元講師が打ち明ける「歌手やシンガーソングライターを夢見る君へ」:ウォームアップについて
ボーカルのウォームアップ、知ってる?
この記事は、前回の「喉(のど)のケアについて」の記事の続編だ。
喉のケアについての知識とともに、正しいウォームアップとクールダウン、その生徒の音域調べを私のレッスンでは最初に実施していた。
どれも、知らないまま練習を重ねると喉を壊してしまう可能性があるからだ。
前回の記事で全部書きたかったが書ききれなかったので、今回の記事で取り上げようと思う。
なぜウォームアップやクールダウンが必要なのか
歌・ボーカルは体が楽器となる。
木や金属でできているほかの楽器より、生身の人間のほうが、一日単位で見ても数年単位でみても、常に大きく状態が変わる。
そうした体のいろいろな状態から、十分なパフォーマンスで歌える状態に準備していくためには、ウォームアップが欠かせない。
また、歌うことで喉の粘膜は充血状態になる。
歌ったあと充血した喉を放置しておくと、当然荒れやすくなる。
そこである程度、喉の充血をしずめる必要がある。これがクールダウンだ。
歌い終わった後、すぐにクールダウンしておくことで、次の日の回復具合もよくなる。
自分の音域の確認については、この記事の後半で取り上げよう。
ウォームアップの流れ
ウォームアップの流れは、おおまかに
① 体のストレッチ
② 首、顔、口の中のマッサージやストレッチ
③ ハミング(喉のあたため)
④ 低音域から発声練習
となる。
① 体のストレッチ
最初に体のストレッチから始める。
これは、いわゆるスポーツで行うような一般的なものでよい。
ストレッチの方法はネットにいっぱい出ているので、好きなものを取り入れればいい。
体の下から上、つまり足から頭にかけての順番で各部をストレッチするとよい。
ストレッチすることで体も温まってくる。
代表的なものを挙げると
足首→アキレス腱→ひざ→太もも→股関節→お腹→背中→肩甲骨→胸→肩→腕→首
ということになる。
どれも大切なのだが、ピックアップするとすれば、胸郭、つまり胸を開くストレッチだろう。
部屋の角で壁が両方から接しているところで、手を左右の壁につく。
手の高さは肩の高さで、左右の手は両肩の20cmくらい外側でいいと思う。
その状態で足を一歩前に出すと胸が広がり、胸郭を広げるストレッチができる。
部屋の角で立って腕立て伏せをやっているような感じ。
実際には腕に力を入れるわけではないけど。
肺は低音が響く体内空間であり、猫背で胸郭が狭まっていると肺がつぶれ、声が響きにくくなる。
毎日ストレッチをして胸郭を広げるようにしておくと、響きやすい体になる。
筋トレよりもストレッチが大切
筋トレよりもストレッチが大切
ちなみに筋トレよりもストレッチのほうが優先。
筋トレは主に筋肉を「動かして」鍛える。
だから固い体で、小さい可動域で動かして筋トレするよりも、
ストレッチで伸びやかに大きい可動域で動かすほうが、
歌に必要なバランスのよい筋力がつく。
ちなみに腹式呼吸を鍛える意味で腹筋してもあまり意味はない。
呼吸では、使っている筋肉が違うのだ。
さらにボディビルのような鎧のような固い筋肉の場合、すでに歌える人ならまだしも、これから歌える体を作ろうという人には不利だ。
また別の記事で取り上げられたらいいなと思うが、歌はリラックス、力を抜くことが肝心なのだ。
だから、まずはストレッチだ。
② 首、顔、口の中のマッサージやストレッチ
こちらのほうがボーカルの専門的な内容になり、表情筋などに沿っていくつか決まったやり方もあるのだが、これは中途半端に教えてもかえってよくないため、レッスンで具体的に教える必要がある。
そのため君の場合は、まずはほっぺた、目の周り、口のまわり、あごの下、喉、首の後ろをやさしくマッサージしよう。
