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「アウトブレイクは終わっていない」と押谷仁氏が言っている件

▼日本の幸運は、世界中のその道のプロたちが仰ぎ見るような、感染症対策の達人がいたことかもしれない。

▼日本は2020年5月25日、緊急事態宣言を全面解除した。5月26日、押谷仁氏のインタビューが(少しだけだが)「サイエンス」誌に載っていた。

Japan ends its COVID-19 state of emergency
By Dennis Normile May. 26, 2020 , 12:45 PM

▼今、北九州市で「第2波」が起きてしまっている渦中だが、押谷氏が言っていることは、一言でいうと「こういうことは起きる。あわてないでください。油断しないでください」ということだ。

▼おそらく彼は今、日本に住んでいる誰よりも緊張して、考え抜いて、発する言葉を選んでいる。一言でも言葉遣いを間違えると、その影響が大きすぎるからだ。

▼デニス・ノーマイル記者(Dennis Normile)は、「サイエンス」の記事で、次のように要約している。

▼日本の緊急事態宣言の解除は、「一時的な勝利宣言」であり、日本が具体的に何をしたのかというと、一人一人が、

自発的かつあまり制限的ではない社会的距離を置く

という方法をとった。その結果、

毎日の新規感染者数を10万人あたり0.5人という目標に近づけた」のである。しかも、「大規模な検査を行わず」に、だ。

これは、世界的にみてとても珍しいことで、その中身を押谷氏にインタビューしている。

▼日本の作戦の根本にあったのは、おなじみ「クラスター対策」だ。すでに今年の「流行語大賞」の候補になるだろう「3密」も、世界中で言われているわけではない。

「クラスター対策」、日本中に徹底された「3密」、そして「接触8割減」。ぜんぶ、日本独自の作戦だった。「一時的な勝利宣言」は、これらの作戦に日本特有の「隣組(となりぐみ)精神」がーー良くも悪くもーー働いた賜物(たまもの)である。

〈とんとん とんからりと 隣組
何軒あろうと 一所帯(ひとしょたい)
心は一つの 屋根の月
纏(まと)められたり 纏めたり〉(岡本一平「隣組」、1940年)

▼ずいぶん前に放映されたNHKスペシャルを見ると、ロックダウンもできない、人手も割(さ)けない日本では、この作戦しか選択肢がなかったことを、押谷氏が語っている。もちろん、大規模な検査を行わなかったことへの批判は大きい。しかし、感染者数は減っていった。

▼さて、「サイエンス」誌の記事から。適宜太字。DeepL翻訳に少し手を入れた。

〈緊急事態が解除されたにもかかわらず、流行は「終わっていない」と、東北大学のウイルス学者で公衆衛生の専門家である押谷仁氏は言う。「時々、小規模な発生があると予想している」と話す。政府は規制の再適用を検討するかもしれませんが、押谷氏は「これらの小規模な発生は何とかなる」と考えています。

 その後、世界の多くの国がパンデミックへの対応を、広範な接触者の追跡、隔離、検査に基づいて構築したのに対し、日本は「全く異なる」戦略を採用した、と押谷氏は言う。「クラスターを特定し、その共通の特徴を見極めようとしたのです」〉

▼「「全く異なる」戦略」は、「“quite different” strategy」。

〈驚くことではないが、ほとんどのクラスターは、ジム、パブ、ライブハウス、カラオケルームなど、人々が集まって飲食したり、おしゃべりをしたり、歌ったり、ワークアウトやダンスをしたり、比較的長時間肩をこすり合わせたりするような場所で発生していることがわかった。また、大規模なクラスターに触れた一次症例のほとんどは無症状か、非常に軽度の症状であったと結論付けている。

多くの人を検査しただけでは、クラスターの発生を食い止めることはできない」と押谷さんは言う。そのため、彼らは「3つのC」と呼ばれる閉鎖的な空間、人ごみ、人と人が対面して話をするような親密な環境を避けるように促したのである。単純なことのように聞こえる。しかし、「これが戦略の中で最も重要な要素でした」と押谷氏は言う。

“This has been the most important component of the strategy,” Oshitani says.

▼その後、捕捉として次のように書かれている。

〈(心強いことに、彼らは日本の有名な満員電車にクラスターがあることを突き止めていない。押谷氏によると、乗車者は大抵一人で、他の乗客と会話をしていないそうです。そして最近では、全員がマスクをしている。「このような環境で感染者が他の人に感染することはありますが、それは稀(まれ)なことでしょう」と押谷氏は言う。彼によると、もしウイルスの空気感染が可能であれば、日本では大規模なアウトブレイクが電車にまでさかのぼって発生していただろうと言う。)〉

▼ノーマイル記者は、「何よりも重要」だったのは、「情報を共有する時間が十分にとれたこと」だったと分析する。

〈何よりも重要なのは、非常事態が発生したことで、危険な行動や環境について国民に啓蒙する時間ができたことだ。今やマスクは、ほぼどこにでもあるものだ。閉店や時間制限の要求を無視したバーやレストランもあったが、かつてのように混雑しているわけではない。「今では、人々はウイルスの危険性をはるかによく知っています」と押谷氏は言う。〉

▼これは、すでによく情報を共有している人にとっては、当たり前になっているが、当たり前だから、言われなくては気づかないことだ。

また、押谷氏がこの点を重視するのは、世界には、大事な情報を共有できない国もあったという経験があり、これからもあるという懸念があるからだろう。

▼先日メモした、押谷仁氏のコメントをもう一度読んでおきたい。

「社会経済の影響を最小限にしながら、ウイルスの拡散を最大限制御していくための解除の方法っていうのは、流行が拡散していくのを抑え込むよりもはるかに難しい判断を迫られる。」

「部分解除しても、ある程度(感染は)起こります。ゼロリスクはないウイルスなので、じゃあそれをどうやって判断するのか、誰が判断するのか。」

▼このコメントのとおりに、北九州市で感染が広がり、東京でも少し感染者数が増えている。

心配だが、国も東京も、もしかしたら、もう、経済的に、営業自粛は言い出せないのではなかろうか。もし、再び緊急事態宣言が部分的にでも出るようなことになれば、ゴールデンウィークまでの数カ月とは比べものにならない惨事になる。

日本は危うい橋を渡り続けている。

(2020年5月30日)

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