだろう?!はっはっはっはっは!!!相変わらず、頭が悪いね!セバスチャン!!!」
「・・・私はセバスチャンではなく、太郎です。そろそろ覚えていただきとうございます。そして、もうお昼に差し掛かる時刻でございます。」
太陽王の止まらぬお喋りに口を出すのは、太陽王と共に、この部屋に入ってきた人物。唯一の太陽王側近。
横長の眼鏡を付け、なんとも冷静沈着・清廉潔白そうな男である。そんな男の指摘など、痛くも痒くもないように、太陽王は玉座に腰掛けると、両手を広げて大きく深呼吸をした。その様子は、まるで舞台の主役がスポットライトを浴びているかのようだ。
「さて、今日は何の話をしていたのかね?」
「それは・・・・」
「まぁ、つまらない話だろう!!!もっと面白い話は無いのかね?僕のように輝かしい話は!!!!」
参謀本部総長のノブレが、咄嗟に話そうとするも、太陽王は、まるで子供がおもちゃに飽きたかのように、会議の内容に全く興味を示さない。
・・・彼は、自分のことしか頭にないのだ。
「ところで、ノブレ・ナバディ・多聞・坂上。」
”ビクッ!”
呼ばれた四人は、先ほどとは打って変わって、身体をびくつかせる。
「お前たちは、この僕をどう思う?太陽神の子孫として、この世に生を受けたこの僕を。さぁさぁ!!この僕を崇めたたえよ!!!!」
「・・・・。」
しかし、先ほどまで威勢よく叫んでいたノブレ含め、誰も口を開こうとしない。いや、巻き込まれたくないかのように、頑なに口を開かない。
「なんと!!!!分かったぞ!!!君たちは、言葉で表現できないほどの感動を僕に感じているんだろう!語彙力が無さすぎる君たちは、可哀そうだが、致し方無いね。」
(あんたが喋り終えるのを待ってるんだよ・・・)
太陽王の前では、皆同じことを考えるようだ。
「それにしても、今日も元気に太陽は昇っているようだね!はっはっは!良きかな、良きかな、はっはっは!まぁ、この僕の輝きには到底叶わないけどねっ!!!」
「・・・・。」
この調子では、本部会議ではなく、太陽王の自慢大会になってしまう。
坂上は、玉座の背後に控える太陽王側近、太郎に視線を向けると、笑みを浮かべた。
「・・・はぁ。」
”トントンッ”
太郎はため息をつくなり突然、足音が響くようにジャンプを2回した。
「?」
ココロや洋一が、何をしているのか疑問に思っていると・・・
"バシャァァァァァア!!!"
「え、」
「な?!?」
突然、意気揚々としゃべり続ける太陽王の頭上から、滝のような水が発生し、太陽王のみをびしょ濡れにした。
いきなりの出来事に驚くココロと洋一。他の参謀本部の一員も、同様に驚いていた。ノブレや多聞は、頭を抱え、坂上とナバディに至っては、平然としていた。
大量の水を浴び、玉座でずぶ濡れ状態のまま座り続ける太陽王。
暫く部屋がシンと静まり返る。
その静けさが、嵐の前の静かさのように異様に思え、洋一とココロが驚愕していると・・・
「・・・っふ・・・はっはっはっはっはっは!!!!どうしたんだい、フロル!!!今日はまだ会いに行ってなかったからね!!この輝かしい僕に、会えてなくて寂しかっ・・・」
"バシャァァァァァア!!!"
びしょ濡れ状態でも、怒るでもなく、どこか嬉しそうにする太陽王に、二度目の滝が流れた。
その様子に、太郎は、背後で傘をさし、水を避けながら咳払いすると、口を開いた。
「んん・・・太陽王。水龍さまは、”黙って会議を進めろ”と言っておられます。」
「なんだって!?早く会議を終わらせて、早く僕に会いたいだと!?」
"バシャァァァァァア!!!"
