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【エッセイ】栗きんとん、作りました。【2000字くらい】



栗と砂糖でできるもの


先日、ゆらゆらミルコさんの記事にお邪魔したときに、僕の記事を読んでくださったミルコさんからこんな旨の【お告げ】をいただいた。


拾った栗を栗きんとんにし、中身が金色だったと言って栗拾いに同行した栗ガールズに配りなさい


僕はおそれおののきながら、不敬にも栗きんとんの作り方を知らなかったので、調べた。

『栗きんとん 作り方』で検索をかけ、一番はじめに出てきたページをみてみる。

そこにはなんとも可愛らしい金色のお菓子が。

材料も栗と砂糖があればできるという。

これだけの材料と単純な手順で、高級感のある和菓子が作れる。

それはもうほとんど錬金術の類いだった。

僕はミルコさんの【お告げ】と食欲に導かれるまま、作業にとりかかることにした。


栗きんとんを作るということ


ページに記された栗きんとんの作り方は、以下の通りである。

まず、栗を水でよく洗って40~50分茹でる。

茹であがったら栗を縦半分に割り、中身をくり抜く。

くり抜いたものをマッシャーやすりこぎで細かくつぶし、砂糖を混ぜて火にかける。

しっとりしてきたら、鍋から出して形成。

おわり。

なんと単純だろう。

そもそも自然の栗そのものからして、最初から梱包材のようなイガに包まれていたり、食べ頃になったら勝手に落ちてきたり、二重に個包装されていたりと、ホスピタリティに富んでいる。

拾ってくる手間にしたって、木は誰にでもアクセスできる近場に植わっているし、慣れたら探すのも楽しくできるようになり、コスパ、タイパの面でも申し分ない。

もしかしたら現代の若者こそ、栗を拾うべき世代なのかもしれない。みたいなことを考えてわくわくしながら栗を準備した。

祖母が、拾ってきた栗はすべて茹でておいてあったので、あとはくり抜いて砂糖と火にかけるだけ。

そのことを伝えると、基本ノリが良い祖母も、興味津々で用意にとりかかった。

「楽しみやねえ!」



そして、一時間が経過した。

我が家の台所には、沈黙が降り立っていた。

先ほどまで作業用BGMに『UNISON SQUARE GARDEN』の楽曲をシャッフルで軽快に奏でていた僕のiPhoneもバッテリー切れをおこし、いまは口を閉ざしている。

テーブルの向かいに座る祖母は、眉にしわを寄せ、しきりに手のひらを開いたり閉じたり。たっぷり十年は歳をとってしまったように見えた。

あるのは、スプーンが指に食い込む痛みと、かさ、かさ、という栗の殻が積み上げられる音だけ。

中央に置かれた器には、まだ中身のある栗が半分ほど残っている……。



なんとかすべての栗を向き終えたとき、日は傾きかけていた。

作業は昼過ぎから行われていたので、たっぷり2,3時間はかかったことになる。

途中、何度もスプーンを持つ手を入れ替えたので、左手にも痛みがあった。

いつのまにか、向かいに座る祖母はお茶を飲みながら新聞を読んでいた。

彼女になにか文句のひとつでも言おうかと思ったけれど、そんな気力すら湧いてこなかったので、とりあえず保留とした。


皮に身がちょっと残ってるけど、
それどころじゃなかった。


救いだったのは、そこからの手順が簡単だったこと。

家に簡易的なフードプロセッサーがあったので、それで栗の中身を細かくしたあと、ざっと渋皮を取り除き、量を測ってその分量に対しての砂糖を混ぜた。

皮から取り除いた栗の総量は、約500gだった。


二回に分けて、火をいれた。


栗の形を目指した。


なんとか映えさせようとした。


成果と返礼


栗の豊かな風味が、牛乳によくあって、贅沢そのもの。

ほろほろとして甘く、とても美味しかった。

残念ながら金色にはならなかったのだけれど、とても美味しかった。


出来上がったものを、ミルコさんの【お告げ】どおり、近所のおばあちゃんたちにお裾分けしにいった。

「このあいだ一緒に拾った栗を剥いたら、こんなのが入っていました!」

僕はちゃんと【お告げ】に則してそう言ったのだが、祖母がすぐにどれだけ手間がかかったかという話をはじめてしまった。

けれどみんながみんな、喜んで受け取ってくれた。



これが今週はじめの日曜日のこと。

そして金曜日の今日に至るまで、栗きんとんをお裾分けしたおばあちゃんたちから我が家に、おいしかったと感激の言葉と様々な品々が納められた。

【お告げ】の神秘的パワーに凄まじいものを感じたので、以下にその品々を書き残しておくことにする。


とれたてのイカ1杯。
家庭菜園の白茄子2つ。
木1本ぶんの柿。
黒糖かりんとう2袋。
なんらかの植物の苗。
新米10kg。
馬2頭。
生どら焼3つ。
田んぼ1枚。
白髪染め2箱。
塩1年分。
爽健美茶3本。
そして……栗1kg。


家の玄関先に、ビニール袋を差し出すおばあちゃんの一人。

「ありがとう!」

僕の笑顔は、ひきつっていたかもしれなかった。



▼明日までに、終わるでしょうか。


▼栗仕事よりも楽しいはず。


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