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引き裂かれた男達(キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの感想)


現在の観てよかった映画5選

 映画を観た後はいつも自分の中で、今年本当に観てよかった映画5選と勝負させている。評価がよく新たに5選に加えるもの、面白かったけど入れるには至らなかったもの(ジョンウィック4、インディージョーンズ5(本当か?))、そもそも論外だったもの(シン仮面ライダー、アントマン3)、様々だ。
 今の観てよかった映画5選がこのとおりである。

  1. スパイダーバース アクロス・ザ・スパイダーバース

  2. フェイブルマンズ

  3. キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

  4. 君たちはどう生きるか

  5. フラッシュ、スーパーマリオブラザーズ、バビロン、エブエブ

 いきなり5選じゃない。5本目が決まらないのである。5本目に挙げた映画はどれも素晴らしかったのだが、ここにあげるほどなのか…という疑念が隠せない。スーパーマリオブラザーズは映画体験としては最高だったがさすがに子供過ぎるか…、バビロンは面白かったけど周りの評価がついてこなくて自信なくなるな…、エブエブも観たときは最高だ!ってなったけど時間経つとそこまでよかった気がしないでもないな…、そうなるとやはり笑って泣けたフラッシュか…いや本当にフラッシュなのか?と堂々めぐりとなる。
 スパイダーバース2はもうベスト確定だとして(じゃなかったら3回も観に行かない、次回作の出来に左右される気もするが期待は大きい)、2~4については巨匠の凄さを改めて実感させられた。

巨匠の凄さを実感

 まず、フェイブルマンズだ。スピルバーグの半自伝的映画だと聞いて、ジュラシックパークとかインディージョーンズの舞台裏が見れると思い、ワクワクしながら観に行った。そうしたら、フェイブルマンズ少年が映画業界まで働きだすまでの地味~~で辛~~い半生を振り返るものだった。見ていながらなんて地味なんだ…と我に返る瞬間があったのだが、見終わった後にあああのシーンは印象的だったな…このシーンも心に残っているな…と非常に後味がよかった。この映画の凄いのは、スピルバーグ本人のトラウマのはずなのになぜあんなに客観視できて魅力的に魅せられているのだろうと思ってしまうところだ。やっぱ映画撮るの上手なんだなこの人。
 この映画を観た後もう1本位観たいなと思い、シンドラーのリストを観た。3時間半の白黒だったのでなかなか今みてもなぁ、で後回しにしていた映画だ。もうびっくりした。全編ぶっ通しで面白い。いや面白いって表現はよくないかもしれないが、とにかく心にぶっ刺さった。ナチスのユダヤ人を人間扱いしていないからこそできる非道な行為の数々、シンドラーも特段聖人という訳じゃないのだが、残虐行為を目の当たりにして自分に本当にしなくてはいけないことをするまでの感情の変化、ユダヤの人々のあれだけ辛い環境にいてどうにか希望をもって生きる様、そして、シンドラーが助けた後にはなったセリフ…全てが素晴らしかった。映画館でみた以外の映画なら今年で一番よかった。いまだに最後のシーンみて泣くもん。
 君たちはどう生きるかもよかった。これはみてすぐ書いたFirmarksのレビューを引っ張る。以下引用。
 これは映画中身の感想より、思い出すことがあった。自分が大学の合唱サークルにいたとき、指揮者の90過ぎのおじいちゃん先生の家に招待されたことだ。そのおじいちゃんは楽しそうに自分の身の上話をして、最初は面白く聴けてたんだけど、だんだんお酒が入ってきて訳のわかんない話に転がってくる。最後はこの人何が伝えたかったんだろうって思いながら帰るんだけど、おじいちゃんがなんだかんだ自分達のことをめちゃくちゃ案じてるんだなぁと感じると今日行ってよかったって思えてくる。そんな一日を思い出すような素敵な映画だった。
 後この映画に関しては最後の最後で涙が止まらなくなった。今年映画館で観た中では一番泣いたと思う。意味が分からない映画なので時間がたつと感動も薄れてくるが、それでも素晴らしかったといえる。
 で、キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンだ。ここからはスコセッシ映画について書いていく。

