王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第5話
第5話 Let's!!再調査
ーー前回ーー
ーーーーーー
幸十が目覚めて3ヶ月が経とうとしていた。
"カチャ・・・"
医務室で研究部医療班のメリー班長が、幸十の容体を確認していた。幸十の胸やお腹に聴診器を当て、何やら考えていると——
"じーーー"
"じーーーーー"
・
・
・
"じーーーーーーー"
「・・・~ぁあ!!!!!もうっ!うるっさいわねぇ!!コウモリ部隊の連中は、なんでこう群れたがるかねぇ?!?」
幸十を健診している周りで、琥樹と洋一がその様子を、じとーっと見つめていた。そんな視線に耐えられず、メリーが怒鳴る。
「なんや、せやかて気になるやん!!」
「そうそう!やっとさっちゃんが、医務室から出れるかもしれないんでしょ?」
「琥樹は黙って、タマゴたちの治療受けな!!」
「嫌だよ!!!さっきも注射10回以上も刺し間違えられて、俺の腕、血だらけだよ!!どういうことなの!!!もう!!!この3か月間、”太陽の核”のせいで、逃げても逃げても任務に行かされるし!!さっちゃん助けて!!!」
——3カ月前、ロストチャイルドに月族が関与している事を、その場で証明すると宣言した坂上。
最初その話を聞いたバンは、幸十のセカンド宣言も含め、泡を吹き倒れたが、今では逃げられない現実に何とか耐えて手掛かりを探していた。
それに付随し、コウモリ部隊は片っ端から、ロストチャイルド関連の情報が入ると飛び回っている状況である。
琥樹も数日前まで任務に駆り出されており、マダムとの戦闘もあったのか、帰ってくるや否や、幸十のいる医務室に泣きながら駆け付け、負傷した身体を治していた。
・・・・しかし相変わらず、タマゴたちとは気が合わない様だ。
「注射刺し間違えたぐらいで、ピーピー泣いてんじゃないよ!死ぬわけじゃあるまい。」
「死ななくても痛いの!!!何で俺はいつも、医務室で負傷してるの?!?」
「そんなことどうでもええ、それでサチはどや?」
琥樹のわめきを遮って、洋一はメリーに聞いた。
この3ヶ月、メリーの治療の効果もあり、幸十の容体も回復してきた。一時は立ち上がることも出来なかったが、歩けるぐらいまでには回復していた。
——そして今日。
健診で問題なければ、一旦医務室から出られることになっていた。
メリーは少し考えると、ベッドにいる幸十を見た。
「まぁ・・・・いいだろう。」
ため息混じりにメリーが言うと、琥樹と洋一は表情を明るくしてハイタッチした。
"パチン!"
「いえーい!!!やったね!さっちゃん!」
「良かったな!サチ!!」
「うん。良かった。」
2人に言われるがまま、答える幸十。
そんな3人に、咳払いをしてメリーが続けた。
「ゔうん!ただし!!!!幸十の身体は、健康体からほーーーーーーーーど遠い状態なのを、忘れるんじゃないよ!医務室にずっと居続けても、気が滅入っちまうだろうから、一旦リハビリ含めて出てみるだけだ。だから、また変に無理するんじゃないよ?普通は大丈夫だとしても、幸十にとっては、命にかかわることになりかねないからね。わかったかい?!」
メリーの言葉に、幸十はコクリと頷いた。
"グィッ!"
「?」
「よっしゃ!サチ!雲の宮殿に帰るで!!」
洋一と琥樹は幸十の腕を掴むと、そのまま医務室を飛び出していく。
「ちょっと!琥樹はまだ治療が必要だろう!!!!」
そんなメリーの言葉を気にせずに。
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「・・・・てな訳で、サチ!!医務室脱出、おめでとさーーん!!」
"パンパンパーーン!!!"
なすがままに、雲の宮殿に戻ってきた幸十。
相変わらず、大量の資料に埋め尽くされた部屋に入るや否や、何か破れる音と共に、色とりどりの紙ヒラが中に舞った。
そこには、更に萎れたバン・ミドリ・ココロと、正反対に笑顔の坂上がいた。
「?」
そして、部屋の奥には、少し見覚えのある二人組がいた。
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『・・・・枝だな。』
『・・・岳、タマゴと副隊長を・・・・』
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「!」
じっと2人を見ていると、目覚めたばかりの頃に出会った、赤茶髪の少年とおどおどしていた少年だと気づいた。
幸十はもの珍しく、2人をじっと見つめていると・・・・
「じゃ、幸十。」
「?」
ココロが幸十の手を握ると、目の前の大きな装置を指差す。それは、シャムスに行く前にも入った、能力探査機・・・通称、能探であった。
「もうさ、まぁ、必要ないって言うか・・・ぶっちゃけ、本当に必要ないんだけどさ。一応ね。」
ココロは何処か乾いた笑顔で、そのまま幸十の身体を、能探の中に連れて行く。中に入る前に、バンは幸十の肩に手を当て、これまでに見た事のない真剣な眼差しを幸十に向けた。
「いいか。幸十。お前はセカンドだ。セカンドと思って入れ。というか、セカンドである証明しか俺たちは欲してない。」
「そや、サチ。どんな結果でも、あんさんはセカンドや。胸はりい。」
「・・・何この茶番。」
奥にいる赤茶髪の少年は、呆れながら吐き捨てる。
幸十は導かれるがままに能探に入る。皆んな、能探頭上にあるモニターを食い入る様に見ていると・・・・
”ピーッ!”
