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韓国音楽学概論
本エントリーの趣旨
本エントリーは筆者が2021年7月に会社のランチタイムの企画でKpopビギナーに向けて"Kpopとはなんなのか?""どのような歴史があり、なぜ今流行っているのか?"といったことについて体系的に解説を行ったプレゼンテーションを記録するとともに、2022年2月現在時点で感じていること、直近の動向を追記して記事化し、追って共有できるようにしたものとなります。
筆者自身はKpopのスペシャリストであるというわけではなく、あくまでも音楽好き・音楽オタクの延長でKpopを嗜む中で、所属組織の社内交流イベントで打診を受けたことを契機として本企画をまとめたものになりますので…
無いと信じたいですが、誤情報、誤植等がございましたら優しくご指摘いただけますと幸いです。
また、音楽をはじめとするクリエイティブプロダクトに対するコメントはあくまでも筆者の感想や解釈であることをご留意いただければと思います。
(様々な解釈や感想を持ち合い、楽しめることもKpop(広義の意味での芸術)の良いところだと信じています。)
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プレゼンテーションのテーマ / 目的
筆者の働く会社では社内交流の一環として、ランチタイムに社内外のゲストを呼び、様々なテーマでプレゼンテーションが行われています。
そんな中、私が社内SNSで新入社員がKpopの話をしていたところに返信のやり取りの中で音楽オタクのアクセルを踏みすぎてしまったことがきっかけで、社内交流イベントで今話題のKpopについて話す…という奇特なシチュエーションに遭遇することになってしまいました。
社内でKpopについてただ話をするだけでは、ただの音楽オタクの戯言になり兼ねませんので、一応、テーマ/目的を以下のとおり明確化し、約1時間、2部構成で実施しました。
第一部:Kpopを知る編
・K-popの歴史を簡単に紹介し、これまで〜最近に至るまで流行している韓国アイドルまでの流れを体系的に理解するとともに、Kpopを楽しむ上で最低限知っておくと良いであろうことをインプットしていただくことで、世界で流行するK-popを 知るきっかけとしていただくとともに、社内コミュニケーションや家族内コミュニケーション(年頃の娘さんをお持ちのパパ社員が娘さん、奥様とのコミュニケーションに活用していただければ…という狙い)の材料としていただく。
第二部:Kpopを探る編
・”なぜ世界的に流行しているのか?”を第一部で紹介したアイドルのビジュアル的側面や音楽的側面以外の観点、特にクリエイティブ、マーケティング、プロモーション等の観点で "ちょっぴり" 考察し、ディスカッションすることで"自社サービスのファンを獲得する"というビジネス的観点にも繋げていただく。
プレゼン当時、田中絵里菜(Erinam)氏の著書「K-POPはなぜ世界を熱くするのか(めっちゃ良い本です!)」をはじめとする数多の名解説本を読んでいたこともあり、特に第二部のKpopを探る編に関しては名著達のエッセンスを的確に凝縮しながら伝えることを意識してプレゼン資料に落とし込みました。
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10分で振り返ったKpop20年超の歴史 その1
タイトルで書いてあることに無茶がありすぎますが、時間の都合上当日はあくまでも要点を絞って説明を行っていました。
今回、せっかく文章に残すのですから、もう少し詳細に解説を行いたいと思います。
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代表アイドルは数を上げれば数に限りがないですが、筆者が聴いたことがあるアイドルたちを中心に記載しています。
①〜1999年まで
この頃は韓国アイドルの黎明期であり、日本のジャニーズ事務所の育成制度や日本のポップス音楽がかなり参考にされていた時代であったかと思います。
彼らの功績が現代のKpopの礎を築いたといっても良いでしょう。
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②2000年代前半
この時代には日本人にも馴染み深いBoAや東方神起がデビューし、活躍を始めます。
SMエンターテインメントがavexと提携を進めたことは、後に続く東アジア、欧米への進出や現地語での歌唱、多国籍グループの展開等に続いていく大きな契機であったに違いありません。
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③2000年代後半
Kpopはよく第○次韓流ブーム等、世代毎に語られることが多く、一般的にはBoAや東方神起などが登場した2000年代前半が第1次…というように語られることが多いように思えますが、現在のように多くの事務所から多様なアイドル達がデビューし、お茶の間に浸透していった…という観点で、私はこの世代を日本における第1次ブームと定義し、プレゼンしていました。
