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Púca プーカ と緑色の石

<あらすじ>
大自然の偉大なる恩恵を受けた天然の石たちは、 不思議な妖精たちと出会うための、沈黙に満ちた案内人。 言葉にならない言葉で話しかけることで、 私達を妖精の住む世界へと誘ってくれるのだ。 (アイルランドの馬の妖精 プーカ)、 (スコットランドのアザラシの妖精 セルキー)、( コーンウォールの妖精 ブラウニー)、 (ケルトの妖精 グリーンマン)、( アバディーンの妖精 シーリーコート)、( スウェーデンの妖精 トロール)、 彼らと繋がるために、 それぞれ神秘の力を持つ石たちが、 旅先案内人となってくれる・・・・・


Púca プーカと緑色の石 (英国の不思議な妖精と石達 その1)


アイルランドの中東部マリナホン村に、
キリアン・オケリーと呼ばれる少年が住んでいた。

キリアンの両親は牧場を営んでおり、
彼は、たくさんの馬に囲まれて育った。
朝早くから、
夜遅くまで、
キリアンは毎日忙しく馬の世話をした。
中でも、彼のお気に入りは、
毛並みの整った真っ黒い大きな馬だった。

ある晩、
眠りについたキリアンの枕元に、
突然、大きな黒い馬が現れ、
こう言った。
「おいらの糞の中に緑色の石を見つけたら、ヘリオトロープの葉で包むと良い。」

翌朝、キリアンは、お気に入りの黒い馬の糞の中に、緑色の石をみつけた。
彼は、その石を水で綺麗に洗うと、
母親のハーブ畑に飛んで行って、
ヘリオトロープの葉を摘んだ。
そして、その葉っぱで、緑色の石を包むと・・・

キリアンの姿は、誰の目からも見えなくなった。
それからのキリアンは、姿が見えなくなるのを良いことに、悪さをし始めた。
彼は、好きな時に姿を消しては、
近くの畑からこっそり野菜を盗んだり、
マーケットでパンをつまみ食いしてみたり、
しまいには人々から財布や金貨を盗み取った。
そして、大好きだった馬の世話もすっかり怠けるようになってしまった。

ある晩、
盗んだ酒でほろ酔い気分になり、ひとり夜道を歩いていると、
目の前に突然、黒い馬が現れ、
キリアンをポーンと闇に放り投げた。
気がつくとキリアンは、馬の背に乗っていた。
馬はキリアンに、
「プーカの宝物を人を困らせる為に使うやつは、完全にその姿を失うだろう。」

その日から、
誰もキリアンを見た者はいない。
でも、キリアンには見える・・・
せっかく汲んだ水を、転んでこぼしてしまった少年や、
母親とはぐれて泣いている少女を、
そっと助けてやったのは、姿の見えないキリアンだ。

もとの人間の姿に戻れないと知ったキリアンは、
心を入れ替え、
姿無き姿で人々を助けていたのだった。

昔から、穀物が枯れると
”悪い妖精プーカの仕業だ” などと言い伝えられてきた。
しかし、この村では誰かが助けてもらうと、
「プーカが現れて助けてくれた。」
「大きな黒い馬が突然現れて救われた。」
「去った後には緑の石が転がっていた。」
などと噂されるようになっていた。




<物語りの解説>

プーカは人間に害をもたらすとも、恩恵をもたらすとも言われている。
これは妖精全般に言えることだが、良い行いには良い行いで、悪い行いには悪い行いで返すのが妖精なのだ。黒い馬の姿をしたプーカが、毎日かいがいしく世話をしてくれる少年に、お礼の贈り物をした。それは姿を消す力のある不思議な緑色の石。緑に赤い点の入ったブラッドストーンは、神秘的で魔術的な特性を持った石だ。ところが、少年は、その贈り物を自分の利益のために使用し、他人を困らせる行いをしてしまう。プーカはそんな少年を二度と元の姿に戻れないように、彼の姿を完全に消してしまった。自分が何を得て、何を失ったかに気づいた少年は、心を入れ替え、今度は自分を犠牲にして他人のために尽くそうと誓う。ブラッドストーンは「献身」の石。自分の身を犠牲にして人々を助けたイエス・キリストの石だ。状況が悪い時にこの石を握り締めて祈ると、状況が好転するという。




