感染症と戦う最大の武器は「想像力」である件
▼世界の人口の半分、39億人に、外出制限がかかっている。2020年4月3日配信の共同通信記事から。
〈コロナで世界人口半数に外出制限 90カ国・地域の39億人〉
〈【ジュネーブ共同】新型コロナウイルスの感染拡大に伴う各国の対策により外出制限措置を受けているのは90以上の国・地域の約39億人に及び、世界人口(約77億人)の半数を超えていることが分かった。
欧州メディアが3日までに伝えた。世界全体の新型コロナの感染者は2日、100万人を超え、さらに拡大の様相を見せており、終息の兆しはない。〉
▼新型コロナウイルスの対策を戦争にたとえると、戦いの最前線は二つある。一つは、社会の生活の中。これは広い戦場だ。もう一つは、病院。狭い戦場だ。
その狭い戦場が、危機に瀕(ひん)しているという記事が、2020年4月5日付の毎日新聞と日本経済新聞に載っていた。
▼まず毎日から。1面トップ。
〈医療者153人感染/新型コロナ 地域医療影響も/10都道府県〉
〈新型コロナウイルスの感染者のうち、医師や看護師ら医療従事者は全国で少なくとも153人いることが毎日新聞の調べで分かった。診察などを通じて感染者と接する機会が多いことが背景にあるとみられる。すでに新小文字病院(北九州市)など複数の病院で院内感染とみられる集団感染も起きている。第一線の現場で働く医療従事者の感染拡大が続けば、地域医療に影響が出る可能性がある。
毎日新聞は4日、新型コロナウイルスの感染者が100人以上出ている東京都、大阪府、千葉県、神奈川県、愛知県、北海道、兵庫県、福岡県、埼玉県、京都府の10都道府県について、感染した医師や看護師、医療スタッフらの人数を集計した。(後略)【南茂芽育、鶴見泰寿、山口桂子】〉
▼この毎日のリード文は、〈第一線の現場で働く医療従事者の感染拡大が続けば、地域医療に影響が出る可能性がある。〉と締(し)めているが、〈甚大な影響が出る〉と書くべきところだ。影響が出るに決まっているのだから。せっかくの独自取材なのに、いったい何に遠慮しているのだろう。
▼日経は、病院が集団感染の発生源になってしまっているという記事。
〈コロナ感染、院内が1割か/検査徹底で封じ込め/専門家「入院初日にCTを」〉
〈各地で院内感染が疑われる新型コロナウイルスの集団感染事例が相次いでいる。厚生労働省によると、同一の場所で5人以上の感染者が発生したクラスター(感染者の集団)の約3割を医療機関が占め、感染者のうち1割前後が院内感染である可能性がある。医療体制の崩壊を招きかねない医師や看護師らの感染を防ぐには、入院初日にコンピューター断層撮影装置(CT)を撮るなどの対策が求められそうだ。
厚労省によると、3月31日時点で、全国14都道府県に26カ所のクラスターが発生し、このうち医療機関は9カ所だった。同省は具体的な施設名などを公表していないが、クラスターの認定がなくても院内感染が起きたとみられる事例は複数あり、実際の発生数はさらに多い可能性が高い。
院内感染による感染者については、これまでに判明しているだけでも200人を超える。全国で約3000人いる感染者の少なくとも1割前後を占める可能性がある。〉
▼筆者は、東北大学教授で、政府の専門家会議のクラスター対策班で指揮をとる押谷仁氏が、2020年2月21日に書いた〈新型コロナウイルスに我々はどう対峙すべきなのか(No.4) 想像する力を武器に〉という文章の、次の箇所を読者と共有したい。
〈このような21世紀の問題に対峙するために最も大切なことは、他者を想う想像力だと私は考えている。
武漢で自らの結婚式を延期して患者の診療にあたっていた青年医師が死亡したことが報道されている。
どれだけの日本人が彼の無念さを想像できているのだろうか。〉
▼もう一つ、引用しておく。
〈個人がこのウイルスとの闘いに確実に貢献できることがある。それは、ウイルスに感染した、もしくは感染したかもしれない人が最大限の努力をして他の人に感染させないようにすることである。
このウイルスに感染しても多くの人にはちょっと長めのインフルエンザのようなものか、それよりも軽い人もいるはずである。しかし、その人が誰かに感染させそこから感染連鎖が始まってしまうとその先には確実に重症化する人がいる。さらに亡くなる人が出てくる可能性もある。
そこで亡くなる人は「60代の女性」ではなく、もしかすると来月生まれてくる初孫の顔を見られていた女性だったかもしれないという想像力を持つことが必要だと私は考えている。〉
▼筆者は押谷氏の意見に賛成する。新型コロナとの戦いで、最も大切な武器は、「想像力」なのである。それは、さも賢(さか)しらな顔をして、じつはとても無責任な「自己責任論」などと対極にある、人間らしい力だ。
最前線に立ち続けるすべての医療従事者に、心からの尊敬と感謝を。
(2020年4月5日)
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