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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第55話

第55話 最強のコウモリ

ーー前回ーー

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——時は少し遡る。



"ガタガタガタガタ・・・"
広大な雪の大地を、一台の少し年季が入ったソリが走っていく。



綺麗な兄ちゃん・・・・・・・シャムスここには何用で?」
ソリ引きの老人が、後方に座るとある人物に、嗄れた声で尋ねた。

老人の言葉は決して大げさではなかった。
その人物の美貌は、見る者の目を奪うほどである。
白い肌は、まるで大理石の彫刻のよう。切れ長の瞳は、深淵を見ているようであり、長いまつ毛は、陰影を際立たせて、どこか憂いを帯びていた。
綺麗に整えられたおかっぱの黒髪は、光の加減で紫に輝き、彼を神秘的な雰囲気に包んでいた。

にもかかわらず、その表情はどこか無機質で、老人の問いかけに答える気配はなかった。

「その服は隊服かえ?・・・はて、紫の隊服・・・・なんて、あったかねえ?シャムス軍は水色だしな・・・」
その人物は、紫紺の隊服に胸には太陽のブローチをつけていた。
そしてその上には黒いマント・・・いや、コウモリの翼・・・・・・を羽織っている。

「・・・・別に。野暮用だ。」
老人の質問攻めに、その人物は不機嫌そうに答えた。やはり喋ると、低く滑らかな声色は男である。容姿から見て、まだ10代後半くらいの若者だろうか。


"・・・ピクッ"
すると、その青年は何か察知したのか、まつ毛の長い瞳をどんよりとした曇空に移した。
暫くすると・・・・




"キィィィィィイン!!!!!!!"




「・・・!!ひっ!!?マ・・・マダムか?!?な・・・なんだあの大群!!!!?」
老人が怯えるのも無理はない。空を覆いつくさんとばかりの大量のマダムがソリと同じ方角を目指し勢いよく飛んでいた。その様子に青年は眉を顰め、無数のマダムたちをじっと見つめる。



(・・・おかしい。)



”バサッ!!”
すると、太陽のブローチに付いている金具を引っ張り、青年はコウモリの翼を広げた。

「ど・・・・どうしたんだ、綺麗な兄ちゃん!」
「——ここまででいい。あんたはこのまま逆の方向へ戻れ。巻き込まれたくなければな。」

"シュン!!!!"
それだけ言うと、広げた翼で上空に勢いよく飛び立つ。向かうは大量のマダムたちの方だ。
かなりのスピードで移動するマダムたちは、もう随分先にいる。

(・・・やっぱりおかしい。何故俺たちに気づかず通り過ぎる?あんなに人間の気配に敏感なマダムが・・・。まるでどこかに急いで向かっている・・・・・・・・・・・みたいじゃねぇか・・・・。)

青年は少し考えると、徐に太陽のブローチを触った。
(確か・・・・)

"ザザッ・・・"
「おい。聞こえるか、ココロ。」

通信先は太陽王直下調査部隊 戦術班のココロ。
「"え・・・し・・・紫戯しぎか?!?"」

この青年は、同じく太陽王直下調査部隊・・・通称、コウモリ部隊のセカンド・・・・
名前は紫戯しぎ

「"あ・・・ま・・・待ってください!!"」
何やらココロの無線が騒がしいが、紫戯しぎはそのまま続けた。

「今、目の前を大量のマダムが通り過ぎた。・・・シャムスで何が起きてんだ?」
紫戯しぎは、先を進む無数のマダムたちに鋭い視線を投げながら呼びかけると・・・

「"紫戯しぎ!!それ!!それ追いかけてくれ!!"」
「・・・あ?」
「"え?!しーくん?!うっそ!!ジャストタイミングじゃん!!"」
「"紫戯しぎか?!はよ!!はよその大群追いかけてや!!"」
「・・・・・・。」
かなり騒がしい。
紫戯しぎは眉を顰めながら無線をじっと見ると、面倒くさそうに切ろうとした。

