旅行先で、大自然の片鱗を味わった話。
昨日まで、長野県白馬村にいた。
色々なことがあった。
早朝の濃い霧に包まれた一帯を散策したり。
水深が30メートルもある湖で、サップを体験したり。
BBQをしたり。花火をしたり。
みんなでカレーを作ったり。
満天の星空を眺めたり。
真夜中のコテージに『13日の金曜日』の怪人『ジェイソン』が現れたと騒ぎになったけど、ただのパックをした風呂上がりの妹だったり。
もう一人きた、と思ったらパックをした妹の彼氏だったり。
とにかく東京に住んでいる僕にとって、そこは異世界のような場所だった。
三日間という短い期間で、これだけの異世界感を味わうことができた。ということは、もっと長い期間の宿泊となれば、さらに異世界度は増すはずだ。
一週間も泊まれば、狐や狸なんかの動物に遭遇するかもしれない。
一ヶ月で、ネットにも載っていない滑稽なかたちのキノコを食べているかも。
半年で熊や鹿に会うこともあるだろう。
幸運なら、一年くらいで龍もお目にかかれるのではないか。
五年ほどたった頃、自分たちが住んでいる山が、少しずつ動いていることに気づく。
十年でその山全体が、巨大な陸亀の背中だったことを知る。
さらに十年、二十年とすぎる頃には、自分の体がちょっとずつ植物に近づいていることを悟る。
時間の感覚がうすれ、意識がなにか漠然としたものと混ざりあい、『個』という概念が自分の中から消えるのを自覚する。
そのころには、僕が森であり、森が僕であるといえる。
僕は木をよじ登る栗鼠であり、風に揺れるすすきであり、さえずる野鳥になる。
実をつける枝であり、輝く流水であり、苔がむした岩になる。
それはいったいどのような開放感なのだろうか。
でも僕は九月末に出る新しいゲームをしなくてはいけないので、残念ながらその体験はできないのであった。