この時代は現在でも現役で活躍するIUやSHINeeといったアイドル達がデビューした時代であるとともに、韓国国内で人気を博した多くのアイドル達がアメリカへの進出に挑戦し、失敗した時代でもありました。
彼らの挑戦がなければ、BTSやBLACKPINKなどのアイドル達が現在のようにアメリカで成功を掴むことはできなかったのではないかと思います。
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そのいずれもが成功とは言えない結果になってしまった。
④2010年代前半
PSYの江南スタイルはEDMのエッセンスを多分に含み、当時アメリカをはじめ世界中で大ブームとなったLMFAO / Party Rock Anthemや、EDMを代表する先駆たる一曲でもあるAvicii / LE7ELSなどの流行、前年に大ヒットとなったことに引き続いて2012年に世界中で大ヒットしました。
最終的にはアメリカビルボードシングルチャートで最高順位2位を記録するに至りますが、まだこの時はKpopが世界での覇権を取るには至りません。
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後ほども紹介しますが、この時代を境目に、より貪欲に音楽、映像といったクリエイティブワークの進歩が見られたように思います。
私がKpopを今のように特に着目して聴き始めるようになったのもこの時代であり、ともにLDN Noiseが手がけた兄弟曲でもある以下の2曲には"ハッ"とさせられました。
(参考)LDN Noiseに関しては以前私が彼らの関連曲縛りでDJした際のレコーディングがありますのでこちらも是非…
10分で振り返ったKpop20年超の歴史 その2
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⑤2010年代後半
Kpopが現在のように世界中でヒットとなり、快進撃をはじめたのはこの時からでしょう。
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インターネット、SNSが世の中のインフラとして当たり前のように普及し、"見たいコンテンツを""見たい場所で""自由に"楽しむことができるようになったこの時代においては、多くのアイドルがSNSを通したファンとのコミュニケーションを始めました。
また、後述の項で詳細を述べますが、オーディション番組発のアイドルが多く活躍することとなり、"アイドル達が成長し、スターへの階段を上り詰めていく過程も含めて"楽しむことができるオーディション番組が一大コンテンツとして認知されていったと思います。
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⑥2020年以降〜現在
ここまでざっくりとKpopの歴史を振り返ってきましたが、現在のKpopはこれまで以上に多様化が進んでいます。
音楽的流行やデザインの流行、トレンドを取り入れるスピードが凄まじく速く、かなり攻めたコンセプトでデビューするアイドルも多いです。
特に2021年の年末から今年にかけては多くのヨジャアイドルがデビューすることから、BLACKPINKやTWICEの後の席を狙うアイドルグループたちの大戦国時代に突入するでしょう。
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Kpopを楽しむ上では欠かせない4大事務所について
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Kpopには沢山の入口(ex.アイドルとしてのビジュアル、音楽、ティザーやMVなどの映像など…)がありますが、今回のプレゼンテーションはまだその入口を見つける前の方にも向けたものでしたので、"何に着目して話すべきか?"非常に悩みました。
その悩みの中で最終的に取り上げることに決めたのが"4大事務所"と"オーディション番組"というテーマです。
SM、YG、JYP、HYBEという四つの事務所はそのそれぞれになんとなくのカラー、特色があり、事務所のカラーから気になるアイドルを探す…という切口があってもイイのかな…と。
①SM entertainment
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まずはSM entertainment。
4大事務所の中で最も歴史が長く、多様な世代のアイドルが所属する事務所です。
多くの日本人がKpopを知るきっかけになったであろうBoAや、現代において絶大な人気を博すNCTが所属している事務所ですが、自分にとってSMといえばまず思い浮かぶのはこの曲です。
そう。少女時代"ソニョシデ"の"Gee"です。
日本でも大ヒットとなり、みんなこのGeeのダンスを真似していた記憶があります。
また、SMは音楽や映像などのクリエイティブコンテンツに関してのクオリティは他事務所と比較しても非常に高い印象があります。まだまだ可愛らしい幼少期にデビューしたBoAも近年では下記のようなカッコいい曲でダンスをしていたり(この曲はNAOやDua Lipaなどの作品を手掛けるイギリスのプロデューサーGRADES、Caroline Ailinが作曲として参加。振付にはInto1の力丸も関わるなど。)…