"ザザッ"
そのタイミングで、何か無線が揺れたかと思うと・・・
「"やっっっだ!!紫戯しぎちゃん?!?うっそでしょう!?!もう来てくれたの???!!!!今どこ??!!!"」

今度は、何やら興奮気味のシャムス軍軍隊長 夕貴ゆうきの声が辺り一面に響いた。
かなりの声量に、紫戯しぎは耳を塞ぎ、イラつきながら言った。
「・・・・おい、切るぞ。」
「"あー!!待って待って待って!!"」

再び切ろうとする紫戯しぎに、必死で止めるココロ。
「"そ、その、あまり時間ないから要点だけ話す!!紫戯しぎが見た大量のマダムが、首都シャムスに攻撃するために向かってるんだ!!今、シャムスには軍隊長も副隊長も地方庁長もいなくて・・・・主要な戦力がほぼほぼない状態なんだ!!俺たちも色々あって太陽の泉にいて、すぐ首都に向かえない。頼む!どうにかしてくれ!!"」
「・・・・・お前、本当に戦術班の人間か?」

ココロのかなりアバウトな説明に、紫戯が皮肉を込めて聞く。
「"ごめん!もう頭が働かないんだ!!"」

紫戯しぎが呆れながらブローチをじっと見ると、ふとため息をついた。
「・・・・わかった。とりあえず首都に向かう。」

すると、無線からは夕貴の声が。
「"紫戯しぎちゃん。"」
「?」
「"ありがとう。シャムスのみんなをどうか・・・・どうかお願い。"」
「・・・・。」

”ブツッ”
夕貴の切実な声色に、紫戯しぎは少し考えるも、何も返さず無線を切った。そして、コウモリの翼を大きく広げ、首都シャムスを目指し飛び始めた。


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第四血響、稲妻の裂空いなずまのさっくう

"ピカッ!!!!!"




「!?」

瞬く間に、周囲が眩しいほどの光に包まれると・・・


"ドゴォォォォオン!!"
"キィィィィィイン!!!"

雷のような大きな電流が、どんよりと広がるシャムスの雪雲を貫き、かがりの目の前にいた大量のマダムたちに直撃する。
一瞬にして、マダムたちは黒い粉塵と化し、辺り一面を覆い尽くした。まるで黒い雪が降り積もったかのように、かつて生命があった形跡すら見当たらない。
あまりの強烈な一撃に、かがり含め周囲にいたシャムス軍たちが呆気に取られていると・・・



"トンッ"



先程まで大量のマダムがいた場所に、コウモリの翼を広げた紫戯しぎが降り立った。紫に光る漆黒の艶やかな髪をなびかせ、両手には黄色く光る刃・・・・・・と、濁った赤さを放つ刃・・・・・・・・を持っている。

「・・・ちっ。くそ不愉快だな。」


紫戯しぎは不機嫌そうに眉をひそめ、咄嗟に周囲の状況を目で追う。
——シャムスの隊員以外、人が見当たらない首都シャムス。
——蔓延する無数のマダムたち。
——あちこちで力尽きるシャムス軍たち。



(・・・っ?紫紺の・・・隊服・・・?)

意識がはっきりしない中、かがりは突然現れた紫戯しぎに話しかけようとした。
しかし——



"キィィィィィイン!"
まだまだマダムは沢山いる。再びマダムたちが、かがりたちのいるシャムスの傘に集まってくるも・・・・

「第六血響 雷轟双龍撃らいごうそうりゅうげき!!!!」

"シュン!!!"
紫戯しぎはコウモリの翼を広げ、暗闇を切り裂くように空中に舞い上がった。
両手に握っていた武器を力強く振り回し、閃光を伴ってマダムたちめがけて投げ出す。武器から放たれた電流は、まるで生きている龍のごとく唸り声を上げ、マダムたちを次々と焼き尽くしていく。そして、再び手元に引き寄せられた武器を巧みに操り、残ったマダムたちを斬り裂く。その速さと攻撃力に、かがりたちは思わず見惚れるしかなかった。


(こんな攻撃力・・・・並大抵のセカンドじゃ・・・)

