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生活に寄り添う仕事

山口にファブラボを作ることに決めた2015年、台湾で開催されたものづくりの祭典「Maker Faire Taipei 2015」を見学に行きました。

「Maker Faire Taipei 2015」の会場入口

当時の会場の様子を撮影した動画を見つけました。懐かしい。

その時に出会った文創という言葉を、今改めて思い返しています。

台湾で進行中の文創ムーブメント

文創とは「文化創意産業」の略語で、英語ではCultural and Creative Industryと訳されます。台湾独自の伝統文化を取り入れた創作を奨励し、産業として発展させることを目的とする政策から始まったムーブメントです。

Maker Faire Taipeiの会場となった華山1914文創園区の名称にも、文創というワードが使われています。元々は日本統治時代に建てられた酒造工場で、1987年に操業停止して以来1999年までの12年間、ほとんど放置され廃墟状態でした。

レンタルスペース「東2A館」(華山1914公式サイトより引用)

その古い建物を壊さずリノベーションして、アートイベントの会場やレストランなどが一体となった複合商業施設にすることで、台北の新たな文化発信基地として生まれ変わりました。まさに文創の拠点とも言える施設です。

レンタルスペース「中4A館 紅酒作業場」(華山1914公式サイトより引用)

テナントのほかに上記のようなレンタルスペースがたくさんあり、Maker Faireのような規模の大きなイベントが年間を通して開催されています。

文創の対象は多岐に渡り、アート・音楽・映画・建築・出版など様々なジャンルが組み合わさって、新しい文化が次々と発信され続けています。

産業がなければ文化は発展しない

華山1914のテナントのひとつ「未来市」は、"all about better future "をスローガンとするアジアのデザインブランドのプラットフォームです。

白を基調とした屋台型のブース(白色小棚子)が碁盤目状に並べられ、各ブランドがスタイルに合わせて展示し、独自の商品をアピールします。

台湾のプリントデザインブランド「Printed Music」をはじめ、イラストレーターのクー・ヒウインによるクリエイティブブランド「offoff theatre」「Local Ingredients」、100年以上の歴史を持つ日本のブランド「広田硝子」など、30以上のブランドが一堂に会しています。

「未来市」の店内(華山1914公式サイトより引用)

未来市を主催する好様グループの創始者であるグレイス・ワンは、グローバリゼーション以降の台湾に残されたもので産業を興すには?という発想から「文創」が生まれたと語り、文化を産業に繋げる重要性を説いています。

「文創」という言葉は実は12~13年前、多くの台湾企業が海外へ出てしまい、政府が台湾に残ったもので何かできないかと考え、出てきた言葉なのです。文化創意産業、略して「文創」です。文化があるのなら、総意で生かし産業にする。それには様々な領域とつなげなければなりません。文化があっても、そこに産業がなければ発展はしないのです。   

Grace Wang(TAIWAN EYES GUIDE FOR 台湾文創)

本と暮らしの間にあるリビングプロジェクト

華山から徒歩40分ほどのところにある松山文創園区もまた、かつて煙草工場だった広大な敷地を利用して建設されたクリエイティブスペースです。私が滞在していた時期には「松山文創學園祭」という、全国の大学生による卒業制作展を中心としたイベントが開催されていました。

卒業制作とはいえ、しっかりとブランディングやマーケティングが練られたプロダクトやサービスが展示されていて、ブースではさながら商談のようなプレゼンテーションが行われていました。東京ビッグサイトで開催されるビジネスフェアの洗練された版、といった印象でした。

創意爆發

そして、松山文創園区の敷地内には、台湾の大型書店チェーンである誠品(Eslite)が運営するショッピングセンター「誠品生活松菸店」があります。1Fには有名デザイナーのブティックなどがあり、2Fは生活と文化が溶け合うリビングプロジェクトというフロアです。3Fは書店とカフェスペースです。

特にリビングプロジェクトがユニークで、センスの良いショップとともにDIY体験ができるブースが設けられています。革小物・彫金・絵画・写真・ガラス工芸・ケーキ作りなど、ただ商品を買うだけでなくカスタマイズや自作が楽しめる商業施設なのです。

ファブラボ運営のヒントになるかもと見学にいったのですが、あまりにもスタイリッシュな空間でびっくりした記憶があります。

スタイリッシュなDIY体験スペース

誠品の創業者である呉清友は、文創という言葉が生まれるはるか以前から、「ヒューマニティー・アート・クリエイティブ・ライフ」という理念を掲げて、社会的価値を持つ文化的・創造的なライフスタイル産業となることを自らに期し、台湾随一の誠品ブランドを築き上げました。

誠品は単なる書店ではない。それはさらに一つの空間であり、心身共に安らげる一つの場だ。

誠品生活「創業者の想い」より(呉清友)

ちなみに誠品生活は2019年9月に日本進出していて、日本橋の商業施設「COREDO室町テラス」内に出店しています。コロナ禍も落ち着いてきたことですし、今年こそ訪ねてみようと思います。

生活の中に溶け込めているか

未来市も誠品生活も、文化に価値を見出し産業に発展させることを体現しています。それと同時に、それが生活に違和感なく溶け込んでいるか?という点を重視しています。

私はその産物が「文創かどうか」ということよりも、「生活のあり方がどうか」というところを重視します。それを生活の中に溶け込ませられるかどうかということの方が重要なのです。  

Grace Wang(TAIWAN EYES GUIDE FOR 台湾文創)

その街の人々が、誠品という空間で、唯一無二のユニークな文化的スタイルを表現しているのです。こういった生活を大いに楽しみ、読書を愛する人々、学んだことを無私に捧げ、創作を分かち合う人々が誠品の感動を呼ぶ一枚の絵、心あたたまる一つの物語となるのです。

誠品生活「創業者の想い」より(呉清友)

ファブラボという媒介を通して、地域コミュニティと繋がりを持つようになって8年が経ちました。産業の発展に貢献しているかは分かりませんが、続けていけているということは、誰かしらのお役には立てているのでしょう。

文創の実践を傍目に見ながら思うのは、今よりも生活に寄り添う仕事を増やし、もっと地域と仲良くなっていきたいということです。地域の定義はとても曖昧ですが、私たちが関りを持てる範囲と解釈しています。

40代後半になって、初めて生活に興味が沸いてきた気がしています。

では。

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