真夏のうたの蜃気楼
柔い冬よりも暗い秋よりも古い春よりも夏のほうがよほどさみしいってこと、理解しているひとと恋人になりたかった、夏の間だけの恋人、海にも行かない、クーラーの下だけの恋人、扇風機に向かって宇宙人の真似をするわたしを、馬鹿にして笑うだけの恋人、夏の終わりにいなくなる、にゅうどうぐもみたいな、恋人。
夏がこわいのはなにもかも輪郭が確かだからで、葉っぱの一枚もきみの影も拾いあげた蝉の抜け殻までわたしとは別のいきものだってこと、明確に分かってしまうからで、笑いながら落ちてくる太陽のひかりに腕を透かす、自分と、世界の、境界線に目眩がする。
休まずに鳴いている蝉の横に彼の抜け殻を飾ってみたかった、それが彼の生き方を讃える唯一の方法だと信じてやまなかった、細い樹の肌にしがみついてきっと夏の恋人をさがしている、孤独、無責任に妄想して讃えてわたし気持ちよく涼しい部屋で眠りたかった。
あぁ、わたし、いつかひとりで。
生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。