2016年にスタートした独自のデジタル音源チャンネル"SM STATION"や、EDMレーベル"ScreeM Records"など様々な形で音楽を発信していることも特徴です。
②YG entertainment
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続いてYG entertainment。
日本でも大ヒットとなったBIGBANGやBLACKPINKを擁する事務所です。
特に2010年代後半以降は所属アイドルや事務所代表のスキャンダルなどにより、ダークなイメージも拭いきれない部分がありますが、クオリティファーストであり、ヒップホップに強く(SHOW ME THE MONEY3で優勝したBOBBYの所属するiKONもYG。)アイドルの個性や長所を活かした楽曲や活動が多いイメージです。
2010年代終盤にKpop全体を通していわゆる"赤黒ドゥンバキ"系の曲が氾濫しましたが、強く、アグレッシブであるということはYGのアーティスト、楽曲の大きな特徴であると思います。
この春にBIGBANGがカムバすると言われているので、非常に楽しみです。
また、上述の2曲のような強さを打ち出した曲以外にもiKONのLOVE SCENARIOなどの名曲も見逃せません。
③JYP entertainment
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NijiU製作オーディション番組”Niji Project”でさらに日本での知名度を上げた。
三番目はJYP entertainment。
Niji Projectの大ヒットが記憶に新しいですが、早期にアメリカ進出を試みたWonder Girlsや、Miss A、TWICE、ITZYなど多くのヨジャグルを世に打ち出してきたことから、女性アイドルに強いイメージがあります。
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JYP所属ではないですが、餅ゴリさんが手がけた曲ではI.O.Iのノムノムノムが好き…
JYPの代表曲といえばやはり日本でも特徴的なダンスが話題となったTWICEのTTなど…
個人的な感想として2010年代前半まではガーリーでキュートな楽曲が多かった印象ですが、ITZYのNot ShyやStray Kidsの一連の楽曲など、最近は多様な音楽がリリースされている印象を受けます。
また、先日デビューしたばかりのNMIXXはガーリーとは対極の極めて難解な楽曲でデビューし、不穏すぎることで私の中で話題…
④HYBE(旧Big Hit entertainment)
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最後はHYBE entertainment。BTSを擁し、近年ぐんぐんとその勢いを拡大してきた事務所です。
もはや改めてここで私が語るのもおこがましいレベルの記録的大ヒット。
Dynamiteは2022年3月時点でYoutubeにて14億超再生。次ぐButterやPermission to Danceも4億超の再生数を誇るなどスーパーモンスターグループです。
個人的に彼らの勢いの凄まじさを感じたのはJames CordenとCarpool Karaokeをしていたあたりからでしょうか(毎度思うけど楽しそうすぎる…)。
今や多くの欧米アーティストたちと当たり前のようにコラボレーションしてます…
2020年にはSEVENTEENやfromis_9を擁するPLEDIS entertainmentを買収し、傘下を大きく拡大しています。
SEVENTEENは個人的に2021年のリリース楽曲がいずれも好きであり、先日のTwitterでのCharli XCXとのやりとりにてコラボレーションが期待されますので、2022年の彼らの動向にも注目です。
Kpopを楽しむ上では欠かせないオーディション番組・オーディション発アイドルについて
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多くのオーディション番組から多様なコンセプトのアイドルが生まれている。
Kpopを楽しむ上で欠かせない要素の2点目としては"オーディション番組"の存在です。
日本版や中国版の製作もあり、非常に人気の高い"Produce シリーズ(通称プデュ)"や、既にデビューしたアイドル達がお互いの楽曲をカバーしたり、混成チームで戦う"Kingdom / Queendom"、アイドルとは異なりますが、韓国国内のラッパー達が頂点を目指す"SHOW ME THE MONEY"など多様なオーディション番組が製作され、そこから未来のスター達が羽ばたいていっています。
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オーディション番組では自分の推し通称"1 Pick"を見つけ、応援し、成長していく姿を見届けることでも楽しめますし、審査の過程で行われる過去の名曲達のカバーやアレンジなど、様々なパフォーマンスを楽しむこともでき、多様な楽しみ方があることが魅力です。