それだけでも歌う前、そして毎日やれば全然違う。
次に力の抜いてやわらかく、口を大きく開けよう。
縦に大きく開けたり、全体に大きく開けたり、口角を右上、左上、右下、左下に大きく開けてみる。
コツとしてはアゴをガクガクさせるのではなく、唇をストレッチさせる気持ちで口を開けることだ。力を入れるのでなく、伸ばすのだ。
次に舌の根っこの力抜きをする。
口を開け、舌を出した状態で下を向き、力を入れずに首を振る。
これで、舌が、鐘の中の玉(舌:ぜつ)のように、顔の振りにつられて遅れながらぶるんぶるん振れればOK。
これは私が子どものころ、歌ではない別の楽器をやっている時に、若い女性の先生が教えてくれた。
「こんなの彼氏には見せられなーい」とか言いながらやってくれていた。
子どもだった私は若干気まずかった。
あとは唇を軽く閉じて、子どもが遊ぶときのようにぶるぶる~というのを5秒か10秒くらいやればよいと思う。
ストレッチとマッサージは毎朝やっていこう
ここまでの体のストレッチと顔や口などのマッサージは、歌う前だけでなく、毎朝やるといいのだ。
実は朝起きた時は、結構体は固い。
普通の人はそんなことにはもちろん気づかず、朝誰かと会ったときに「おはよー」とか、実は結構無理やり声を出している。
そして多少ほぐれてやっと体が温まってくるのは昼過ぎということも珍しくない。
だから、毎朝しっかりストレッチをするだけでも、少しずつ声が「鳴る」体になっていくのだ。
レコーディングやライブなどで、すでに歌っている状態でも、いまいち調子が出ないと思えば、その都度ストレッチやマッサージをすると状態が良くなることもある。
③ ハミング
ハミングのやり方は、舌の上にアメ玉をひとつ乗せた状態をイメージしながら、つまり口の中の空間を程よくとって、唇を力ませないように口を柔らかく閉じ、その状態で声を出す。
ハミングは喉に優しい。喉も乾燥しないし、無理な発声をしにくい。
だから喉を温めるには最適なのだ。
また、ハミングは、普通の発声練習に比べて音量が小さい。
ハミングは比較的どこでもできるということになる。
もし君が地方のライブに出ることなって、当日交通機関が遅れたりしてギリギリだったりしても、移動中のタクシーの中でハミングすることで喉を温めることができる。
この最初のハミングは低音域で行う。
低音域の時、人間の声帯は声帯全体を使って振動している。
ほんとは結構複雑な仕組みなのだが、ざっくりそう思ってもらって差し支えない。
高音の場合は声帯の一部を集中的に使う。
これは音を出す機構すべてに共通の仕組みで、低い音の楽器は大きく、高い音の楽器は小さくなる。
だから君の中での音域の中~低音域で、ソーファーミーレードーみたいな感じでハミングしていけばいい。
そして連続でやるのではなく、ちょこちょこ休みを入れて無理なく喉を温めよう。
あ、ソーファーミーレードーは、そうやって言うんじゃなくて音階ね。
どっちみちハミングだから言えないぞ。
ハミングしながら無理やり言おうとすると、周囲から変に思われるから、天然を発揮しないように気をつけよう。
ここまでで、基本的なウォームアップは終わりで、後は発声練習等に入ればいい。
発声練習も低い音のほうから、休みを入れつつ少しずつ高い音に移っていけばいい。
クールダウン
クールダウンは、ウォームアップに比べていろんなことをするというのはない。
息が8割くらいの息混じりの小さい声で、君が最も楽に出せる中~低音域で、「ヒー」で、やさしくソーファーミーレードーと歌う。
つまりソーファーミーレードーの音階でヒーヒーヒーヒーヒーとやるわけだ。
もちろん連続でやるのではなく、小休止を入れながら行う。
これを3分から5分くらいやって、軽く声を出して、枯れていた声が普通に戻ってきたら終了だ。
