第20回 『天破夢幻のヴァルキュリア』発売、そして
『天破夢幻のヴァルキュリア』1巻の刊行へ向けての準備が着々と進んでいく中、早くも2巻の作業へと取りかかっていた。
1巻の売れ行き次第では、すぐに2巻も出す必要がある。1巻の発売予定日は12月10日、販売実績がわかるのはおそらく年明け。それから2巻の作業に取りかかったのでは、刊行ペース的には間が開いてしまう。
大忙しだった。担当編集から提示された締切日に間に合わせるためには、会社に行きながらではとても追いつかない。ちょうど、勤続10年のご褒美としてのリフレッシュ休暇が連続5日間取れることとなっていたので、その5日間全てを執筆活動に充てた。後日、会社の先輩に「リフレッシュ休暇で海外とか行ってきたのか?」と問われて、「いえ、ずっと東京にこもっていました」と回答した時の、先輩の「うわ、勿体ないな」のひと言が忘れられない。今から思えば、8月に中国に行ったばかりだから海外は無理だとしても、国内旅行くらい行けば良かった、という後悔はある。
しかも、2巻については、少々不完全燃焼感があった。突貫工事的に書いたこともあるが、「1巻の売れ行きによっては打ち切りの可能性もあるので、あまり長い話は書けない」とのことで、全体的にボリュームを制限させられてしまっていた。
この2巻で登場する新キャラクター、青面獣の楊志については、『楊家将演義』をベースに、もっと背景を掘り下げたいところだった。しかし、ページ数の都合から断念せざるを得なかった。
ともあれ、9月には著者校も終わり、10月末には各ショップ向けの特典(短編)も書き終わり、あとは発売日を待つこととなった。
そして2015年12月10日。ついに『天破夢幻のヴァルキュリア』1巻が発売された。
その日は嬉しくて、いくつもの書店を巡った。特典のあるゲーマーズやとらのあなにも行き、自ら本を買って特典をゲットした(作者だからといって特典を寄贈されるわけではない)。
赤を基調とした背景に、白いチャイナドレス姿の美少女という表紙は、書店に平積みになっている新刊の中でも、特に目立っているように見えた。
その後もウキウキしながら、毎日色んな書店を巡っては、売れ行き状況を確認したりしていた。他の本と比べても、順調に売れているように思われた。
一つ気になっていたのは、帯のキャッチコピーだった。「純潔の戦姫たちを倒せ!!」
ネタバレを防ぐためなのかもしれないが、実際の内容と違っていた。主人公は最初こそヒロイン達を倒すために活動しているが、最終的には守る立場へと移るので、ちょっと帯の文章は本質とは違うかな、と感じていた。
本当は、自分としては、「電撃文庫が放つ新たなるチャイニーズファンタジー、ここに開幕!」くらいの感じで書いてもらいたかったが、それは望むことは出来なかった。当時は日中関係がどんどん悪化していた時期でもあり、担当編集としても「あまり水滸伝とか、チャイニーズファンタジーとか、そういった要素を表に出したくない」という意向を示していたので、近年のラノベでは珍しいチャイニーズファンタジーであることを売りにすることは出来ない状況だった。
一抹の不安こそあったものの、内容に関しては自信をもって送り出せるものだったので、これは続刊間違いなしだと思っていた。
他の作家からも、色々な声が寄せられた。
「上手いこと誰も手をつけていない分野を狙いましたね」
「逢巳さんが『ファイティング☆ウィッチ』の打ち切りでもめげずに活動されている姿が本当に励みになります」
等といった好意的なものもあれば、
「これが売れると思って出したのであれば、同じ商業作家として許せない」
という敵対的なものもあった。
いずれにせよ、仲間内での反響も良くも悪くも上々、あとは結果が全て物語ってくれる、と売り上げ実績の報告を楽しみに待っていた。
そして、年が明けて、2016年の1月初旬ごろ。
2巻の著者校のため、私は電撃文庫編集部を訪れていた。さあ、頑張って校正をするぞ、と意気揚々としているところ、打ち合わせブースに担当編集がやって来た。
最初は他愛もない世間話から始まった。
そして、唐突に、担当編集の口から、信じがたい言葉が飛び出てきた。
「残念ですが、打ち切りが決まりました」
「……え?」
「電撃文庫史上、これまでにないくらい、売れなかったのです。同人誌の方がまだマシではないか、というレベルで。ですので『天破夢幻のヴァルキュリア』は2巻をもって終了となります」
ありとあらゆる未来への希望が、粉々に打ち砕かれた瞬間だった。
記事を読んでいただきありがとうございます!よければご支援よろしくお願いいたします。今、商業で活動できていないため、小説を書くための取材費、イラストレーターさんへの報酬等、資金が全然足りていない状況です。ちょっとでも結構です!ご支援いただけたら大変助かります!よろしくお願いします!