
王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第7話
第7話 山奥のセカンド
ーー前回ーー
ーーーーーー
「ぎゃっひゃっひゃっひゃっ!!!なんじゃそれ!!コウモリ部隊自慢の”コウモリの翼”も使えず、生きとる馬も食べようとするセカンドとは!!ひゃっひゃっひゃっ!!こりゃ愉快!!!」
「セカンド(仮)だよ。」
「ひゃっひゃっひゃっ!!!」
伊久磨と岳の実家があるナゼナゼ山を登っていた3人は、揉めに揉めていた時、その山に住む2人の祖父に出会った。その後、風のセカンドである祖父により、3人は山の中腹にある家に何とか辿り着いたのだった。
3人ともかなり疲れ切っており、風呂を済ませ、現在食事にいたる。
その最中、ここまで来た経緯を話すと、祖父は豪快に笑い出した。
「相変わらず、うるさいじじぃだな。」
祖父の笑い声に、伊久磨が呆れていると・・・
"ゴツン!"
「っい!!?」
「すまない、少し手が滑ったようじゃ。」
祖父の容赦のない鉄拳が、伊久磨の頭に振り下ろされた。
そんな2人にお構いなく、幸十は目の前の食べ物をどんどん口に運んでいた。
「さ・・・幸十・・・すごい食べるね。」
「うん。お腹空いてたんだよね。」
「そ、そうだよね。(生きた馬を食べそうになったんだもんね・・・。)」
岳が若干顔を引き攣らせながら、幸十の食べる姿に驚いていると、二人の祖父は手に持っていた瓶を机に勢いよく置いた。
"ドンッ!!"
「お、よいのよいのぉ!!最近の若者は元気がない!!食事も、ちーとばかししか食べようとせん!!そんなんでどう戦うというのだ!!」
「今は休戦中だろ。」
"ゴンッ!"
「・・・っい!!」
「ほれほれ、もっと食べんしゃい。」
二人の祖父は幸十の食べっぷりに、嬉しそうに自身の食べ物も差し出した。
「で、お前さん、名はなんという?」
「ナマエは・・・幸十。」
「ほぉ、幸十か。縁起のええ名前じゃな。わしは、 澄徳。伊久磨と岳の育ての親じゃ。なんじゃ、お前は二人と、仲良くしてくれてる子か?」
「ちげーよ!そもそも、会って二日くらいしか経ってねぇし。」
「・・・?なんじゃ、お前たちにやっっっっっと仲の良い友達ができたから、紹介しに帰ってきたんじゃないんか?」
「ちーがーう!!ってか、俺らは友達作るために太陽城に居るわけじゃねぇから!!」
伊久磨が呆れながら澄徳に反論すると、ただでさえ小さな体が、しゅんっと更に小さくなった。
「・・・なんじゃ、そうかぁ。お前たちは、本当に性格がどうしようもないからのぅ。岳は可愛いところもあるんじゃが、引っ込み思案やし、伊久磨はこの通り。口だけは達者になって・・・。昔はじぃじ、じぃじと・・・・・」
「だまれ!!」
伊久磨は顔を少々赤くさせて、澄徳の口を塞いだ。隣にいた岳も、疲れが取れてきたのか笑顔を見せていた。
雲の宮殿では、冷静さを保っていた伊久磨の変わりように、幸十は顔を赤くする彼をじっと見つめる。
"ガシッ"
「ふがっ。」
「こっち見んな。」
伊久磨が幸十の顔を鷲掴みにしていると、澄徳は何やら少し考え始めた。
「——はて・・・そしたら、何故お前たちは帰ってきたんじゃ?何かやらかして追い出されたんか?」
「ちげーよ!!はぁ・・・。坂上が、幸十連れて、じじいんとこ行けって。」
「——ほぉ・・・・」
その言葉に、澄徳は伊久磨に鷲掴みされている幸十をじっと観察し始めた。その様子に、岳が口を開く。
「たぶん・・・じぃちゃんに、”血錬”をつけてもらいたいんだと・・・思う。」
「血錬を?・・・なんじゃ、お前さん、歳はいくつだ?」
”もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ・・・・”
「んー、どうだろう。」
「なんじゃと?」
幸十の曖昧な回答に、澄徳が困惑していると、見かねた伊久磨が口を挟んだ。
「・・・~、俺も良くわかんねぇけど、幸十、記憶喪失らしい。」
「記憶喪失じゃと?なんじゃそれ、上層部が都合の悪い時に使うアレか?・・・ふむ。」
「幸十、たぶんセカンドだから、一から鍛錬しろって意味合いじゃねぇの?」
伊久磨は疲れたのか、奥にある藁で作られたフカフカの椅子に座った。
「なんじゃ、たぶんセカンドて。何から何まで曖昧じゃな。」
「こっちにも色々あんだよ。」
「なんじゃ全く・・・。それが人に頼む態度かね。」
「別に俺は頼んでねぇよ。隊長に言われたのは、幸十連れて、じじいんとこ帰れってだけだから。」
面倒くさそうに、藁の椅子であくびしながら寛ぐ伊久磨を見て、澄徳がため息をつくと、まだ食べ続けている幸十に視線を向けた。
「幸十よ。血響は、どこまで使えるんか?」
「けっ・・・きょ?」
「じいちゃん。たぶん・・・・本当に、初歩の初歩から話さないとわからないかも・・・」
「本当に何にも知らんのか。・・・ちなみに、お前たちの隊長は、いつまで休暇を出したんじゃ?」
澄徳の問いかけに、伊久磨は頭に手を当て、坂上に言われた記憶を掘り出す。
『とりあえず、3ヶ月くらい、ゆっくりしてきていいですよ~。あ、任務入りましたら別ですけど。』
「・・・ぁあ。とりあえず3ヶ月って。」
「ふーむ。よし、分かった。今日はもう疲れてるじゃろう。明日から、わしがソール式の血錬をしてやろう!!ひゃっひゃっひゃ!!わしの血錬は抜群じゃ!!色々なやり方の中でも、ずば抜けて効果が高いソール式をさらに効果がでるよう、わしが改良したんじゃからな!!」
「おい、じじいの血錬は、まじでキツいから覚悟しとけよ。」
伊久磨が幸十に言うと、いつのまにか隣に来た澄徳が、伊久磨の耳を持ち上げた。
"グィッ"
「いっ・・・・!!!」
「伊久磨も、さっき見た限り、かなり体力が落ちてるようじゃな?明日から一緒に血錬じゃ!!」
「はぁぁぁあ?!?なんで俺も・・・・」
「つべこべ言うんじゃない!!」
伊久磨と澄徳がごちゃごちゃ言い争っていると、話を理解していない幸十に岳が付け足した。
「その・・・じいちゃん、昔ソール軍でセカンドとして活躍してたんだ。一時期は、副隊長にまで上り詰めた上級のセカンドでね。まぁ・・・その・・・ちょっと、厳しいところはあるけど、セカンドとして戦うために必要なものとか色々教えてくれると思う!!じいちゃん、たくさんのセカンドを育成して、今の強いソール軍があるし!!この血錬、受けといて損はないと思う!!」
「けつ・・れん・・・・?」
明日から何がどうなるのか理解が進まない幸十だったが、とりあえず、澄徳の出す食事は美味しいことだけは分かった。