「・・・・・。」
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「ふぅ・・・なんとなく、外で聞いていたよ。」
全身ずぶ濡れ状態の太陽王は、タオルで身体を拭きながら聞いた。
やっと本題である。これを逃すかと、ノブレは話し始めた。
「はい。シャムスでの出来事について、慎重に審議しておりました。」
「ふむ。」
太陽王は、ノブレの対面に席を置く坂上に視線を向けた。
「月族が現れたって?」
「はい。シャムス軍にも複数目撃者がおります。」
「それは本当かい?多聞。」
「はい。夕貴軍隊長はじめ、隊員数人が目撃してますな。」
「で?跡形も無く消えたシャムス地方庁は?いつものように、夕貴が暴れたのかい?」
「いえ、調査部隊のセカンド、紫戯です。」
「・・・・。」
多聞が大きな煙管をふかしながら報告すると、少し間を置いて、王は突如笑い始めた。
「・・・くっ・・・はは・・・・あっはっはっはっは!!はっはっは!!紫戯か!!ははっ!!!良かったじゃないか、シャムスの首都ごと消されなかっただけ、マシだ!!!あっはっはっはっはっは!!!!これは面白い!!!」
どこにハマったのか、思いっきり笑う太陽王。
そんな王に、その場にいた者たちがきょとんとしていると、側近の太郎が何やら王に耳打ちし、笑いを堪えながら口を開いた。
「ははっ・・・はぁ・・・。で?」
「太陽王、ロストチャイルド現象について、再考させていただきたい。」
王の問いかけに、いち早く答えたのは坂上だった。
「再考?参謀本部の結論を覆す何かがあったのかい?」
「可能性が出てきたところです。」
坂上の言葉に、太陽王は何か考えながら坂上をじっと見つめた。ノブレは冷や冷やしながら王の反応を伺う。
「・・・・なるほど。じゃあこうしよう。半年後の”太陽の核”で、その何かを持ってこれたら再考しよう。」
太陽王の発言に、一堂ざわついた。
同時にノブレは口角を上げた。
「なぁココロ、太陽の核ってなんやったっけ。」
「お前・・・太陽族全員が集まる行事だ、毎年参加してるだろ・・・。本部の人間だけではなく、地方庁や地方軍なども含めて。基本は、戦争で亡くなった人たちを追悼したり、戦争の生存者たちの祝福を称えたりするんだけど・・・。戦時下の時は、太陽族の行く末を決めるための、最重要議論が行われたりするんだ。”太陽の核”で決められたことは、絶対であり、虚偽は赦されない。裁判にかけられるのと同じくらい・・・いやそれ以上に、発言には責任を持ち、参加している者の大半を説得させないといけない。並大抵の情報だけでは乗り切れないよ。」
「うーん、月族が関与してる証拠を出さなあかん、ちゅうことか。しかも、ちゃんとした内容じゃないと、俺らどうなるん?」
「最悪、戦争を再開させようとした反逆罪みたいなかんじで、処刑だ。」
「え」
ココロが、断ろうと坂上に伝えようとした時——
「分かりました。」
「え」
坂上は、二つ返事で答えた。いつもの笑顔で。
「「さ・・・坂上さん/はん・・・?」」
呆然とする2人に、坂上はそのまま立ち上がる。
「では、私たちは早速取り掛からねば。お先に失礼しますね。」
そう言って、颯爽と会議室を出ようとする坂上。
ココロと洋一も混乱しながらも、書類を集めて坂上の後を追う。
「おい!!王の御前だぞ!!」
見かねたノブレが怒鳴ると、坂上は何か思い出したようにいきなり立ち止まった。
「あ、そういえば。我ら調査部隊に、新しいセカンドが入隊しました。よろしくお願いしますね。では。」
笑顔で会釈すると、そのまま部屋を出る坂上。
「え、新しいセカンドって・・・」
「・・・サチ・・・のことか・・・?!」
ココロと洋一はお互い呆然としていたが、背後の参謀本部たちが、今にも爆発しそうな状況を察し、急いで部屋を出た。
部屋から出た直後、参謀本部たちの物凄い怒声と、太陽王の高らかな笑い声が外まで響いていた。
ーー次回ーー
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