かがりが考えていると、ふと夕貴の言葉を思い出した。

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『やだ!!紫戯しぎちゃんを派遣してくれるって~!!たまにはいい事するじゃない!!坂上!!』

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太陽の泉に出発する前、コウモリ部隊隊長 坂上からの手紙を読んで興奮する夕貴の姿に、かがり納得した。

(なるほど・・・厳しい軍隊長が大喜びするもんだから、どんな人かと思えば・・・・これは欲しがる訳ね。)
かがり紫戯しぎの圧倒的な強さに息をのんだ。


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『軍隊長がシャムスに引き入れたいって・・・どれだけ凄い人なんですか、その人。』
『ふふふふ・・・・紫戯しぎちゃんはね、最強のコウモリ・・・・・・・だからね。あんたも、紫戯しぎちゃんの戦う姿みたら納得すると思うわよ。外見も私の好みだし~。戦う姿なんか、惚れ惚れしちゃうわよ~。』

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(本当・・・・最強のコウモリ・・・・・・・と言われるだけありました。)

どんどん押し寄せるマダムたちにも、紫戯は攻撃をやめず素早い動きと攻撃力で片付けていく。先程苦戦していたのも馬鹿らしく思えるぐらいだ。
数いてもマダムたちには到底敵わない。そう思わせる紫戯しぎの強さ。

暫くして、紫戯が呆然と座り込むかがりの前に来た。
”・・・ッザ”
「——おい、今指揮取ってるのはお前か?」
「え、あ・・・そうよ。」

"ガキン!!"
すると紫戯はマダムの攻撃を跳ね除けながら言った。
「面倒だから、一気に片をつけたい。どこかこいつらを集められる場所を教えろ。」
「い・・・一気に・・・?そんな・・・この量をどうやって・・・」

かがり紫戯しぎの言葉に驚きながらも、目の前に迫りくる無数のマダムに考えた。
そして・・・
「あ・・・」
「どこだ。」
「いや、その・・・・」

かがりは何やら俯き言い淀んでいると、紫戯しぎはそんなかがりに顔を近づけた。
どこか人を魅了する紫戯しぎの端正な顔立ちに、かがりは心臓が跳ね上がっていると、関係なく紫戯しぎは言った。






前を向け、覚悟を決めろ。





「!!」
「お前が迷ってる間に、お前らの仲間がばっさばっさやられてくぞ。」



紫戯しぎの言葉が、輝の心に突き刺さった。
彼女は一瞬、迷いの表情を見せたが、すぐに決意を固めたように、力強い瞳で紫戯しぎを見つめ返した。
「ち・・・地方庁・・・よ!!!軍基地はこの通り、シャムスの住民たちが避難してるから・・・他に大きな建物と言ったら・・・!!!」

その提案に、紫戯しぎは不敵な笑みを浮かべた。
「っは、最高じゃねぇか。おい、まだ動けそうな奴らに無線を投げろ。」
「何を・・・・」
誘導係・・・が必要だろ。マダムやつらを地方庁に集めるためのな。」
「でも・・・どうやって・・・」
「ちょっとは頭使え。マダムやつらが敏感なのは何だ?」

紫戯しぎは、目の前に迫りくる大量のマダムを処理しながら、かがりに問いかける。
「えっと・・・人の気配と・・・・・・あ。」

何か察したかがり。その様子に紫戯しぎは続けた。
「地方庁にマダムやつらを誘導してぶち込め。そうすれば、後は俺が何とかする。」

そう言い張る紫戯の逞しい背中を見ると、かがりは頷くしかなかった。
シャムスの大空襲以来の最大の危機。迷っている暇などない。かがりは太陽のブローチを握りしめると無線を使った。

「まだ動けるシャムス軍!!聞こえるか!!」
息絶え絶えなシャムス軍たちは、かがりの無線に身体を反応させた。

「マダムたちを地方庁に閉じ込める!!」
突然のその言葉に、驚くシャムス軍たち。
しかしかがりは続けた。

「何か音を立てながら、マダムの気を引いて地方庁まで走って!!地方庁のドアは開けておく!!入ったらドアの反対側の窓を開けておくので、そのまま地方庁の中を走り抜けなさい!!色々疑問があるだろうけど、そのことに全力を出して欲しい!!その後のことは、”最強のコウモリ・・・・・・・”がどうにかしてくれる!!シャムスを・・・みんなを守るのよ!!!!!」

