王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第27話
第27話 琥樹の予感はよく当たる
ーー前回ーー
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氷山の西側地区。
"ずるずるずる・・・"
「はよ太陽の泉入ってあったまるで~!ふんふ~ん♪」
「・・・ぅう・・・やだ・・・帰りたい・・・ぐすん・・・俺、休息で来たのに・・・。なんでまた任務してるの・・・ぅう・・・こんなの詐欺だ!!」
不貞腐る琥樹を、洋一は引きづりながら歩いていた。
夕貴たちと別れてから、琥樹はずっと不貞腐れて動かないため、洋一が引きづりながら一先ず歩いていた。
「何ゆーてんねん。はよシャムス軍の隊員はん探せば太陽の泉に入れるんやで?こんな楽しみな任務ないやろ!マダム出てきても、どかーーんっと倒せばええねん。」
「いやだよ!マダム、気持ち悪いじゃん!嫌悪感しかないんだよ!!身体全体から拒否反応が・・・ぁあ・・・。あの鎌で今度こそ切られたら死んじゃう!」
「大丈夫やて。人間、マダムの鎌に切られたくらいで死にゃあせん。」
「死ぬでしょ!!実際死んでるでしょ!!マダムは、太陽族を殺すために月族が作った正体不明の兵器だよ?!もーー!!休戦中なのに、なんでマダムはいるんだよ!!」
"ガサッ"
「ひぃ!!!」
愚痴をこぼしていると近くの茂みから物音が聞こえてきた。琥樹は微かな叫びを発しながら、勢いよく洋一に抱きつく。
「なんや?マダムか?」
よく見ると、木の葉から雪が落ちただけのようだ。
「違うようやな。まぁ、こんなタイミングよく出てくるわけないか!そんな怖がんなくたってな。この洋一様がついてるからな!!」
「ぅう・・・嫌なものは嫌なの!!ぐすん。ぁあ・・・嫌な予感する・・・お腹いたい・・・」
"ガサッ"
「ひぃ!また!!」
また物音がするも、雪が葉から落ちただけのようだ。
あまりにも怖がる琥樹に、陽気に笑う洋一。
「あっはっはっは!琥樹、怖がりすぎやて。そりゃマダムが発生したことあるゆうても、話聞いとるとここに100回来て1回会うかどうかぐらいの確率やで?これで会うたら、俺たちかなり・・・」
"ドンッ"
陽気に琥樹を引きづりながら歩く洋一に、何かがあたった。
「ん?」
そう何かが。
前を見ると——
"キィィィィィイン"
「あ、会うたな。」
「ぎゃぁぁぁぁあああ!!!でたぁぁぁぁあ!!ほらいるじゃん!!!!」
洋一がぶつかったのは、まさしくマダム。
琥樹の叫びと共に鎌を振り上げるマダムに、洋一が琥樹をすぐさま抱え上げて、体制を低くした。
"ビュン!"
「ぎゃぁぁぁああ!!おし・・・!!!お尻が・・・!!!!!」
洋一が体制を低くしたことによりマダムの鎌は避けたが、ギリギリ琥樹のお尻をかすった。
"ガシッ"
「お?」
"ビュンっ!!!!"
すると今度は琥樹が洋一の手を掴み、引きづりながら思いっきり走り出した。それはもう全速力だ。
"ビュン!!"
「うはははっ!!さすが琥樹!セカンドなだけあって、走るの速いなぁ~!」
「いやぁぁぁぁぁぁああ!!マダムっ!マダムっ!ひぃぃぃぃい!!」
「おうおう!!あははっ!マダムもすごい勢いでついてきてるでー!ほれほれ~」
洋一の言葉に、全速力で走りながら恐る恐る琥樹が振り返るも・・・
"キィィィィィイン"
「うわぁぁぁぁあああ!!」
かなり近くまでマダムが迫って来ていた。
走る速度をどんどん上げていく琥樹。先ほどとは大違いだ。
「うわぁっ!何や琥樹、シャムスのソリより速いなぁ~!」
「ちょっと!!関心してないで、どうにかしてよ!!うわぁぁあ!後ろ!!ぎゃぁぁぁあああ!!」
"シュン!"
"サッ!"
"シュン!"
"サッ!"
近づいてきたマダムが鎌を振るも、逃げながら見事に攻撃をかわす琥樹。
「ほ~!良くかわすな~。」
「だ、だから!はやく!!うわぁぁあ!また来たぁぁぁあああ!!!」
琥樹に引っ張られながら腕を組み、考え始める洋一。
「そやな~。このまま走ったとこで、琥樹の体力がなくなるだけやな。」
すると、洋一はニヤッと笑い、自身の太陽のブローチの金具を引っ張った。
"ヒュン!!"
「うわ!!」
「なら、飛ぶまでや!!!」
コウモリの翼を広げると、琥樹の掴み、そのまま空中を飛び出した。
「うわぁ!!」
その後をマダムも追ってくるも、洋一は翼を思いっきり広げ——
「よっしゃ!とりあえず全速力や!!!」
「え」
"ビュン!!!"
腕をこれでもかと広げ、翼を飛ばす。かなりのスピードだ。氷山の木々を華麗に交わしながら飛んでいく洋一。
「上行ってもええが、他にもいるマダムに見つかると面倒やしな。このまま低空飛行や!」
「うぷっ・・・は、はや・・・」
掴まれている琥樹は、あまりの速さに顔を真っ青にした。
「おいおい、琥樹。はよセカンド解放せい。多分一体やないで。とりあえず逃げるから、はよ体制たてて。」
「ぅぷっ・・・あい・・・」
しかし——
"ドゴーーーーーンッ!!"
「うぁあっ!!!」
”ズシャァァァァアアア!!!”
いきなり洋一と琥樹の前に、巨大な竜巻が現れ、驚いた洋一は体制を崩しそのまま飛ばされながら倒れた。
「・・・っい!?!」
落ちた琥樹が衝撃に耐えながら起き上がると、その先に洋一が倒れていた。辺りの雪が、洋一の血で赤く染まっている。
落ちた反動で、近くの木にどこかぶつけたようだ。
「よ・・・洋一さん!!!」
急いで琥樹が駆け寄ろうとしたが・・・
"ビリビリビリッ!!!"
「ッカハ!!!」
首の後ろに、何か電流を流されたかのような衝撃を感じ、その場に倒れた。
(ま・・・まずい・・・マ・・・マダムが・・・)
急いで立とうとするも、痺れて動けない琥樹。
(——この攻撃は・・・セカ・・・ンド・・・?)
薄れゆく意識の中琥樹が考えていると、人らしき気配を感じたものの、そのまま意識を失ってしまった。
"ッザ・・・"
倒れ込む洋一と琥樹に、いつのまにか集まった無数のマダムと共に、2つの人影が近づいていった。
ーー次回ーー
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