「君は僕の…」後編 2022/04/01
推しのソロステージ。
週末ヲタクの私には、推しのソロの日に当たる確率は数少ない。
土日に来れる日もあれば、どちらか1日しか行けない日もあったから、推しのソロに当たったのはラッキーだった。
何を歌うのだろう。
静まり返る会場。
ワクワクして始まりを待つ。
イントロが流れて、私は息が止まりそうになった。
思わずヲタ友の手を握る。
『너는 나의 봄이다(君は僕の春だ)』だった。
うつむきながら歌う推し。
最前列のど真ん中で、この曲を聴くことが出来るなんて夢みたいだ。
歌い終わるとステージ袖からメンバー達が出てきた。
進行役の2推しが、この曲はどういう内容の曲?と質問した。
と推しは説明した。
メンバーたちが、「いいじゃーん!」「めっちゃ良い曲!」と茶化す。
夢みたいな、幸せな気持ちで公演が終わった。
会場が明るくなって、ヲタ友が「推しくんのソロの曲って、ハルちゃんが大阪でリクエストした曲よね?」と訊いた。
大阪でのことは、ヲタ友にしか話していない。
私は興奮して答えた。
「まさか今日、聞けるとは思わなかった!この曲を歌う日に来れるなんて私は運を持ってるよね!」と。
ヲタ友の反応は微妙だった。
何か言いたげな表情。
周りは既に2階の特典会会場へ移動していた。
「実はね、水曜日に公演に来た時、団体サインで推しくんと話すネタが無くて…、金曜日にハルちゃんと一緒に来るね〜って推しくんに言ったの」
それは初耳だった。
いつも別の友人と公演を見に行った日は、LINEで推しの話を教えてくれるのに。
「それで、その時の推しくんの反応がちょっと変で…なんか考え込むみたいな感じになっちゃってね。その後の私の話なんて全然上の空だったし。
前にも、次はハルちゃんと来るねーって言ったことはあるけど、わーいってハイタッチしてくれたり、嬉しそうな反応してたのに、何か説明しにくい反応だったからハルちゃんには黙ってたの…」
ヲタ友は私に余計な心配をさせまいと、気を使ってくれていたのだった。
「だから推しくん、今日ハルちゃんが来ること知ってたのよ。偶然じゃなくてハルちゃんが来るから、ソロをやったんじゃない?もしかして」
突然の展開に混乱した。
そんなことあるだろうか。
偶然、、だと思うけど。。
特典会が始まって、いつも通り推しと2推しの個人チェキ、団体チェキを撮った。
個人チェキへのサイン。
推しに、『君は僕の春だ』を聞くことができて嬉しいと伝えた。
「今日来れて私はラッキーだね」と言うと推しは
と微妙な反応だった。
来ることを知って歌ってくれたのか、ただの偶然か、推しに本当のことを訊く勇気は私には無かった。
結局どっちだったのかわからないまま終わり、次は2推しのサインに並んだ。
2推しは前の週に大阪で誕生日公演があり、私は行くことが出来なかったから、誕生日プレゼントを渡す為に持ってきていた。
私のお気に入りのシャンパン。
推しは2推しの隣に座っていたから、何となく気まずい感じがしてしまう。。自分のタイミングの悪さが恨めしかった。
最後は団体チェキへのサイン。
ヲタ友の後ろに並び、順番を待つ。
団体サインの3番手が2推し、4番手が推しだった。
2推しと話している最中、気のせいか推しが会話を聞いているような感じがした。
いや気にしすぎかもしれない。
2推しのサインが終わり、隣に座っている推しの前へ移動した。
サインを書き終えた推しは、私が話し出すのを遮るように話し始めた。
今日のソロがとても緊張したけど頑張って歌った、というような話だった。
私は黙って聞いていた。
小さな声でそう言った。
急にそんなことを言い出したから、私は一瞬意味がわからなかった。
セットリストは毎回、2推しが作っていた。
以前2推しから聞いた話では、前日の夜にセットリストとトークの内容を考えていると言っていた。
2推しに、この日にソロを歌いたいと頼んだということだろうか。。
嬉しい気持ちと、信じられない気持ちで混乱した。
推しは、照れたように笑っていた。
自分が何と言ったのかもう覚えていないけど、たぶん「ありがとう」そして「嬉しい」と言ったのだと思う。
ああ、それから。
ソンシギョンさんの曲は毎日聴いてるよ、と言ったのだった。
推しは、「本当?例えば他にどんな曲?」と、疑っているような質問をした。
私は「2人」とか「クジャリエ」とか、好きな曲を上げた。
推しは、意外そうな顔をして聞いていた。
そう言って、チェキの裏にマジックでサラサラと書いた。
"다정하게, 안녕히"
「あとで調べて」と言ってチェキを渡してくれた。
本当は、チェキには日付と名前以外は書いてはいけないルールだった。トラブルの元だから。
推しはこっそり書いて、イタズラっぽく笑った。
そして最後にこう言った。
そう言ってくれた。
これは、なんだか、、すごく胸に刺さった。
1ヶ月の間に多くのファンが離れてしまったことを、推しも当然わかっているんだなということに胸が痛く…
そして、『聴いてほしかった人』と言ってくれたことが幸せだった。
帰り道、フワフワした気分でヲタ友に報告した。
するとヲタ友は、
「今日、団体サインの時、私の次がハルちゃんだったじゃない?それでね、ハルちゃんが2推しと話してる時、推しくんめっちゃ聞き耳立ててたよ(笑)」
と教えてくれた。
「私の話なんてぜーんぜん聞いてなかった」
怒るふりをして笑っていた。
やっぱり、、気のせいじゃ無かったんだ。。
子供みたいな推しの行動に苦笑しながら、ヲタ友と2人で駅へ向かう帰り道が、今思えばとても幸せな時間だった。
そんな、思い出。
終。
このエピソードは、信頼できる友人にしか話していない。
リクエストした曲を、来る日に合わせて歌ってくれたのはとても嬉しかったけど、それを周りに言ってしまったら、推しに迷惑がかかると思ったから。
(アイドルとしては、あんまりやっちゃいけないファンサービスだと思う。。)
今となってはもう、そんなことを気にする人もいないかな。。
推しの歌がもう聴くことが出来ないであろう現実が、すごく寂しい。
とても素敵なソロステージだった。
『너는 나의 봄이다』、幸せで切なくなる思い出の曲。
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