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シュレーディンガーの子猫 ~プロローグ:セクション2~

時々思うんだ。
このクレーマーは本当に実在する人物なのだろうか?
もしかしたらAIクレーマーで、僕を試しているだけなんじゃないか?
とか。
サクラをやっている時もそうだった。
いや、向こうが男や女なのか性別すら区別が付かなくなっていて、僕が男なのか女なのかすら分からなくなって、適当な会話をしているはずなのに、僕はなんだかその存在しないはずの女性が本当の僕なのじゃないかと思うように心からフェミだったのかもしれないと思う事もあった。
そんなちょっと変わった僕の願望を満たしてくれる会社に、運良く就職できたのは奇跡に近いのかもしれない。

さっきまで僕の足にまとわり付いていた子猫の後を追って行くと、見慣れている廊下の角を曲がっていこうとしている。
僕が来るのをじっと角で待ちながら、こっちにおいでと言っているかのように僕を見ていた。
そんなに遠くない廊下の角のはずなのに、なんだか少し遠く感じる。
僕が角に到着するよりも早く、子猫は廊下を曲がって行ってしまった。
この建物の構造は理解していたし、猫が走ったとしてもその先は行き止まりだ。
僕の歩みは急ぐこともなく、普段よりも少し遅めに歩いて、子猫を怯えさせないようにゆっくりと廊下の角に到着した。
そこには子猫よりも少し大きめの大人の猫が子猫と一緒に、非常階段の扉の前にちょこんと座っていた。
そうか、ここから入ってきて出られなくなったのか。
僕はそう思って、非常階段の扉に手をかけて、猫が通れるだけの隙間を開ける。
親猫はじっと大人しく座ったまま、僕を見つめている。
子猫は扉をガリガリと引っ掻いて、もっと開けろとアピールしているようだ。
(めんどくさい。もうこのぐらいで出ていけよ)
心の中で呟いた言葉がまるで聞こえているかのように、親猫は怒って俺の足を噛み付こうとした。
「あぶねっ」とっさに足を引っ込めるのと同時に腕に力が入り、扉が一瞬大きく開く。
一瞬開いた扉の向こうには、予想もしない状況が目に飛び込んできた。人が倒れていた。
僕は慌てて扉を大きく開き、「大丈夫ですか!」と普段は出さない大きな声で倒れている人に訪ねた。
何の反応もない。
えっ?嘘!死んでるの?ど、どうしよぉ。まじか!救急車!あれ?心臓停止してたらなんだっけ?
僕は倒れている人に近づいて、うつ伏せに倒れているのを仰向けにしようと体に触れようとしたら、僕の手が透けて消えた。
あれ?触れない。
倒れている人の顔をよく覗いて見てみるとそれは、僕だった。
うわっ!嘘だ。
僕は思わず飛び跳ねると、ガシャッという大きな音と共に床に倒れ込んだ。
そこはさっきまで居た職場の自分の席があるところだった。
変な体制で転んでしまったようで、手首が少し痛い。
同じ職場の人が僕のことに驚いて転んでいる僕を見ている。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

次回予告:

大丈夫と声を掛けられるのではなく、どちらかと言えばうるさそうにしやがってという感じで白い目で無関心な目で見られているかのような、そんな冷たい目線だ。
僕は椅子を戻すと、廊下に飛び出していた。
あの子猫は?あの親猫は?そうだ。扉の外で倒れていた人は?本当に俺だったのか?
なんで机に戻っていたんだろう?悪い夢を見ていたのかもしれない。


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