自分のスコセッシ映画歴

 最初にスコセッシ映画を観たのは大学生のときで、タクシードライバーだったと思う。けっこう前に1回みた程度なので、大まかな流れと印象的なシーン位しか覚えていないが、とにかくトラヴィスがかっこよかった。誰も相手にしてくれない街の中で孤独のナイフ(心の)をギラギラ輝かせる姿は、当時も好きだったが今の方がもっと好きかもしれない。スリーブガンのシーンなんて何回も真似した。気になっていた女をポルノ映画に連れてくシーンだって、無意識に似たようなことをしてしまっているせいでマッチングアプリがうまくいってないとすら思う。あ~もう一回見たくなってきた。
 多分その次にキングオブコメディをみたはずだ。こっちは逆にパプキンが頭おかしすぎて好きになれなかった。「ジョーカー」がタクシードライバーとキングオブコメディを足して2で割ったというのはよく言われるが、アーサーがパプキンをみたら裸足で逃げ出すと思う。
 ここからは、順番があいまいだが「グッドフェローズ」「ウルフオブウォールストリート」をみたはずだ。「グッドフェローズ」はテンポが良くて割とダラダラ見れるから、事あるごとに見返している。この映画は後で例に出すので感想はここでは控えるが、やっぱり刑務所の食事シーンが好きだな。だってあれからだもん、にんにくできるだけ薄切りにしようとしたの。(うまくいったことないけど。)
 「ウルフオブウォールストリート」も2~3回観た。YouTubeのブラックホールチャンネルで話してたけど、この映画には一切の中弛みがない。盛者必衰映画は盛り上がりの勢いの一方で、転げ落ちるときはみじめったらしいのが多いのだが、この映画は転げ落ちるときも全く同じ勢いだ。出演者の多くがドラッグでハイになってるからそりゃそうなのだが、見ててこう熱を感じる。
 で少し時間が空いて(その間にレイジングブル見たんだけど省きます)(ディパーテッドも見てたな…マットデイモンが「俺別に悪いことしてないですよ」って顔で悪事を働くのがめちゃくちゃムカついて好きだった)、「アイリッシュマン」がネットフリックスでやると聞いた。そりゃもう楽しみでしょってなって、公開初日に母親と家で観た。開始してすぐに母が寝た。自分もまさか3時間半あると思わなくて、途中で切り上げ明日続きを観た。母はどんなに頑張っても寝てしまう、吹き替えなら大丈夫と思ったが、ダメだった。そのせいで、1週間はアイリッシュマンを流していたかもしれない。これも今まさに見返している。やっぱ面白い、確かにテンポがゆっくりだけど、もたついているわけじゃないんだ。これみると、BLにはまる気持ちが少しわかる気がする。デニーロとパチーノの信頼しているのにすれ違う関係がたまらねぇぜ!あとこの映画に関していえば、「sleep walk」がかかるシーンが最高、選挙中に銃が撃たれてスローになってるのはまさしく諸行無常というべきですな。
 そして、新作「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の公開が近くになり、スコセッシ映画で観たことないのを観ようと思い、「沈黙~サイレンス~」を観た。(沈黙~、サイレンス~って切るとIKKOみたいだね)公開当時は日本にきたキリシタンの話なんて、どう考えても地味だしどうでもよすぎでしょなんて思っていたが、バカ!!と言いたい。めちゃくちゃ面白かった!!アンドリューガーフィールド、アダムドライバー、リーアムニーソンが出た時点で良映画確定やんとなっていたが、続く日本俳優が素晴らしいこと。どうにも憎めきれない窪塚洋介、壮絶な死に方をした塚本晋也、英語がとにかく上手い浅野忠信…(英語に関してはみんな上手だった。侍、百姓がこんなに英語できるのになんで俺はこんなにできないんだ…と思って英語の勉強を始めたくらいには。)特にお奉行様の役をしたイッセー尾形がよかった。最初はただの悪奉行かと思っていたが、日本と海外の性質をよく理解した上で転ばせよう(棄教の意味)としてくる。この映画のよいところは、「宗教」とはなにか?という良質な問いを投げる一方で、明確な答えは与えられないことだ。なんというか日本にも海外にも偏っていなくてバランスがよいのだ。大学の後輩に面白かったと伝えたら、原作を薦められた。読むか~~。
 こんな感じで今までスコセッシ映画歴をまとめてみた。書いている内に自分めちゃくちゃスコセッシ好きじゃん!となった。これ他のもみなきゃだめだな…。アクション映画にそこまではまらない一方、スコセッシ、タランティーノ、北野武が好きなので暴力が好きなんだと感じる。ヒョロヒョロオタク君なのに(ただ、ファニーゲームや聖なる鹿殺しのような本当の暴力を描いた作品は観れるきがしない…)。次からは、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の感想を述べる。

「This is cinema.」英語のミームで真の映画と崇めるときに使われるそう。
今まであげた映画はcinemaに間違いありません。

ネタバレ注意!

