SS:Christmas Mission
ならざきむつろさん、noteアドベントカレンダー2016 参加者の皆様、企画&創作、お疲れ様でした。
毎日、いろんな方のいろんなnoteがUPされて、とても楽しませていただきました。
観客席で観ていると、その素敵な作品の数々に、私も創作意欲がかきたてられて、ウズウズしてきました。
というわけで、リアルが忙しく、各作品にはあまりコメントできなかったのですが、感想贈答の代わりに掌編をUPしたいと思います。楽しんでいただけたら幸いです。
SS:Christmas Mission
「……やっと寝たわ」
美沙の声に、そうか、とオレは寝そべっていたソファから起き上がる。いそいそと隣の部屋へ行ってクローゼットを開け、中から大きなレジ袋を二つ、その中身ごと取り出した。それらを抱えてリビングに戻る。
レジ袋のガサガサと擦れる音を聞いて、リッキーが寝床から立ち上がり、おもむろに伸びをした。それからオレの足元へと軽快な足取りで近寄ってくる。レジ袋の中身が自分用のおやつだと思い込んでいるのだ。
「残念でした! これはおやつじゃないよ」
期待に満ちたキラキラした目で見られると、つい、おやつをやりたくなるんだけど。
レジ袋の片方を開けて、中身を取り出す。
「……ジャジャーン!」
犬用のサンタクロース衣装だ。早速封を開けると、なに? とリッキーがふんふんとひとしきり匂いを嗅いだ。満足した頃合いを見計らって、レインコートと同じ要領でリッキーに着せていく。犬によってはレインコートも嫌がるようだけれど、リッキーには小さい時から服を着せることが多かったから、もう慣れたもので、おとなしくされるがままになっている。
次は、悠真のお気に入りのおもちゃを探す。幼児が乗って遊べる車型のおもちゃだ。悠真が好きなキャラクターのシールが貼ってある。どこだったかな、と見える範囲でチラチラ探すと、ソファの陰にそのカラフルな色がチラリと見えた。悠真が無造作に乗り捨てたらしい。
手押しできるように突起がついていて、そこを押してリッキーの前まで運ぶ。ああ、リードを忘れてた、と玄関までリッキーのリードを取りに行って。
ひざまずいて、リードの持ち手の部分をおもちゃのハンドルに通し、反対側の金具はリッキーの首輪につないだ。散歩に行けると思い込んだリッキーが、しっぽを左右にゆったり揺らしながらうれしそうにしている。
「違うよ、おさんぽじゃない」
もう一つのレジ袋。中に入っていた大きなクマのぬいぐるみを、おもちゃの車の座席へうまくバランスを取って乗せる。
「……いいか、リッキー。責任重大だぞ」
クリスマスミッションスタートだ!
美沙から犬用のおやつを受け取る。おやつおやつ! と目を輝かせるリッキーに、短く、待て! と指示を出す。
「いいか、よく聞け、リッキー。今からクリスマスプレゼントを悠真のところまで運ぶんだぞ」
多分、頭の中はおやつのことでいっぱいなんだろうけど、それでいい。
「ついてこい!」
おやつを片手に持って立ち上がる。リッキーがおもちゃの車をぎこちなく引っ張りながら後に続いた。
寝室まで距離わずか。おやつだけに目線を集中させてついてくるリッキー。その向こう側で美沙がスマホを構えて楽しげに様子をうかがっている。
「よし、いいぞ。到着だ!」
そっと寝室のドアを開ける。静かで規則正しい寝息。抜き足、差し足、忍び足。悠真を起こさないように、物音を立てずに近付いて。
「よし、ミッションコンプリート! グッジョブ!」
ささやき声で褒めてやり、おやつをあげる。リッキーがかぶりついている間に、クマのぬいぐるみを悠真の枕元へ、そろそろと置いて。
「よーし、撤収!」
「リッキー、こっちよ」
ドアの向こう側から、美沙が新しいおやつを見せた。呼ばれて振り返ったリッキーは、ルンルンとしっぽを大きく振りながら、美沙の方へと駆け寄っていく。その後を追いかけて寝室を出て、オレはそーっとドアを閉めた。
*********************画像はPixabayよりlarihinz様のものをお借りしました。
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