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キノコの惑星

市の職員たちは、増えすぎてしまったキノコの処理に頭を悩ませていた。慣れない惑星では胞子は定着しないと見込んでしまい、たくさんばらまき過ぎたのが原因だった。

雨が一度でも降ると、町中にキノコが生えるようになった。幹線道路にも、家の外壁にも、駐車場の車にも、びっしりと生えた。

天気予報士たちは「明日、午前中から雨が降りだす見込みです。午後からのキノコの大量発生に十分注意してください」とアナウンスするほどだった。

結局、市の対策が後手に回ってしまい、町はゴーストタウン化してしまった。乾ききった郊外に皆は避難することとなり、今後のキノコとの共存を模索することになった。

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「火星における弱い重力が、キノコ類の胞子にとって最適な環境だとは、盲点だった。焼き尽くすにも胞子の生命力には敵わない」

「食材として消費するにも限界があります。供給が需要をはるかに上回っては、経済的にも成り立ちません」

「このままだと新たな変異が起きないとも限らない。今のうちにコントロールする方法を見つけるべきだ。隣町に伝播するのも時間の問題だ」

「キノコの天敵を探し出すべきです」

毎回、会議はキノコ鍋で〆て、「うまいですなあ」で終わるのだった。

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ある時、科学者からキノコ発電という提案があり、さっそく実践に取り掛かることになった。技術的な説明を受けた市の職員たちも、どういうシステムでタービン発電にまでいたるのか理解できなかったが、藁にもすがる思いの彼らはゴーサインを出した。

これまで町を飛散していた胞子はほとんどキノコ発電所に吸い寄せられてゆき、どんなに雨が降っても生えすぎることはなくなった。ただ、あまりにも発電所に胞子が集まってしまうと、胞子を発生させる親キノコが絶滅してしまう。そのため、引き寄せる量をボリュームレバーで調整させなければならなかった。

想像以上にキノコ発電による対策は、キノコの大量発生に対して抑止力を発揮した。むしろキノコの発生が減り過ぎたほどで、「最近、あのキノコ鍋の味が懐かしくて、残念ぢゃ」と市長が発言して、賛否両論の混乱を巻き起こすこともあった。

皮肉なことに、市長への同情のコメントが大部分だった。

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ある日、唐突にキノコが絶滅してしまった。キノコ発電による胞子乱獲が原因だとも、火星人のキノコ狩りが原因だとも巷で噂された。

キノコショックにより市民たちの士気が下がり、経済活動は混乱して株価は急落した。キノコとの戦いはいつの間にかキノコとの共存に変わっていたことで、キノコの不在は存在意義の喪失をもたらす結果になった。

阿鼻叫喚。キノコ発電所も閉鎖され、電力供給は古い太陽光発電へと戻すことになった。キノコの味に舌が肥えてしまった市民たちは、乏しい食材を前にしてげんなりした。市民生活はみるみる荒れていった。

テラフォーミングのモチベーションを回復するため、市長は全市民に向けてコメントを発表した。

「われわれは今、生活の灯であり、かつ、しばしの同胞でもあったキノコを失ってしまった。同じ胞子が戻ること希望は、もはやない。科学者たちの分析によれば、急な増殖に伴って遺伝子的変異が引き起こした、避けがたい種の絶滅だということだ。われわれの市民生活に、キノコがあったことは幸せなことだった。彼らが居なくなった現在でも、われわれの心に植え付けられた胞子は生き続ける。だから、キノコよ永遠に!」

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