王神愁位伝 プロローグ 第5話
第5話 憎しみと罰
ー 前回 ー
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※本話では、暴力的な展開や文言が出てきます。苦手な方はお避けください。
”アオーーーーン!!”
狼たちの遠吠えが、この敷地全体に鳴き響く。
子供たちは怯えながら、東塔の前にいる爛の元に集まる。
見るからに不機嫌そうな爛の様子から、罰を受けるのではないかと怯える子供たち。
怯えながらも、爛や狼たちの元に集まる。どの子供も、ボロボロの服と身体で、今にも崩れそうな精神を何とか耐え歩いていた。そんな様子を、まるで汚いものを見るような目で、爛は見ていた。
「もたもたしてんじゃねーよ!!下等種族共が!!」
子供たちは、より怯えながらも急いで爛の元に走って行く。
奴隷としてここにいる子供たち数十人が集まったことを確認し、待ちきれないのか正確に人数を数えることなく爛は、大きな声で怒鳴り始めた。
「このクソ野郎どもがぁぁぁぁぁああ!!ネズミ一匹、この敷地に入れるなと言ったよな!!?おい!これを見ろ!!」
”ドサッ”
先ほど少女の部屋で捻り潰したネズミを手から落とした。といっても、爛が捻り潰したことによりほぼ跡形がなく、ネズミの内臓や目玉などぐちゃぐちゃだ。血まみれのネズミが子供たちの目の前に落とされると、あまりにも無惨なネズミの死骸に青ざめた。
「きゃーーーーー!!!」
「っひ!!!」
「うおぇぇぇぇえ…」
子供たちは大きな恐怖から叫びだしたり、吐き出す子もいた。その場にいた子供たちはパニック状態となっていた。
「もうやだぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
一人の子供があまりの恐怖に逃げ出そうとした。
しかし・・・
”ザッ!!”
「・・・あ・・・あぁ・・・あ・・・」
目の前に狼たちが立ちふさがった。
子供たちの数十倍も大きな身体と鋭い牙を向ける狼たちに、逃げ出そうとした子供は腰から崩れ落ちてしまった。
そしてそのまま狼にくわえられ、爛の目の前に落とされた。爛の痛いほど冷たい視線に、もはや悲鳴さえも出せない程だ。
「あ・・・あ・・・」
涙が止まらない子供。そんな子供に構うことなく爛は地面に手を付けると、いつものように爛の手元に草や苗木が集まり、あの痛い鞭が現れた。その鞭を持つと、逃げ出そうとした子供を見て、口から牙を覗かせながらニヤッと笑った。
「おい。いつ逃げていいって言ったよ。あ?」
「・・・お・・・お母さ・・たす・・・」
怯える子供にじりじりと詰め寄る爛。
”パ――――ン!!!”
鞭を一度、地面にたたきつけると物凄い音が辺りに響いた。
周囲の子供たちも、恐怖から何も言えずにいた。
「掃除も出来ねぇ。言うこと聞かねぇ。ただ泣くことしかできない弱い奴に・・・そんな奴に生存価値があんのか?!あ?」
そして、鞭を子供に向け振り落とす。
”パ―――――ン!!!”
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
同時に、子供の悲鳴が響き渡る。
「この逃げ出すしか能のない、クソどもが!!」
”パ―――――ン!!!”
それからは暫く、逃げ出そうとした子供に鞭を叩き続ける爛。
数発も経たない内に、叩かれた子供からは血が飛び散る。
爛の鞭は、ただの鞭ではない。他の鞭で打たれるよりも数十倍痛い。
どうしてこんなに痛いのか分からないが、何か痺れるような感覚と同時に肉を抉られ、どうしようもない痛さがか弱い子供たちを襲う。
鞭で叩かれた子供は大体数日・・・いや数か月は動けずにいた。ちゃんとした治療もしてもらえないので当たり前かもしれない。
「い・・いた・・・ぁぁぁぁぁああああ!やめてぇぇぇぇぇぇえええ!!」
子供の悲痛な懇願もお構いなしに続ける爛。
周囲の子供たちは、ただそれを見ているだけしかできない。次は自分の番かもしれない。そんな恐怖とずっと戦っていた。時計もカレンダーもないこの場所では、子供たちはどのくらいの月日をここで過ごしているのかも分からない程に感覚を麻痺させられている。
「やぁぁぁぁぁあああ・・・!・・・おか・・・おかあさん!・・・たすけて・・・たす・・・」
目の前で叩かれている子供を助けようなどと、爛に歯向かう勇気も力もない。じっと爛の怒りが収まるのを待つことしか出来ない。
暫くすると、叩かれている子供からは悲鳴さえも聞こえなくなっていた。
ひたすら血が飛び交い、死んでしまうのではないかというほどだ。しかし、一向にやめようとしない爛。一心不乱に、かなりの憎しみを込めて子供に鞭を撃ち続ける。
”ガサ”
そんな時、背後に気配を感じ、勢いよく爛は振り返った。
そこには、オレンジ髪の少年が突っ立っていた。その様子に、獲物が増えたと言わんばかりに、獣のような形相でオレンジ髪の少年を見た。
「おい・・・てめぇ・・・。俺の招集に遅れてくるなんて、どういう度胸してんだ?あ?」
爛は、そのままターゲットをオレンジ髪の少年に変え、血が付いた鞭を持って少年に近づいた。
少年は特に表情も変わらず、奥にいる怯えた表情で縮こまっている子供たちや鞭で打たれ、意識がない血まみれの子供をじっと見た。少年の視線の先を見て、爛はニヤリと笑う。
「てめぇもすぐにああしてやるよ。」
そして、今度はオレンジ髪の少年に鞭をふるう。
”パーーーーーン!!”
昨日もこっぴどくやられた少年の身体は、誰よりも傷だらけであった。そんな状態でも、表情一つ変えず、悲鳴をあげたり恐怖で縮こまることもない少年。地面に倒れこみ、ただただ鞭が打たれ終わるのを待つ。
「っち。キモイやつ。表情一つも変わらねぇ。」
更にイラついたのか、爛は鞭で叩き続けた。昨日の治りきってない傷の上から、更なる傷をつけられるのは相当な痛さであろう。しかし、少年も反抗しなければ、見ている子供たちの誰もが助けようとしない。
ー 彼らは無力だから。
力を持つ爛に到底及ばない。誰も。
表情は変わらずとも体力は無限ではない少年は、徐々に物凄い痛みとともに、意識を失いかけていた。
ー その時
「おーーーーいっ!爛~。」
この場にふさわしくない高い無邪気な声に、爛は我に返り声のする方へ顔を上げた。そして、そこにいる人物を見た瞬間、オレンジ髪の少年から手を離し駆け寄った。
「オルカ様!!」
そこには、色彩鮮やかで不気味な鳥の形の仮面をつけた人物が、爛に手を振りながら立っていた。その周りには、これまた恐怖をそそる白いトカゲの様な大きな化け物がいた。赤い目に両手は鋭い鎌のように尖っている。そして、額には月の刻印。
口を開ければ狼たちよりも狂暴そうな鋭い牙があり、更に恐怖をそそる。
そんな怪物たちの後ろには、新しい子供たち十数人がいた。
ーー次回ーー
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