コメントリレー小説『かぐや姫』
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※この記事は、毎週土曜日開催の企画『コメントで、リレー小説しませんか』で紡がれた物語を編集したものです。
本編
うっそうとした竹林の静けさのなかを、一人の老人が歩いている。丸まった背には、くくった竹の束が担がれていた。
ビューっと風が吹き抜けて
ざわざわと竹林が鳴る
強い風に思わず顔をそらすと
竹林の奥で何かが光った
「うっわ!危なかった。これ俺のスマホじゃないか。」おじいさんは竹の束を下ろして光っているスマホを拾いあげた。
風になびく竹の音でわからなかったが着信音が鳴っている。
電話に出ると、高い澄んだ声が聞こえた。
「そのまま、まっすぐ進んで。待ってるから」
知らないはずなのに、どこか懐かしい声で、
言われるがまま、まっすぐと進んでしまう。
進むにつれて、竹林はより暗く、濃くなっていく。
ふと足を止めるおじいさん。
「はて、俺はここになにしに来とったんやっけ?」
「あほう!」
おじいさんのボケに、闇の中から声がした。
声のした方をみると、
一本の竹がキラキラと輝いていた。
「光る竹を切れ。」
スマホからも声がする。
光る竹からも声がする。
…。
おじいさんは腰にぶら下げた竹ノコギリをつかんで切ることにした。
と同時に、ワイドショーで取り上げられていた闇バイトに手を染める若者のことを他人事のようにみていたなとふと思った。
「私はいったいどうなってしまうのだろう?」
しかし目の前の竹は眩しいばかりに輝いている。つまり、光。ということはこれは、光バイトであり、問題はなかろう。
そう自分を納得させたおじいさんが、切った竹の中から出てきたものを見る。
竹からピョンと出てきたのは、
眩いばかりに輝く小さな美しい女の子
と、スマホを耳にかざし、女の子を抱いた
おばあさん。切った竹の中には、夜空のような異空間が広がっていた。
「これは夢だ。」
子どもが居なかったおじいさん夫婦は、美しい女の子を家に連れ帰ることにした。
「これは闇バイトや誘拐じゃないよな?おばあさん?」
「大丈夫でしょ?光バイトだから」
おばあさんは歯が数本抜けた顔で、嬉しそうに笑った。
次の日、おじいさんの竹取銀行の口座に100万円が振り込まれたとの通知がきた。
「ほんとに闇バイトじゃないよな?」
「光バイトだから」
そう言い残すと、おばあさんは昨日予約した歯医者に出かけて行った。
おばあさんは銀行員に使い道を尋ねられながら竹取銀行から100万円下ろすと、歯医者にいってインプラント手術を終えてきた。
100万円のうち99万円使ってしまった。
ちょっと使いすぎたかなとおもって残りの一万円を持って竹藪に行き、おじいさんが切ったとおもわれる光る竹の切り口にお返しした。
果たして切り口をのぞくとおじいさんの言っていた通り夜空のような異空間が広がっていた。
あっ!
思った瞬間、声を上げる間もなくおばあさんは竹の中に吸いこまれてしまった。次に目覚めると、そこは……
そこは...白く輝く砂の上だった。
目の前には同じ光で輝く宮殿。
振り返ると背後には青い丸い球体が
星々の中に浮かんでいる。ここは一体..。
「ようこそ、いらっしゃいました。
うつし世のかぐやのお母様。」
そこにはこの世のものとは思えないほど
美しい女が羽衣をまとい、立っていた。
「ということはここがかぐやの本当の家なんじゃな。だとすれば、帰さねばならぬのぉ」
「左様でございます。あの子は罪を
犯しましたが、いずれはこの常世に戻る身。
この若返りの薬などは、ささやかなお礼です」
若返りの薬と、月色の反物を差し出された。
おばあさんはハッと目が覚めると、
竹藪の中に転がっていた。手元には、
小さな壺と月色の反物。
おばあさんが壺と反物を手に家に戻ると、そこにはだいぶ大きくなったかぐやと、だいぶ老いてしまったおじいさんがいた。
「かぐやと..お爺さんなのかい?」
私は今しがた、おまえさんのーーー
口が動かない。これは一体..。
「お爺さん、この壺の薬をひと匙お飲み下さい」かぐやが美しい声でそう言った。
するとお爺さんはお婆さんと出会った頃の若者の姿となった。
