お金にも、胃もたれはある。僕たちは何を貯めるべきなのか。【飽金のパラドックス】
みなさん、お金が欲しいですか?
お金は豊かであることの象徴です。
お金があれば好きなものを食べられます。好きなところに住めます。好きなサービスをいくらでも受けることができます。
お金があれば、幸福です。
でも、食べ物を食べすぎれば胃もたれしてしまいます。お金はどうでしょうか?お金は銀行口座に無限にためることができます。でも、幸せは収入の増加によって本当に無限に増加していくのでしょうか?
データ社会は、その謎を解明しています。
世界中のお金持ち~貧困層を集めて、長期間データを測定・蓄積することで、どのくらいの収入があれば幸福度が最大になるか。それは既に結論付けられているのです。
以前の研究では800万円くらいがその限度かも?という研究成果が出ていたのですが、今回、もっと大きなデータセットを使ってアップデートされた研究成果が出ています。
アナタの目標収入に、根拠はありますか?
世界一有名な調査会社Gallup社、nature誌、ハーバードビジネススクールやブリティッシュコロンビア大学が行った収入と幸福に関する最高の研究成果をご紹介します。
どのくらい収入があれば、最も幸福になれるの?
世界一有名な調査会社Gallup社による170万人を対象にしたデータセットを使った研究です。彼らはあらゆる家族の世帯年収から、一人当たりの収入を算出しました。収入と幸福感の関係を明らかにしたのです。
収入による幸福の限界点(1人あたり)
①収入によるポジティブな感覚の限界:630万円(6万ドル)
②収入によるネガティブ減少の限界:800万円(7.5万ドル)
③お金に飽きてしまう:1000万円(9.5万ドル)
*③は高学歴の人では1200万円
**2人家族なら1.4倍、3人なら1.7倍、4人なら2倍してください。
(√nをかけると世帯収入になります)
つまり、収入によって得られる幸福感には限界があり、630~800万円で最高になります。さらに、1000万円以上稼ぐとお金にあきてしまいます。この点を限界にして幸福感は下がっていくのです。この記事ではその現象を「飽金」と呼びます。
1000万円を超えた収入を持つようになると、むしろ人生の評価が下がっていきます。「お金を稼がなくてはいけない」という強いプレッシャーを感じているため、これ以上収入があっても幸福度が上がりません。
学歴が高いヒトは周りの人間の収入も高くなるため、「飽金」が起こるのは1200万円ですが、それ以上の収入は幸福感にはつながっていません。
お金によって、自由を獲得できるハズだったのに、むしろ不自由になってしまうのです。私はこれを「飽金のパラドックス」と呼んでいます。
実は、このデータには男女差が発見されました。
一般的に、男性の方が高い収入を求め、収入によって満足感を感じるかのように思われます。私も研究チームもそれを予想していたのですが、分析結果は全く逆でした。
女性は男性よりも「飽金」になるまで100万円ほど余裕があることが分かったのです。この事実は女性の方が、お金で多くの幸福感を得られることを示唆しています。
■お金と時間、どちらを優先するべきか?
お金は使い方も重要です。
ハーバードビジネススクールとブリティッシュコロンビア大学によって行われた研究では、お金よりも時間を重要視したほうが幸福度が高まることが示されています。
この研究では、1232人の大学生に「時間とお金、どちらが重要か?」という質問を投げかけることで、彼らの性格をチェック。その1年後、幸せに関する様々な質問に答えてもらいました。それによって、時間重視とお金重視の考え方。どちらが幸福かを調べたのです。
その結果は以下の通り。
■幸福度
すべてをひっくるめて考えて、どのくらい幸せだと思うか?
「時間の方が大切だ」と考えている生徒の方が幸福度は高くなることが分かりました。
過去の研究成果も同様に、時間を大切にしている人の方が幸福度が高いことが示されていることから、この傾向はほぼ間違いないと言えます。
■モチベーション
就職や進学のほか、インターンや旅行、ボランティア等に参加しているか?を調べ、そのアクティビティを人に言われたからやったのか、自分からやりたいと思ったのかをチェックしました。
結果はもちろん、「時間を優先している人」の方が自らのモチベーションで行動を選択できていました。
さらに、時間を優先している人は、1年後に達成していたアクティビティも多くなることが分かりました。進学する人も、就職できた人も時間を優先しているヒトの方が1.5倍高かったのです。
お金よりも時間を重視したほうが、自分主体の意思決定ができます。また、モチベーションも向上し、幸福を感じやすいのです。
研究ではその後の収入について調べきれてはいなかったのですが、時間を優先するマインドの方が、就職や進学へ有利だったことから、生涯の収入も上がる可能性があります。
■目先のお金を失うことを、極端に嫌っていませんか?
小さなお金を守ることよりも、無駄な時間を使わないようにすることの方が、自分を幸せにする方法なのかもしれません。
例えば、ルンバを購入すれば、掃除の時間を大幅に削減することができますよね。掃除に使っていた無駄な時間を、自分を高める時間に変換することができると思えば安い買い物です。6万円くらいするのが普通だったルンバも3万円以下になりました。買い時なのではないでしょうか?
ルンバ以外にも、家政婦を雇うことを検討するのはもはやブルジョワジーの選択ではなく、幸せになるための極めて効率的な考え方かもしれません。
逆に、高級車の購入は、安い車に比べて時間の節約につながりませんし、通勤時間を短くするために、職場の近くに引っ越すのは良い選択かもしれません。
これを機に、お金の使い方を見直してみるのはどうでしょうか?
■富の再分配が必要?
近年の飽食ならぬ、「飽金」が明らかになっています。過度に収入を増やした個人が幸福になれるとは到底言えない時代が到来しているのです。
さらに、お金があろうとなかろうと、個人に与えられた時間は同じ。全人類が24時間と決まっています。研究結果は、幸福を追求する人は「お金」よりも「時間」を追求する人だと明らかにしています。
しかし、「飽金」に至ることのない大部分の人にとって、幸福を得るための「お金」が必要であることには依然かわりありません。
このことから、過度な収入をもつヒトの富を再分配するメリットは大きいと考えられます。
「飽金」に至る個人は過度な収入を、再分配する。
「飽金」に至る個人はその代わりに自由な時間を得る。
一方で、
「飽金」に至っていない個人は時間を幸せに必要な金に換える。
「飽金」に至っていない個人は収入と幸福を得る。
この流れは滞ってしまいがちなのです。お金を大切にしすぎるせいで。
「飽金」に至る個人が時間の為にもっとお金を使うように促進することと、「飽金」に至っていない個人がお金を得て幸福に近づく事は両立する現象なのではないでしょうか。
それは、幸福とお金と時間の関係を知ることでのみ達成されます。その基準を知っておくことで、自分に最適なバランスでポートフォリオを形成することができるのです。
このように、近年お金は依然重要であると同時に、他の概念よりは重要でなくなりがちであることが示されつつあります。バランスこそ重要なのです。
この記事では、お金以外の経済圏について少し触れています。自分がどのフィールドで生きていくのが一番適しているのか知りたい方は、ご覧ください。
アナタが最適な幸福ポートフォリオを形成できることを願っています。
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引用
Jebb, Andrew T., et al. "Happiness, income satiation and turning points around the world." Nature Human Behaviour 2.1 (2018): 33-38.
Whillans, Ashley, Lucía Macchia, and Elizabeth Dunn. "Valuing time over money predicts happiness after a major life transition: A preregistered longitudinal study of graduating students." Science advances 5.9 (2019): eaax2615.
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