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「沈黙はあなたを守らない」ーーDV被害者が半年で3100万人増えかねない件
▼今、どれだけ手厚い対策を追加してもやりすぎにならない問題に、児童虐待と家庭内暴力とがある。どちらも、コロナ・パンデミックによって悪化する可能性の極めて高い問題だ。しかも、実態が見えない。闇が深い。
▼2020年6月6日付の朝日新聞が、世界各国のDV対策を紹介していた。そのなかから、国連の警鐘、オーストラリアとフランスの取り組み。適宜太字。
〈DVをめぐっては、国連が4月下旬、世界で外出規制が半年続いた場合、新たに3100万人の女性たちが暴力の被害を受けかねない、と警告している。〉
▼日本も例外ではない。
〈豪政府は3月、被害者の支援に1億5000万豪ドル(約110億円)を追加であてると発表した。相談電話の要員を増やすことなどに使われる。「DV・NSW」は4月、シェルターの空きが出るまでに被害者が一時滞在できるホテルの登録制度を始めた。監視カメラなどの条件を満たしたホテル300カ所がすでに登録した。
フランス政府も、外出禁止令中に女性が逃げ出せるよう2万泊分の客室を確保した。薬局を女性の「通報拠点」の一つにする取組みも進めた。〉
▼日本の対策と比べて、上記2国は手厚い。
▼記事といっしょに掲載されているドイツの写真は、路面電車の駅に女性がマスクをしているポスターが貼ってあり、「沈黙はあなたを守らない」と書いてある。
▼先日、日本でも24時間、電話とメールを受け付ける「DV相談プラス」がオープンした。10カ国語対応。チャット相談は12時から22時まで。
0120-279-889(「つなぐ、はやく」と覚えるらしい)
▼なお、急ぎの相談は「DV相談ナビ」に。
0570-0-55210(「ここに、でんわ」と覚えるらしい)
最寄りの「配偶者暴力相談支援センター」につながるそうだ。
▼ほんとうは、近くに話せる人がいるのが、いちばんだ。
▼以前も書いたが、DV被害者を匿(かくま)ったことがある。その経験上、言えることが一つだけある。
「ただちに逃げろ!」
この一言だ。
あなたは今、「圏外(けんがい)」にいる。だから、「圏内」に逃げ込め。そう伝えたい。
あいつは、ひどい人だけど、殴った後、謝ってくれるし、やっぱり愛してくれているし、という思いは、あなたのきれいな心の証しだけれど、残念ながら、全部、幻(まぼろし)だ。全部、加害者の策略だ。加害者は、あなたの、そのきれいな心に寄生しているのだ。食いつくされて、死ぬのはあなたのほうだ。
多くの被害者は、自分のケースしか知らないから、幻にだまされてしまうのだが、DV被害は、知れば知るほど、うんざりするほど、同じような、そんなケースだらけだ。
殴った後、謝るのは、「また殴るため」の常套(じょうとう)手段なのだ。暴力を振るえる「はけ口」を確保しておくための、お決まりのパターンだ。謝罪はすべて、「加害者自身のため」だ。被害者のためを思ってではない。その状況だと、暴力は、絶対になくならない。全部、加害者の策略なのだ。
今夜、ただちに逃げてほしい。今夜がダメなら明日の早朝。明日の朝がダメなら、明日の昼。昼がだめなら、夕方。明日がダメなら、あさって。一瞬の隙を突いて、とるものもとりあえず、逃げてほしい。
どうしても、数日の時間が必要なら、その間、「逃げることだけ」を考えて、ヘビのように知恵を尽くして、なんとか生き抜いてほしい。
以前、筆者がかくまったDV被害の友人は、本人が半信半疑のところを、半ば強引に説得した。手元にあった3000円をタクシー代として渡して、翌日、マンションから逃げさせた。それで助かった。全身が傷だらけになりながら、その後もあれこれと未練を残しながら、絶対に加害者に会わないように話し続けた。結果的に、命は助かった。その後、なんとか新しい道を歩き始めることができた。
筆者が関わったケースは、加害者と被害者の間に子どもがいなかったから、まだラッキーだった。子連れの場合は、はるかに深刻で、はるかに難しい。しかし、道がないわけではない。助かる道は、必ずある。
まず、逃げること。
話は、そこからだ。
沈黙は、あなたを守らない。
沈黙は、あなたの大切な人を守らない。
(2020年6月12日)