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SSの箱。

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短編を詰め込んでいます。読みたいときにお話を取り出して。
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#小説

SS:Christmas Mission

SS:Christmas Mission

 ならざきむつろさん、noteアドベントカレンダー2016 参加者の皆様、企画&創作、お疲れ様でした。
 毎日、いろんな方のいろんなnoteがUPされて、とても楽しませていただきました。
 観客席で観ていると、その素敵な作品の数々に、私も創作意欲がかきたてられて、ウズウズしてきました。
 というわけで、リアルが忙しく、各作品にはあまりコメントできなかったのですが、感想贈答の代わりに掌編をUPしたい

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SS:聖夜をひとりで過ごすより。

SS:聖夜をひとりで過ごすより。

 改札口を出て、街路を歩き出す。冷たい風が吹きつけてきた。
 通りを行く人は、みんなどこか幸せそうに見える。
 近くのケーキ屋では、サンタの衣装を着た店員が店先で売り込みをしていた。
 手をつないでそっと寄り添っているカップル。
 それを見てため息をつく。
「……あ、また幸せが逃げた」
 ひとりごとを呟いて、冷えた両手をそっと息で温めた。
 そういえば、ため息をつくと幸せが逃げるって誰から聞いたの

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SS:孤高の月

SS:孤高の月

 凍てつく空気。こぼれた息は白く。
 静かな雄叫びが闇夜にひびを入れる。
 振り返ると、天を仰ぐ彼の姿があった。

 気高く、誇りに満ちて。
 しかし、どこか寂しく、物悲しく。
 闇夜に浮かぶ白い月のように私には思われた。

 せめて、彼のそばにいることができるなら。
 少しはその痛みも苦しみも、分かち合えるのに。

 それを決して許さなかった彼の強い瞳が、輝く月のように凛としていて。
 私は、た

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SS:リコール

SS:リコール

 はあ、と今日何度目になるかわからない溜息をついた。
 疲れた。朝から新商品のクレームにリコール回収に、と追われて。
 完璧に設計、開発したはずだった。自信を持って客に勧められる商品だったのに。
 それが、まさかのリコール。何が起こっているのかわからないうちに事は進んでいた。ただ大きな波に流されるように走り回って。
 気が付いたらもう二十三時を回っている。社内には自分と同じように疲れ切った人間がわ

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