<プーカ>

プーカはケルト神話に伝わる妖精で、アイルランド伝承のpúca, pooka, phouka, púka とウェールズ伝承の: pwca, pwwkaとして信仰されている。プーカの語源は、ヘッジホグ(はりねずみ)より大きな山アザラシ(ポーキュパイン)のポック(ポーキュ)<山や廃墟に住む「獣の精」の意味もある。>そこからプーカやプッカの名が作られたという。このプーカは、シェイクスピアが「夏の夜の夢」で作り上げたいたずら好きな妖精パックのもとになっている。アイルランドのキラーニー近くの山間に住む年配の人々は、「昔はプーカがたくさんいた。プーカは性悪で見た目は黒く、悪いもの。鎖を周りにたれ下げた野生の若い牡馬の姿をしている。そして、うとい旅人に随分悪さをするのだ。」などと語っていたという。プーカは変身が得意で、様々な恐ろしい姿になる。多くの場合、流れるようなたてがみと輝く黄色の目、艶の美しい黒馬の姿であるが、時には鷲や大きな黒山羊の姿をして現れる場合もあるという。そのため、アイルランド語のpoc(牡山羊)がプーカの語源であるともされている。プーカはフェアリーの中でも最も恐れられており、強い魔力を持つと信じられてきた。プーカは夜、旅人を待ち伏せし、その背中に放り投げる。プーカをないがしろにしたり、怒らせたりした相手を家から誘いだし、背中に乗せると言われている。戻ってきたとき、その者たちは別の姿に変わっており、二度と元の姿に戻ることはできない。プーカには人間の言葉を話す能力があるといわれている。




<ブラッドストーン>

ジャスパーの一種で酸化鉄を含み、濃い緑に赤い色の斑点がはいったものをブラッドストーンと呼んでいる。イエス・キリストが十字架にかけられた際、流した聖血が足元にあった石を赤く染めて、できたものという伝承がある。エジプトのヘリオポリスで多く産出されたことから「ヘリオトロープ」とも呼ばれていた。 ギリシャ神話では、同じ名前のヘリオトロープというハーブと共に身体をこすると自分の姿が見えなくなるとされている。古代エジプトでは、この石を粉にして蜂蜜と混ぜて止血剤として用いていた。また、「女神イシス」の血の石と言われ、守り石とされていた。

「献身」を象徴する石で、困難を乗り越え、挫けず、前向きに頑張る力を与えてくれる。気弱になっているときに自信を取り戻させ、逆境に負けない精神力を養い、目的に向かって再びチャレンジする勇気を授ける。装飾品として身に付けると、敬意をはらいたくなるような魅力が増す効果があるそうだ。寛大さと優しさ、包容力を育み、大きな愛で他人と接することができるように助けてくれる。愛する人達に惜しみない愛を与え、与えた愛がより深い愛になって返ってくる効果があるといわれている。強力な癒しの効果を持ち、潜在能力を開花する、神秘的で魔術的な特性を持った石。霊的エネルギーを導き、直感力と創造性を高める。神経過敏や攻撃性、焦燥感を軽減する。心を鎮めて、混乱を取り除き、思考の明晰性を高めてくれると言われている。グラウンディングと保護作用に非常にすぐれており、好ましくない影響を遠ざける。その為、事故や災害から守るお守りとして身に付けると良い。たくさんの効果が期待出来る石で、豊かさや繁栄、成功を引き寄せる。「ひっくり返す石」とも言われている。物事が上手くいかないときにこの石を握りしめて祈ると、状況が反転するとも言われている。そして、パワーを使い果たしたことによって、赤い部分が白く変色することもあるらしい。



Selkie セルキーと白黒まだら模様の石 (英国の不思議な妖精と石達 その2)
https://note.com/otueotjf/n/nd2fbdcb18d01


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