宇宙の鞄の宇宙【詩】
火星人たちの鞄には穴がいくつも開いている。
しまったものは零れ落ち、二度と手元に戻らない。
でも、彼らは鞄にしまったことすら覚えていない。
今朝、太陽が昇ったことも覚えていない。
*
「じゃあ、僕が持っておいてあげるよ」と彼らに言われたら、
思い切って渡してしまうことだ。ためらっちゃいけない。
火星人たちはとても親切で先見の明があるので、
なくしてしまっても、どうってことのないものなんだ。
*
「だめだめ、僕には預かれないよ」と言われたら、
君は迷わず食べてしまうことだ。好き嫌いはいけないよ。
いろんなものにメープルシロップをかけたら、美味しいかも。
結局のところ、投資先は君自身なんだ。知ってただろ?
*
火星人たちは水を飲むのも、鞄ですくって飲むよ。
え?鞄は穴だらけぢゃないかって?
ようく考えてみるんだ、彼らの手足は何本だったかを。
笛を吹くみたいに、器用に塞いで飲んでゆく。
*
全部飲んだら、鞄ひとつひとつが新しい宇宙になるよ。
とっても美しくて、やけに複雑な宇宙ばかりなんだ。
彼らの鞄の質量分だけ謎となり、宇宙の誰もを悩ませてしまう。
それでも、いいぢゃないか。もとは穴だらけの鞄だったんだから。