"・・・ゴクリッ"
--調査不能--
「ぐぉぉぉおお!!!」
嗚咽を吐くバン。ココロと洋一も、一斉に倒れる。
「ちょっと、相変わらず汚いわね。あっち行ってよ。」
そんなバンに、不快感を露わにするミドリ。
「”調査不能”って、どういう結果なんだ!何なんだ!どうしたんだよ能力探査機!!!!こんな風に育てた覚えはないぞ!!!」
書類にまみれた床にへばりつきながら、今にも死にそうなバン。
"カチャ"
「まぁまぁ。幸十くん、ホットミルクでもどうぞ。」
「ありがとう。」
「いいな、さっちゃん。俺も飲みたい。」
「おい、言い出しっぺ。何、他人事みたいにくつろいでんだ。」
幸十にホットミルクを渡し、ソファに一緒に座る坂上。
「まぁ、そんな死にそうな顔しなくても・・・あ、バンくんはいつものことでしたね!」
「誰がこうさせてるんだ!!!誰が!!!!」
バンと坂上が言い争っていると、倒れていたココロがふと起き上がる。
「いや、でも・・・プライマルで”調査不能”って、おかしくないですか?」
「・・・?どゆことや?」
ココロは立ち上がると、突然能探に入った。
”ピーッ!”
--0--
「洋一、入って。」
今度は洋一に入らせる。
”ピーッ!”
--0--
ココロと同じ、”0”の結果が表示された。
「今度は琥樹、入って。」
幸十のホットミルクを盗み飲みしていた琥樹は、驚きながら能探に入る。
”ピーッ!”
--30--
「相変わらず少ねっ。」
ボソッと赤茶髪の少年が呟くと、琥樹が涙目でキッと睨んだ。そんなことをよそに、ココロは呟く。
「やっぱり・・・・」
「なんや?」
「普通は今みたいに、セカンドの力を持たないプライマルは、”0”が表示される。そして、セカンドの力が少しでもあれば、その0以外が表示されるはず。つまり、セカンドの力がないプライマルなら、”0”が表示されるはずだ。」
ココロの言葉に、赤茶髪の少年が口を挟んだ。
「能探が、単に壊れてるって可能性は?」
「0ではないけど、ほぼ無いだろう。今俺たちも入って、 伊久磨たちも、この間試しに入ってみたんだろう?ここにいる人間は、正確に調査できているんだ。だからむしろ・・”0”が表示されないってことは、幸十はプライマルじゃないってことなんじゃないか?」
「そっか・・・じゃあ・・・セカンド?良かったじゃない。」
ミドリが考えながら聞くも、ココロは首を横に振った。
「いや、それも断言はできません。セカンドであれば、体内に保有するセカンドの力の数を表示しますから。」
説明のつかないこの状況に、皆行き詰まり沈黙が流れた。
「・・・まぁ、考えても分からないものは仕方ありません。とりあえず、幸十くんは”セカンド(仮)”ってことで!はい、ホットミルクのおかわりです!」
「セカンド(仮)!!?」
幸十が飲みきったホットミルクの容器に、呑気に追加する坂上。
坂上の曖昧な解決策に、バンやココロが食い付こうとしたが、みんなの脳裏にとある計算式がよぎる。
「・・・・セカンド(仮)でいいな。」
「そうですね。セカンド(仮)で。」
「え、ちょっと!また考えるの辞めてる!」
「元々セカンド以外の選択肢なかったからなぁ、ええんちゃう?」
「いいじゃない。何か・・・新しくていいじゃない、(仮)って。」
「テキトーすぎる!!!」
投げやりになるバンたち。
そんな姿に赤茶髪の少年は呆れながら、ホットミルクをゴクゴク飲む幸十を見た。
「・・・セカンドって言っても、そんな枝のような身体で戦えるんですか?琥樹よりひ弱そう。」
「ちょっと!言い方!俺はひ弱じゃない!怖くて逃げてるだけだよ!」
「余計タチ悪いわ。」
言い争う琥樹と赤茶髪の少年をよそに、坂上は何やら考え始めた。
・・・暫くして、何か思いついたのか、赤茶髪の少年たちの方を向いた。
「伊久磨くん、岳くん。久々にご実家に帰りませんか?」
「・・・え?」
「は?何いきなり・・・」
唐突な発言に、伊久磨と岳と呼ばれる少年たちは驚いていると、坂上は笑顔を崩さず続けた。
「うん、そうですね。そうした方が良いでしょう。ずっと帰られてませんよね。きっと、あの方も心配してらっしゃいます。」
「え、あ・・・」
「ちょ・・・」
どんどん話を進める坂上は、手を叩いて戸惑う二人の方を振り返り言った。
”パンッ!!”
「帰りましょう!幸十くんを連れて!」
「・・・は・・・・はぁ?!」