いぬ
我が家に小さないぬが来た。
ふわふわであたたかくて、細っこい。
すぐに弱ってしまいそうな小さないのち。
私が離れると「どこにいくの」と訴えて、近くに来ると満足して、脚に寄り添ったり、背後に回り込んで安心したようにねむる。
いぬは、私たちと初めて会うにも関わらず「人間が好きです」という感情をダダ漏れにして突進してきた。
鳴き声にこれでもかというくらい「人間が可哀想だと思う音」を込めてくるので、しつけのために暫くじっと我慢するのもかなり心苦しい。
可愛いでしょ?という顔で、純真そのものな目で見つめてくるとんでもない生物だ。
ほんの少し一緒にいただけなのにすぐにやわやわなピンク色のお腹を見せて、撫でてくれとアピールするし、そばに居ないと不安がる。
無垢な愛情を受け止める器が私には足りていない。今は完全にそれを取りこぼし、上手く消化できずにいる。好意の重みは、人間でもいぬでも等しく重たく、受け入れる側も覚悟と体力が要る。
好意は、期待と責任と信頼だと私は思う。相手の求めるものに応えられる自信がない。なんだか恋バナじみてきたけど、私にとってみたら同じようなことだ。
言葉の通じない毛むくじゃらなモンスター。甘えん坊で寂しがり屋、ぽてぽて走ってはしゃぎまくる、きっと人間の赤ちゃんだって同じようなことだろう。無条件の信頼が喉に詰まる。言葉が通じなくても、違う生き物でも、しつけも意思疎通も必要で、これからのこの子の人生(犬生)を自分が握っていると思うと、その重みから逃げ出したくなる。
世のお母さんたちはすごい。
私だったら気がおかしくなりそうだ。これからこの先長いこと、その重みと共に生きなければいけないから。
純真無垢でまっさらで、とても可愛い。
いまも床に座り込む私の背後で丸くなってすやすや眠っている。
じっと眠りにつくいぬの、お腹がゆっくり上下することを確認する。
どうか健やかに大きくなってくれますように。