かすれて読めない駅名標
切りすぎた前髪をなんとかなだめて家を出る、明日なんかどうでもいいし来なくたって構わないって歌いながら、伸びた前髪も伸びた爪も整えるし、安売りのトマトをえらぶ、コートやマフラーを買って、来月を待つ、凡庸で、したたかな、休日。
現在が過去になって未来が現在になる日のこと、こんなに不確かなのに、ほんとうは永遠とおなじくらい信用している。
甘えてるから、嫌い、って言ったりするの、かわいげのない、おんなよね。だから信用できないきみの前では、間違ってもわがまま言わない。
線路の上を歩くような日常、綱渡りほどさみしくも危うくもなく、歩道橋ほどさわがしくも整えられた自由でもない、その適当さが、心をちょうどよくころしてくれるから、乱暴な日記をつけたりできる、叩き割って散らばった鏡の破片を片付けながら、人差し指の先を上手にすこしだけ切ったりできる。
絆創膏に、きみは気づくだろうか。
内側に飼うばけものとそんな小さな賭けをすることだけが人生をゆたかにするって、教えてくれたのは、線路の上で来ることのない電車を待って、しんでいった数多のひとたち。
生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。