通行人と、どうすれちがえばいいかわからない。
先日の夜、散歩をしていると、やけに街の人通りが多かった。
近くで祭りをしていたらしい。
僕も行きたかったなあと思いつつ、祭りのあとの雰囲気を味わうために、歩調を緩める。
そのときのことだ。
『小さくなりたい』
なぜそんなことを考えたのか。
おそらくその街の中で自分が、取り残されていたからだ。
帰途につく人々の中で、僕だけが違う方向に向かって歩いていく。当然だろう。祭りは終わったのだから。
でも僕は、祭りに参加していないくせにその余韻を感じたいだけの、いうなればただ飯食いのような存在だ。
そんな調子だから、周りから浮き上がってしまったのかもしれない。
人目が気になった。
すれ違う人々はみんな、ひとりじゃなかった。
その街では僕だけが、ひとりきりで歩いているのだった。
若いカップルが前方からやってくる。
三人で祭りに繰り出していたおじさんたちが笑いながらやってくる。
家族連れや、女子会や、夫婦や、男子学生や、姉妹が。通りすぎる。
僕はそのたびに『どう振る舞ったらいいんだろう?』なんてことを考えてしまう。
うつむいたほうがいい?
自分の足元を見ていればいいか?
それとも、少し目線を上げて、遠くを眺めるようにする?
あるいは周囲の目を引くものに、気を取られたフリでもしようか?
横目で見るのは、流石に失礼だろう。
しかし前からやってくる人々は、みんな楽しそうな表情を浮かべている。
それを少しでも僕にわけてほしかった。
ただもしも、そこで目があって難癖をつけられたらどうしよう?
「なに見てんだよ」
僕は、髪を金色に染めた二人組の若い男に声をかけられる。
「そっちが見てきたんだろうが」
僕はそう返す。
「あ? 喧嘩売ってんのか?」
「買うのは出店のわたあめくらいにしときな。まあ、ちょっと割高だけどな」
「ぶっころす!!」
しばらくあと、僕とその二人組は地面に倒れ込んでいた。体の節々がひどく傷んだ。
「あんた、なかなかやるじゃねえか」
「お前らもな」
河川敷の芝生に寝転がる彼らの金髪は、夕日を受けてきらきらとかがやいていた。
しばらくその二人と、話をした。
彼らは、自分たちのチームの仲間が少年院に行ったことや、頭に龍の入れ墨をいれた長髪の友人のことや、好きな人が死んでしまう未来を変えたいからタイムスリップしてきたことなどを話した。
「……名前はなんていうんだ?」
二人組の片方が僕にきく。
僕はおもむろに立ち上がり、服についた芝をはらった。
「名乗るような名前はねえよ」
僕はそれだけ言って学ランを拾いあげ、川の土手をあとにした。
家に帰って、シャワーを浴びた。
服を着替えながら「こんな目にあうくらいなら、もう外出は控えよう」と思った。