「おお、これは何としたことじゃ。婆さんお前さんも飲んでみんか」
そして婆さんも爺さんとの大恋愛の最中の美しい村娘の姿となった。
若返った爺さんと婆さんはかぐやのことなど眼中になく、二人でイチャイチャし始めるのだった。
「お爺さん、お婆さん、そういうことは
私のいないところでなさって下さいませ!」
かぐやの透き通るような大声を聞き、
道を通りがかった人々が生垣から覗いた。
「あの美しい女は誰だ」「爺さん、婆さんはどこだ。あいつらは誰だ」ガヤガヤとし始めた。
人々のガヤガヤは噂となり、噂はすぐに帝のもとに届いた。
「いや、でもあんな村にもうかわいい子いないっしょ」
帝はちょっとチャラかった。
「じゃああのカワイ子ちゃんは俺がいただき!!」
お付きの者はもっとチャラかった。
新月の夜、お付きの者は夜這いに向かった。
忍び込むのは慣れたもの。
暗闇に漂う芳しい香りに、
あっけなくかぐやの寝床をみつけた。
「みーつけた♪」
しかし、触れようとした瞬間
そこにいたはずの姿が消えた。
かぐや姫は、おじいさんとおばあさんの間に産まれたばかりの赤ん坊の世話に追われていた。
夜に赤ん坊がなこうとするや否すぐに隣の部屋に飛んでいくのだった。
「新生児の世話、キツい。」
かぐや姫は明らかに睡眠不足で、美人といえどもとても人様にみていただける状態ではなかった。
それをうっかり目にしたチャラいお付きの者は震えあがった。
触れようとした途端消える姿、いるはずのない赤子の泣き声、そして幽鬼のごときかぐや姫の風体。
自身は夜這い目的ゆえ、帯刀もしていない。
そんな調子なのでかぐや姫はチャラ男のボーイフレンドゲットのチャンスすらないのだった。
赤子の首がすわったころ、かぐや姫はオムツ入れのつづらのそこに美しい1枚の反物を見つけた。かぐや姫は年頃の娘である。心躍らせ肩にかけて反物に夢中になっていたところ、赤ん坊がまた泣いた。
あわててかけよったところ、反物が赤ん坊の上にはらりと舞い落ちた。
「あら!」
あわてるかぐや姫をよそに
反物の下では何かみるみる大きくなっている。
かぐや姫が反物を取り上げるとそこには
1人の美しい若者が寝ていた。
「まぁ..」
若者は目を覚ますとかぐやを見つめた。
「お姉さま。いや、かぐや様。
お慕い申し上げております」
突然の展開にかぐやは驚いた。
「あなたは私の弟です..」
「とはいえ、血は繋がっておりませぬ。ささ、閨へ参りましょう」
若者は強引にかぐやを閨に連れて行こうとするのでした。
「え、ちょいまち」
立ちふさがったのは、先のチャラいお付の者。
修羅場の予感。
「ちょい待ち‼︎」
さらに若返ったお爺さんとお婆さんも参戦の様相。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵が展開されるのか、それとも酒池肉林が催されるのか。
いずれにしろ乱行になることは間違いなさそうだ。
その場に異様な空気が漂う。
すると、部屋の片隅にあった丸い大きな鏡が光った。誰かがこちらを見ている。
「平助(お付きの者)、そなたそこで何をしておる?何故、この鏡の中におるのじゃ?」
聞こえてきた声は帝のもの。その背後には石造皇子達の声もする。
にゅっと向こう側から手が伸びてきた。
帝はこちらへ来ようとしている。
「ちょ、ダメっすよ帝」
これ以上、ライバルを増やすわけにはいかない。そう思ったお付きの平助は伸びてきた手を向こう側へ押し戻す。すると今度は逆に引きずり込まれてしまった。
すると、鏡は元に戻った。
「あれは一体何だったのかしら?」
お婆さんは呆れたように言う。
「そちらのお方は誰なんだねかぐや?」
「あらお爺さん、何を言っているの..」
「私が誰と、いつ寝ようが関係ないわ。いつまでも父親ヅラしないで」
かぐや、反抗期だった。
「それともお爺さまが私のお相手をしてくださるの?」
「そんなら私は帝がええ。」
お婆さんが鏡の中を覗き込んだ。しかしなにもうつらない。
しょんぼりするお婆さんをみてやっぱりそれはいかんなと思ったお爺さんは若者に言った。
「かぐや姫を嫁にもろうてくれ。」
かぐや、お年頃でもあった。
いくら血は繋がってはいないとはいえ、