2022年は"放課後のときめき"がファイナルを迎えますが、これから放送が開始されるQueendom2などまだまだ楽しみなオーディション番組が多く、忙しい日々になりそうです。
クリエイティブから考えるKpop
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その裏には素晴らしいプロダクションやアートディレクターがいる。
多くの方にとってKpopの入口はアイドルのビジュアルや、音楽であることが多いのではないか?と思いますが、映像やビジュアルといったアートプロダクトも完全に芸術の域であり、部屋に飾りたくなるような絵画のような魅力があります。
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いかがでしょうか?部屋に飾りたくなりませんか?笑
作品の視覚的なキーとなるスチールビジュアルに限らず、映像も本当に見飽きることはなく、ずっと流していられるような作品が多いです。
プロダクションや映像からKpopに入る道も大いにアリだと思います。
映像からKpopを楽しみたい!そう思った時にオススメな気軽に楽しめるKpopの映像作品があります。
それが"ティザー映像"です。
"Teaser = 焦らす"映像とは字の如くKpopに限らずマーケティングで多く扱われる手法の一つであり、情報を少しずつ、焦らすように公開することで顧客やファンの好奇心を焚きつけるものですが…
Kpopはこのティザーを効果的に多用しています。
また、このティザーもKpopの歴史の中で様々な形態の物が登場しており…
上記のSHINee / Viewのように世界観を表現したものもあれば
LOONA / Why Not?のように楽曲のフックとなるビジュアルや音楽を効果的に切り取ったものなど…
2021年7月に社内でプレゼンを行った際は最新のお気に入りTeaserとしてBTS / Butterを取り上げました。
最後にバターが乗ったホットケーキが抜かれるのが可愛くて好き。
プロモーションから考えるKpop
上記のように多様な表現手法で耳でも、視覚的にも楽しめるKpopですが、プロモーションの方法にもたくさんのワクワクが詰まっています。
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あらかじめ活動のスケジュールを把握し、共有されていることは来るべきカムバックに向けて盛り上がっていく一体感をファン同士が共有できるとともに、毎日新しいワクワクがあることが日々の仕事の楽しみにも繋がります。
また、活動期間中に限らずファンとアイドル達の交流を可能にしたコミュニケーションプラットフォームの存在とそれらを活用したプロモーションも盛んに行われています。
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プロモーションの項目並びに、本プレゼンテーションで最後に取り上げたのが
"Dance Practice"です。
2021年にはダンスにフォーカスしたサバイバル番組である"STREET WAMAN FIGHTER"も話題になりましたが、Kpopを定義する要素として"ダンス"の存在は欠かせません。
ダンスに関しても楽曲の活動期に合わせて様々なDance Practice Videoが公開され、本人達の映像を観ながら振付を確認し、楽しむことができます。
私自身はダンスにそこまで明るくないですが、"本人達が実際に""ミラーバージョンなどの複数のバージョンも含めて"ダンスプラクティスを公開しているというのは、Kpopのダンスを踊りたい、参考にしたいファンにとってはとてもありがたいことでしょう。
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まとめ
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上記のように多様な楽しみ方があり、ワオ感、ワクワク感が満載なのがKpopの魅力です。
私の仕事も然り、ビジネスの本質には"ファンを増やす"ことが大切であると私自身感じているところがあり、そのヒントがKpopには詰まっているように感じます。
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社内では今回のイベントで初めてKpopに触れる人もいたので、Kpopビギナー向けに通勤時に聴いてもらえる40分のdj mixを2本用意…
(朝急いでPioneer DJで一発録りレコーディングしたのでめちゃくちゃになってしまったのが心苦しいですが…)
"きっかけの一つとして聴いてみてください"というところまでを約1時間の中で駆け巡っていきました。
(本当はあと5時間くらい話したいところでした。)
いつかまた続きが出来るといいです。
本エントリーは自己の記録のためにまとめたものではありますが…
そもそも本機会をいただいたことと当日参加してくれた多くの社内隠れKpopファンに感謝しています。
深謝。