そのかがりの言葉に、再びシャムス軍たちの瞳に光が入る。
みんなボロボロだが立ち上がると、それぞれ音が鳴りそうな物を拾い、鳴らしながら地方庁を目指し始めた。

その様子に安堵するかがりだったが・・・
"ガシッ!"
「え」

紫戯しぎかがりを肩に抱き抱えると、コウモリの翼を広げた。
”バサッ!”
そして・・・

"ヒュュュュュュユン!!!!!!"
「きゃあ!!!」

何も言わず突然、高台にあるシャムスの傘から飛び立った。
心の準備もなく起こった出来事に、かがりは思わず叫んだ。
「大人しくしろ。お前は地方庁で指揮と、集めたマダムが逃げ出さないようにしてもらう。急いで地方庁へ向かうぞ。」

”キィィィィイイン!”
しかし、そんな紫戯しぎたちにも容赦なくマダムたちは襲ってくる。
その様子に、紫戯は間髪いれず空中で武器を投げた。

「第六血響 雷轟双龍撃らいごうそうりゅうげき!!!!」

"ビリビリビリッ!!"
間近で見た紫戯の攻撃力に改めて感心しているも・・・

"ギュイン!!"
「うわぁっ!!」
急旋回する紫戯。そして攻撃しようとしたマダムを戻ってきた武器を掴み、そのまま切り刻む。あまりの神技に驚きながらも、ハードな飛行に心臓が飛び出そうになるかがり
マダムとの攻防が続きながらも地方庁に降り立つと、かがりを下ろし紫戯しぎはまた飛び立とうとした。

「ど、どこに?!」
「ノンけなお前らの援護だよ。お前は早く、マダムやつら墓場・・を準備しとけ。」

そう言って飛び立つ紫戯。
かがりも重い身体を立ち上がると、自身の数十倍はあるであろう地方庁の重い扉を開けた。
”ゴゴゴゴゴゴ・・・・”
"キィィィィィイン"

すると数体、すでにマダムが彷徨っていた。その様子に、かがりは苦い笑みを浮かべながら、心の中で警戒を強めた。
「・・・・っ!・・・ちょうどいいわ。貴方たちで実験・・ね。」







一方シャムス軍たちは、必死に音を鳴らしながら、襲い掛かるマダムを連れ地方庁に向かう。みんなそれぞれ拾った楽器やフライパンを叩いたり、武器で地面を鳴らしながら駆ける者もいた。

——みんな一緒なのは、シャムスを守りたいという強い思い。

しかし、そんな隊員たちを嘲笑うかのようにマダムたちは容赦なく襲う。

"キィィィィィイン!"
「ひ!!」

「第二血響 雷鳴銃弾らいめいじゅうだん

"ビリビリ!!"
コウモリの翼を華麗にコントロールし、やってきた紫戯しぎがマダムを抑える。
「あ・・・・ありが・・・」
「早く行け、ノロマ!!!」
「え・・・あ・・・」
「じゃねぇと、マダムと一緒に切り刻むぞ!!」
「は・・・はいぃ!!!!」

見た目は、どう考えても自分たちより年下の、突然現れた青年に、皆こう思った。
(マ・・・マダムより怖いかも・・・)

マダムと紫戯しぎの迫力に押され、隊員たちの走るスピードが加速していく。紫戯しぎの援護もあり、どんどん地方庁に集まる隊員とマダムたち。

「早くこっち!!」
地方庁にはかがりが隊員たちを迎え入れる。

「そのまま走りなさい!!!」
かがりの言葉通り、隊員たちは大きな扉が開けた地方庁に走り入ると・・・・

"プルン!!!"


