「緊急事態宣言」は5月6日で終わらなさそうな件(5)DV(家庭内暴力)は「影のパンデミック」
▼世界中でステイホーム、「家にいよう」が合言葉になっている。新型コロナウイルスの感染を止めるには、「社会的距離」をとるしかないからだ。
しかし、家が地獄の人々がいる。ステイホームによって命を奪われる人がいる、ということだ。
■NHKのDV特集記事
▼2020年4月20日配信のNHKニュースが素晴らしい特集を組んでいた。
〈特集『家にとどまって』 ~その家が安全ではなかったら?~〉
〈新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各国で自宅待機が呼びかけられている。家の中は、感染を防ぐことができる「安全な場所」とされるからだ。しかし、その家が、安全ではない人たちもいる。懸念されているのが、家に閉じこもることで増加する、家庭内の暴力だ。弱い立場にある女性や子どもが被害に遭うケースが相次いでいる。(ウィーン支局・ヨーロッパ総局・国際部取材班)〉(ウィーン支局長・禰津博人、ヨーロッパ総局記者・古山彰子、国際部記者・佐藤真莉子、青木緑)
▼おもにオーストリアをはじめヨーロッパの現状がリポート。
〈フランスでは最近、ある政府広告がテレビで繰り返し流れるようになった。家の中から泣き叫ぶ子どもの声。それを怒鳴りつける母親の大声が聞こえるシーン。そのあとに「虐待の疑いに気づいたら通報を」という呼びかけが現れる。〉
▼パリ近郊で、6歳の男の子が父親に殴られ、頭をテーブルにぶつけて死んだ。殴った理由は、息子が「学校にプリントを忘れたから」だという。
〈新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を「パンデミック」とするならば、その陰でじわじわと増えるDV被害は、
「”陰”のパンデミック(ShadowPandemic)」
と言うべきだ。そう警鐘を鳴らすのが国連だ。
女性や子どもに暴力の矛先が向けられるのは、感染に対する恐れや緊張、そして移動が制限されていることへのストレスによるものだけではない。経済の悪化が与える影響も極めて深刻だ。
失業や、収入が減ることへの不安から、より弱い立場にある女性や子どもに対して暴力をふるうケースが増えるだろうと国連は警戒を促す。〉
〈国連は、特に子どもについて、「学校の休校は、児童虐待を”早期発見できるメカニズム”を失うことを意味する」として、長引く休校措置によって、家庭内で虐待があっても、それを覚知しにくくなる事態を強く憂慮している。〉
■DVの相談が「減っている」理由
▼DVの深刻さを象徴する現象がある。最近、DVの相談が増えている、と同時に、相談が【減っている】のだ。NHKに限らず、複数のメディアがすでに報じている。
この悲しい論理を、NHKは丁寧に解説している。
〈国連が4月にまとめた報告書は、各国で外出制限が始まってから家庭内での暴力が急増している実態を示した。
▽フランス:30%増、▽アルゼンチン:25%増、▽シンガポール:33%増。
このほか、アメリカ、カナダ、ドイツ、スペイン、イギリスなどでも被害の拡大が確認されている。
しかし気になるのは、逆に、相談件数が減少している地域もあることだ。例えば、イタリアでは、3月はじめの2週間で55%も減少。フランスも一部の地域で相談が減っているという。これは一体、どういうことなのか。
過去に自然災害などで職場や学校が閉鎖され、人の移動が減った際に同様の現象が起きたというアメリカで、DV被害者支援ホットラインを運営するNPOのケイティー・レイジョーンズCEOは、こう指摘する。
「表にでる相談件数は、DVの実態を完全に反映しているとは言いがたい。暴力をふるう相手が常に家にいて、被害者の一挙手一投足を監視している。被害者の多くは、外部に助けを求めること自体が難しくなっている。本当の被害者は、もっと多くいるはずだ」
外出制限によるストレスから、暴力が増えるだけでなく、加害者が常にそばにいるために被害者が相談窓口にアクセスすることもできないという、いわば“二重苦”の状態になっているというのだ。〉
■「おうちが苦しい場所になっているあなたへ」
▼2020年4月22日付の東京新聞に、東京都国分寺市にある「ゆずりは」所長の高橋亜美氏のインタビューが載っていた。井上幸一記者。
〈外出自粛の中 DV、虐待…「苦しい」を伝えて/国分寺の相談所 子どもたちへ緊急提言〉
〈新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が求められている中、児童養護施設などの退所者のアフターケア相談所「ゆずりは」(国分寺市本多一)の高橋亜美所長(46)が、ゆずりはのホームページで緊急メッセージを発信した。DV、虐待などで家が「苦しい場所」である子どもたちに、自粛ムードで声が上げづらくても、信頼できる大人に「苦しいと伝えて」と訴えている。〉
〈メッセージを発した理由について、高橋さんは「コロナに不安に思うのは、当然だ。ただ、それ以上の不安や恐怖にさらされている子がいる。家が地獄のような子がいる。家にいたら、ずっと何も食べられない子がいる。私たちは平時にそういう相談に乗ってきた。その声なき声が、かき消されてしまうことを危惧する」と話している。〉
▼「家が地獄のような子がいる」という一言に、胸がつぶれる。
「ゆずりは」の緊急メッセージは、下記のとおり。考え抜かれた文章である。
〈おうちが苦しい場所になっているあなたへ
「苦しい」「逃げたい」
「こわい」「助けて」「おなかすいた」
「学校行きたい」「学童行きたい」「友達に会いたい」
「家にいたくない」って伝えていいよ。伝えてね。
あなたが安心できるひとに伝えてほしい。
友達、先生、近所のひと、ピアノの先生、
卒園した幼稚園や保育園の先生、友達のお母さん、、、
ひとりでも、
このひとになら伝えられる!ってひとの顔がうかぶといいな。
あなたが「伝えてはいけない」と思ってしまっている
苦しい気持ちを伝えてください。
あなたと一緒に、あなたの安心と命を守りたい大人が必ずいるよ。
苦しいを伝えることは、
迷惑をかけることじゃないよ。
あなたが伝えてくれた苦しみから、
大人たちが気づかせてもらえることが、
たくさん、たくさんあるよ。
あなたが伝えてくれた言葉が、叫びが、
大人たちに勇気とアイデアをもたらしてくれるよ。
伝えてほしい。
伝えてください。
あきらめず。〉
▼DVに関する報道が一気に増えている。「影のパンデミック」という表現はまったく誇張ではない。稿を改める。
(2020年4月22日)