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昔、メモを失くした男が思い出していたのは、ほんとうに些細なことだった。スタンディングテー…
果てることのない小麦畑に降り立った火星人は、茫然として苦しい考えや儚い喜びや、それからた…
「本日のアートシーンは、最新の演劇の話題をお送りします。火星芸能を追って二十年のフリーラ…
ラジオはテレビより生き物に近い存在みたいだな、とハヅキはいつも思う。テレビのような視覚的…
朝早く、フィリップ船長は丘を見に行った。とてもなだらかな傾斜を歩いていくと、ヒバリの鳴き…
やっと通信網が復旧した。窓の外は嘘みたいに晴れている。でも、この世界にはサイレンが鳴り響…
いつも使い慣れたコーヒーカップが見当たらない。昨晩、洗って立てかけて乾かしておいたはずなのに。思い当たる場所はすべて探し尽くした。記憶がバグっているのかな? しかたなく使い慣れない古いカップに注いでみたけれど、お世辞にも美味しいとは思えなかった。半分まで飲んで、あとはそんな気分じゃなくなって、中身は捨ててしまった。 今日は仕事が砂嵐休みの日だった。 ベランダから見る外の景色は、いつものこの時間だったら、こうこうと朝日が見えているはず。ところが今朝は真っ暗だ。天気予報だと、
「ペンネーム希望『火星に暮らすカタツムリの末裔』さんから、番組にお手紙をいただきました。…
ある人はロバのようだと言った。またある人はカササギのようだと言った。私が出会ったのは、机…
「この世界の人たちって、こういうものなの?」と妻が不思議がった。土中から鉱物を掘り起こし…
サキの丘のふもとで営まれた或る火星人の葬儀は、静かに進んだ。火星人の末裔の亡骸は、数日経…
それは思い出す限り、幻想だった。 眠りから覚めたばかりの群青色の部屋は、まるで昔の地球で…
ゆらりゆらりと空を漂っているのは あれは雲ではない ぬらりと生きている 耳を澄ましてごらん…
第一の証言 やわらかい物腰の言い回しの男の声が、私に尋ねてくるのでございます。 「この辺りに、水辺やその類がありはせぬか?」と。 この私は、周囲を警備する者でありますから、近くを流れる運河のことは目を閉じても案内できるほどでございます。ですので、何を疑ったり訝ることもなく、その先を右に曲がると流れるイリュミナシオン運河のあることを、ただ教えたのです。それだけでございます。 さて、その尋ねる者のことでございますが、目深に被ったつば広の帽子といい、高く襟を立てた服装といい