「・・・っ!これは!」
マダムたちが水で出来た壺・・・・・・のようなものの中に閉じ込められ、モゾモゾと動いている。そこにかがりがセカンドの力を入れ続けていた。

「早く!!!走り抜けなさい!!」
「は、はい!!」
どんどん入り、首都中のマダムが地方庁のかがりの作った水壺の中に閉じ込められていく。こんなにいたのかと、壺の中には数十・・・いや数百と入っていき、大きな地方庁を埋め尽くしていく。水壺はかなり膨張していき、かがりも限界が来そうな状態だ。

(・・・全部閉じ込めたか?)
紫戯しぎは空中からマダムが地方庁以外にいないか見渡し、いないことを確認すると、そのまま地方庁に急旋回した。

「おい!地方庁の扉閉じろ!!」
その言葉に、かがりはすぐさま外に出ると叫んだ。

「地方庁の扉を閉じなさい!!」
隊員たちに指示すると、隊員たちは重い扉を閉じ始める。
”ゴゴゴゴゴゴ・・・・”
"・・・・ピキッ"

「・・・・っ!!」
しかし、限界を迎えたかがりが力に耐えられなくなると・・・

"キィィィィィイン"
「うわぁ!!」
閉じていた扉に、水壺から逃れた数体のマダムが、隊員たちに刃を向ける。
(まずい!!マダムが・・・!!!)

”ッバ!!!”
すると、空から来た紫戯しぎがコウモリの翼をマダムたちに向け、咄嗟に麻痺針まひばりを放った。

"シュン!ブスッ!!!"
見事に当たり、マダムたちが地面に這いつくばり動けなくなった。その隙に隊員たちは地方庁の扉を閉める。
"ドォォォォォォン!!"

「し・・・閉まりました!!!!!」
閉まったのを確認すると、上空にいる紫戯しぎかがりが叫んだ。

「お・・・お願い!!!!!!!」

すると紫戯は、翼を広げ地方庁の上空に行くと、二つの武器をクロスさせ構えた。
そして——





第七血響・・・雷神の降臨らいじんのこうりん!!!!!




"ピカァァァァァァァァア!!"

物凄い光と共に——


"ドシーーーーーーーーン!!!!!!"


天を貫く雷鳴が轟き地方庁を丸ごと飲み込み、大地を震わせながら強力な威力の攻撃が下された。
あまりの光と威力に、そこに居たシャムス軍全員が立ってられず、身体を地面につけ瞳を閉じる。





"ピリ・・・ピリリ・・・"

暫くしてかがりたちシャムス軍が瞳を開き顔を上げると、目の前にあった地方庁はマダムと共に灰燼に帰していた。
先程まで、この首都に立派に聳え立っていた様相は跡形もない。

「ど・・・どんな・・・攻撃力を・・・」
「これは・・・凄い。」
驚く隊員たちをよそに、丸こげになった地方庁に降り立つ紫戯しぎ
その姿は、まるで神々しい破壊神のような姿であり、人々に恐怖と畏敬の念を抱かせた。焦げた庁舎を背景に、彼は黒い翼を広げ、周囲に満ち溢れる電気を操っていた。

紫戯しぎはマダムが全部消えたことを確認すると、曇り空が続くシャムスの空を憂鬱そうに見て呟いた。



「・・・・本当に、不愉快だ。」



その言葉と同時に、シャムス軍たちが雄叫びを上げた。
「ワーーーー!!!」
「マダムをやったぞ!!!」
「あの大群を!!」
「シャムスを守ったぞ!!」
「お、俺たち生きてる!!!」

みんな抱き合いながら喜ぶ隊員たち。
そんな中、跡形もない地方庁に立つ紫戯しぎをじっと見ていたかがりに、1人の隊員が駆け寄った。

「よ・・・良かったですが・・・地方庁を破壊して、だ、大丈夫でしょうか・・・」

心配する隊員をよそに、かがりは思わず微笑んだ。
「ふふっ。軍隊長ならこう言うわよ。」
「?」




上出来、ってね。





その言葉に、隊員も笑顔を浮かべた。
死亡者を出さず、負傷者のみで一難乗り越えた首都シャムスは、過去を克服したかのように、人々の命の光で眩しく輝いていた。



ーー次回ーー

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