充血して腫れぼったくなった声帯が、クールダウンによって充血が収まり、しゃべり声が普通に戻るということになる。そうなればクールダウン終了。
しっかりクールダウンできれば、次の日の回復がよくなるのでぜひ習慣にしてほしい。
自分の音域を調べよう
人はそれぞれ出せる音域が違う。
だから最初に自分の音域を調べて、自分に合ったキーで歌うことが大切だ。
自分に合わないキーで歌うと、力んだ無理やりな発声になり、よい歌になりにくいし、変なクセがつくし、最悪喉を壊してしまう。
自分の音階の調べ方
スマホの無料のピアノアプリとかでいいので、正しい音階が出る鍵盤楽器を準備する。
ピアノ鍵盤を1個ずつ弾きながら、同じ高さの音を発声し、出るかどうか確認していく。
鍵盤のどの位置がドとかレなのかはネットで調べよう。
特に高音の場合、短い音と長い音で最高音が変わる。
短い音のほうが、1つ2つくらい高い音が出るのだ。
長い音の最高音、短い音の最高もそれぞれしっかり確認しよう。
また裏声(ファルセット)でどこまで高い音が出るのかも調べよう。
裏声での最高音を調べて余裕があれば、裏声でどこまで音を下げられるのかも試すとよい。
また、部屋で調べるより、カラオケボックスなど大きい声が出るところで、大きめの声で調べたほうが正確に確認できるだろう。
君が音階とか詳しくないのなら、学校の音楽の先生とか、普段ピアノを弾いてる人とかに頼んで手伝ってもらおう。
高音がどこまで出るのか、低音がどこまで出るのかがわかったら、携帯にメモっておき、自分が何かの歌を練習する際に、その歌が自分の音域と合っているか、ピアノアプリなどを使って確認しよう。
最初は難しく感じるかもしれないが、耳のトレーニングにもなるし、自分の声を知る第一歩にもなるので、やっぱりそれをするだけの価値はある。
男性でたまにいるのが、本当は声が低い人なのだが、低い声で話すとなんとなく周囲に変に思われるような気がして、子どもの頃から話し声では無意識に少しでも高い声を出そうとして育ち、うわずった声になっているパターン。
さらに高い声も低い声も全部裏声になる人もいる。このパターンは女性のほうが多いと思う。
どんな声で歌うのかは最終的には自分が決めることだが、全部裏声で地声の歌に直したい人とか、低い声でうわずるクセがある人は、しっかりしたボーカルの講師に見てもらいながら、時間をかけて直していくことになる。
もし自分の音域が狭いとか、高い音(低い音)が出ないと感じても、そこまで悩む必要はない。
正しい発声法や腹式呼吸を身につければ、低いほうは少なくても2つ3つ、高いほうは理論的には無限に音域を伸ばせるのだ。
ま、高いほうも実質的な限界はあるんだけど、それでも高音域は結構広げられる。
逆に言えば、正しい練習方法を知らないまま、無理やり高い声を出そうとかは、絶対だめとは言わないが、ほどほどにしておこう。
無理しすぎると変なクセがつき、最悪は喉をこわしてしまう。
次回予告:オーディションに合格するとどうなるのか
前の記事の喉のケアに加えて、本記事のウォームアップ、クールダウンをきっちりと実践し、そして自分の音域に合わせた練習曲の選曲ができれば、多少練習量を増やしても、喉のトラブルになる可能性は低いと思う。
2回の記事に分かれてしまったが、喉のケアやウォームアップ、そしてその後の練習はそれだけ大切なことなのだ。
次回の記事では、オーディション合格後どうなるのかについて取り上げようと思っている。
次回の記事を読むことで、喉のケアやウォームアップや練習がいかに大切か、さらに理解してもらえると思う。参考にしてもらえたら嬉しい。
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