おしめを替えたわが娘に不覚にもドキッした。
それほどまでに妖艶で美しい娘に育っていた。
「はて、どうしたものか..」
気まずい沈黙を破ったのは、若者だった。
「では、おとうさ……いえ、ここはあえてお爺さんと呼ばせていただきましょう」
このような前置きから、美しい彼はこう切り出した。
「かぐや姫さまをかけて、この僕となにか勝負をいたしましょう」
「ちょっと待て若造、お前のような下っ端にかぐやを渡すことはできん。欲しいならこっちの婆を持って帰れ」
「爺さん、それはいい案かもしれん。そこの若いの、婆はどうじゃ?」
「お父様、お母様、いい加減になさいませ。
この子は朔夜にごさいます。
息子の顔をお忘れになられましたか?」
息子……とお爺さんは、ため息のような声を出した。
「儂の息子は、婆との子じゃないぞ」
言ってから、しまったという顔になる爺。
場の空気が底冷えしたように冷たくなった。「父様、俺は一体誰の子なんです?」
「実はな、隣の源治が出掛けた隙に、嫁のおミツとな」
「そういうことだったのか。」お婆さんは泣き崩れた。
一同声を失った。
するとそこへ戸がガラリと開いた。みると源治とミツの息子がみたこともないような美しい娘を連れている。
「じっさ、ばっさ。久しぶりじゃぁ。この女子に誰かいい婿はおらんか。」
きくとこの娘は源治が山で見つけた光る栗から生まれ出てきて今日まで育てた娘だという。
「源治の息子 登利須、お前が娶ればよかろうに」
「俺はもう栗には飽きた。100年分くらいやっちまったでな」
「いいかげんにして」
という悲痛な声はかぐや。
「黙って聞いていれば、もらうだの、渡すことはできんだの、いい婿はおらんかだの。まるで人を物みたいに言って。もういいわ。この栗の女の子はわたしが面倒みます」
「光る栗はほんまは私の娘じゃ。」
誰に頼まれたわけでもなくお婆さんは告白した。
全くしっちゃかめっちゃかにもほどがある。
その夜、光る栗姫とかぐや姫とお婆さんは竹林へと消えた。
美しい反物だけを残して。
◇
その夜、帝は彷徨っていた
何かに導かれるように竹林を歩く
視界が開けた瞬間に、大きな泉が現れた
そこには水浴びをする三人の影があった
「そこで水浴びするのは誰じゃ? おなごか?」
さすが帝というべきか、何を気にすることもなくどんどん水浴びする三人に近付いて行きます。
「ギャーッ!!」
最初に悲鳴を上げたのはお婆であった。
「安心せい安心せい。オレっち、帝」
さすがチャラい帝。お婆の耳をつんざく金切り声にも、動揺はない。
叫ぶお婆の横に、月色と栗色に輝く乙女がいた
「なんと美しい女子か」
帝は濡れるのも気にせずに、
すかさず近づいてくる
すると水面に丸い満月が光った。
そのまま4人は水面に落ちていく。
記憶は白い光に消えていった。
気がつくとそこは、月の宮殿。
かぐや姫、栗姫、お婆、そして帝は、
輝くばかりに美しい月の人々とともに、
終わらぬ宴をくりかえす。
そして、青い星を眺めながらたまに呟く。
「あそこには誰かいる気がする」
そうすると、青い星の一点から月の反物が
小さく輝くのだった。
おしまい🌕
めでたしめでたし
編集後記
さて今回の作品『かぐや姫』、いかがだったでしょうか。
こうして本文のみを抽出し、それをひと繋がりのものとして読んだとき、その印象ががらりと変わるのは、ここ数回の編集作業をとおして感じたことではありますが、しかしなんだか今回はちょっと違う趣があります。
どことなく、『大奥』や『源氏物語』を思わせるような。
まあ僕、どちらもちゃんと読んだことはありませんが。
しかしそれは我々の中にふかく根をおろす、『かぐや姫』という馴染み深い物語にそうさせるものがあるのか、はたまた、なんとなく侘しさを覚えるこの11月という季節柄のためか、あるいはもっとなにか別の理由か。
いずれにせよ、このコメントリレーというものの新たな側面を見ることができた気がして、たいへん興味深い思いがします。
参加する書き手次第で、物語はいかようにも変わる。
そんな当たり前のことを、また改めて教えられたような気がします。
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