一応、ここからは新作と先ほどあげた映画のネタバレをドンドンする予定です!!キラーズ観てない人は今すぐ映画館に3時間半座ってから読むことをお勧めします。あとパンフレットをどうか売ってください。

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」感想

 3時間半の映画なんだし、ちょっと夢だった高い席の映画館に行くことにした。109シネマズプレミアム新宿、一席4500円だった。普段じゃ絶対行かないが、3時間半だったら高い席の元が取れるし、ポップコーン食べ放題で元を取れるだろう。開始1時間前に入れると聞いたので、できるだけ早めに到着し、ロビーで無料(おそらく実態は2000円相当)のポップコーンを貪った。映画みずにただ食べるのもな…と思いながら、映画観る前にはおかわりしなくちゃいけなかったので、必死で食べた。そして劇場に入る。確かにいい席だ、左右に自分専用の置く場所があってシートはリクライニングがきく。できるだけ値段のことは考えないようにしながら映画が始まった。

ロビー おしゃれっしょ
タダポップコーンと座席

 映画の感想はとても面白かった。3時間半だと覚悟するが体感2時間半くらい、テンポが良いと短く感じる。
 以前、noteで一人ディズニー紀行を書いたとき、アトラクション一部のインディアン描写に文句をつけた。

 しかし、白人がどうやってインディアンを追いやったのか具体的な歴史を知らず、ただなんとなくアメリカ大陸に征服したときに根絶やしにしたものとばかり思っていた。この話は1920年代の話だそうなので、南北戦争も第一次世界大戦も終わっていた。だからこの頃のインディアンは白人に征服されておらず、むしろインディアンは自分の持った土地で石油を掘り起こしておりかなり裕福な民族である、という自分のイメージと真逆な説明がされていた。そして、白人は石油利権を付け狙っていてなんとか奪ってやろうと、長期的で、計画的な虐殺を繰り返す。奪う理由もとんでもなく差別的である。白人はインディアンを獰猛な野蛮人だと見なし、彼らには石油を管理できる訳がないから、自分たちで「保護」してやろうという考えなのだ。そして、強欲な人からその「保護」という文字が「略奪・虐殺」に変化するのである。
 この映画を観たとき、一番思ったのはデニーロってほんとに凄いんだなと感心したことだ。作中の中で誰よりもおじいちゃんなのに誰よりも野心にあふれている。そして、先ほど書いた差別・選民思想も誰よりも強い!ただ、インディアンが前だとちゃんと隠している。なんて白々しい。
 もちろん、主演のデカプリオもよかった。映画の他の感想をみると、この主人公が本当にカッコ悪い、ダメ人間だというんだけど、そうも思えないんだよな…まあ仕事仲間に対して抵抗できず愛してる妻に毒打ってる時点で最悪なんだけど…。でも、この人には心の弱さがあるでしょ!「沈黙」のキチジロやロドリゴ神父だって心の弱さ・葛藤があったから生きてこれたじゃん。このバークハートだってずっと家族・仕事で揺れ動いてたから、最後の証人席で勇気出せたんだよ。それはカッコ悪くないんだよ。まあその後奥さんに真実を打ち明けられなかったのはカッコ悪かったけど…
 女優のリリー・グラッドストンさんも素晴らしかった。予告でみた感じ、もっと智略を働かせて、この状況をうまく切り抜けるのかなって浅いイメージを持っていたが、全然違った。もちろん、賢い女性ではあるのだが、家族がどんどん殺されるという状況でも、本当に強くたくましく生きていた。SNSでモナリザが生きていたときってこんな感じだったかもねという感想をチラッとみたがその通りだと思う。

