つめたくてなめらかなひふ

 
おばあちゃんの家にある、古い、四角いマッチ箱の中には、わたしがこわがるもの(たとえば愛とか)が入っているって知っているから開けられない、火をつけたことがない、わたしは、命を、愛を、燃やしたことがない。 
 
 
息を吹きかけて蝋燭の炎を消す、
ゆっくりと短くなっていく線香の香りが消えるまで離れるとどこにあるか分からないそれぞれの(ほんとうの)心臓の香りが混ざった薄いにおいがして、この火をつけた誰かのことを忘れたり思い出したりしそうになる、
のを止めるために煙草はある、わたしが一度も吸ったことがない煙草。
 
 
食べやすく切られた西瓜の甘さを嫌いになりたい、そうすればやっとつるつると光るものになれる気がする、
わたしは、いつだってそういう冷たくて固くてつやつやとしたものが好き、火を近づけても溶けそうにない、そういうもの。
透明の安いライターのボタンを押すとき引き金を引くような気持ちになる、
わたしは、命を、愛を、燃やしてしまうのがこわい。






生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。