今年みた映画で一番の悪役
余裕でハイエボリューショナリーを超えた

引き裂かれた男達

 自分がスコセッシの作家性を語るなんて恐れ多いが、スコセッシ映画には主人公が罪を犯しまくった結果、窮地の中で2つの立場から引き裂かれるという展開が非常に多いと思う。引き裂かれるという言葉はこの動画から引用した。(自分が映画評論の動画をみるのは、茶一郎さん、BLACKHOLE、守鍬刈雄さんが多い。お兄さんお姉さんが顔出して話すのは、陰キャには中身が入ってこないのよ…)

 引き裂かれない映画も多いが、少なくとも「グッドフェローズ」「ウルフオブウォールストリート」「アイリッシュマン」と「キラーズ…」は罪を犯して引き裂かれる展開というところでとても似ている。(「沈黙」も近いけど、この4つからは一旦除外する。)この4つが似ているのはどれも実録犯罪路線だからだと思う。この4つには原作の本が存在していて、その本は取材、もしくは自分の口によって明るみにでた実際の事件を取り扱っているので、このような展開になるのだ。アイリッシュマン以外の3作は、終盤がかなり似ていた。主人公は警察から罪を暴かれて逮捕されてしまう、もっと大物を釣るために証人になることや司法取引を持ち掛けられる。「グッドフェローズ」と「キラーズ…」はほぼ一緒かもしれない。証人になることを強要され、最終的に仕事仲間を売る…。どちらでも裁判の証言の際に主人公がデニーロへ指さすのだが、その光景が全く一緒でちょっと笑ってしまった。
 引き裂かれる2つの立場についても、映画によって異なる。「グッドフェローズ」では「自分自身」と「仕事仲間」で前者を選んだ。「ウルフ…」でも「自分自身」と「仕事仲間」でこちらは後者を選んだ。「アイリッシュマン」では、「家族の友達」と「仕事の友達」で選択を迫られ、後者を選んだ。そして、「キラーズ…」は「家族」と「仕事仲間」で選択を迫られ、前者を選んだ。すごく興味深いのは「自分・家族」、「仕事仲間」のパターンを繰り返しているのと、どちらを選んで最後には後悔・罪悪感の念に苛まれていることだ。(ジョーダンベルフォートだけちょっと違うかも…)これはどうしてなんだろう。これは勝手な考えだが、選択のそのものよりも、そもそも重ねてきた悪事・罪に問題がある。罪を重ねすぎた人間はどんな選択をしても神が許さないのかもしれない。
 あと、「キラーズ…」でびっくりしたのは、最後にスコセッシ本人が出たことだ。映画みてて「これ本人か?いや違うか?本人だ!本人だ!」と確認した覚えがある。これもなぜ最後にあのセリフを言ったのだろうと考えていたが、こう結論が出た。他の映画に関してはあんまり被害者が出てこない。まあもちろん、大勢のギャングや投資詐欺で騙された人、ジミーホッファ等殺されたり損した人間はたくさんいるのだが、どれも被害者という形ではでてきていない気がする。今回の映画では、オセージ族という明確な被害者がいた。彼らは移住者たちに自分たちの大切な利益を奪われ、差別的に虐殺されていった。殺された者、その中で生きていった者に対して尊敬と哀悼の意をささげるために監督本人がでたんだと思うと、納得がいった。

誰もが引き裂かれている

 映画のように引き裂かれる思いが自分の中にあるかを考えてみたら、自分が休職したときだって、「自分」「仕事」の選択に迫られていなかっただろうかと思った。休職するまでの経緯はすぐには語れないが、あの時は自分の身を守るか、やらなければならないことをやるかで、身体が崩壊していきそうな気がした。先ほどの論調でいうなら幸せにならないけど大丈夫かな…。まあ罪なんてほとんど重ねてないからな…。
 あと、この映画でも以前の記事でも先住民の差別性に対して苦言を呈していたが、先日自分自身の差別性に対してちゃんと怒られたことがあった。本当に個人的なことだし、本当に浅はかだし、本当に恥ずかしかったので、書くかどうか迷っているが、別記事で書くと思う…。
 ともかく、これで映画の感想を終わりにします。いや~書いたわ。「キラーズ…」の話はそこまでしてないのに、脱線脱線で長くなってしまった。
 ここまで読んでくれてありがとう。

 


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