2024年に聴いた声楽曲を振り返って、
2024年に聴いた声楽曲、74タイトル。いや、毎日一タイトルを聴いて、最も多く聴いたカテゴリーが声楽曲となりました。基本的に歌モノが好き、ということはあるものの、こんなにも聴いたのか?!と、改めて、数えてみて、慄いた(道理で、現代音楽とか、ピアノとか、少な目なわけだ... )。でもって、振り返るのも一苦労な数... それがまた、室内楽に引けを取らず充実したものでして... バロックから20世紀まで、壮観のオラトリオから親密なリートまで、それぞれに魅了されるものばかり。再び、頭を抱えることに... という中で、特に魅了されたタイトル、3つ選んでみた!
💿 グレゴール・メイヤー+ゲヴァントハウス合唱団、マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト(アルト)、アンドレアス・ヴォルフ(バリトン)の歌、カメラータ・リプシエンシスの演奏で、ラフのオラトリオ『世界の終わり-審判-新世界』。とにかく、マニアックではありますが、メンデルスゾーンだけじゃない19世紀のオラトリオ!ロマンティシズムと聖書の世界の親和性、存分に発揮しながら、文字通りの世界の終わりをロマンティックに聴かせる!いや、メンデルスゾーンを越えてゆく魅力、ある!で、カメラータ・リプシエンシスのピリオドならではの透明感、ラフの音楽を瑞々しく引き立て、ソロの伸びやかな歌声、ゲヴァントハウス合唱団の澄んだハーモニー、メイヤー指揮の下、輝き、知られざるオラトリオ、蘇る!
💿 ジョナサン・コーエン+アルカンジェロの演奏と合唱、ルイーズ・オルダー(ソプラノ)、ティム・ミード(カウンターテナー)らの歌で、ヘンデルのオラトリオ『テオドーラ』。まず、見事なのです、その歌と演奏!全ての瞬間が息衝いて、ヘンデルの魅力がジューシーに溢れ出す!そうして、確かなドラマが展開され... いや、改めて思い知らされる作曲家、ヘンデルの凄さ... イタリア・オペラでの悲喜交々を経て、至った英語オラトリオの試行錯誤、その先に辿り着いた晩年のオラトリオの音楽ドラマの結晶を思わせる鮮やかな音楽、圧倒されます!『メサイア』越えてゆく...
💿 サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)の、モーツァルトとリヒャルト・シュトラウスによる歌曲集。いや、もう、とにかく、ドゥヴィエルの美しい歌声なのです!やわらかく、芳しく、ふわーっとモーツァルトとリヒャルトの音楽を捉え、ヘヴンリーな空気感で聴く者を包むのです。で、おもしろいのが、モーツァルトとリヒャルトの組み合わせ!両者の、古典主義、後期ロマン主義というイムズを越えて底流するもの、そっと掘り起こし、ナチュラルにひとつつないで、より魅惑的なものへと昇華!ポルドワのピアノも絶妙で、魔法のような一時を紡ぎ出す... ため息...
そして、まだまだある印象に残るタイトル、ざっと挙げていきます。まずは、ラファエル・ピション+ピグマリオンが、モーツァルトのレクイエムを、モーツァルトの知られざる楽曲を挿みながら展開する、"REQUIEM"。いや、より豊かな情感が引き出され、おもしろかった... そして、エドワード・ガードナー+ロンドン・フィルのベルリオーズの劇的物語『ファウストの劫罰』。この作品の怪しげなあたり、前面に出してのおもしろさ、新鮮だった... それから、アントニオ・パッパーノ+ロンドン響のメンデルスゾーンのオラトリオ『エリアス』。初演時と同じ英語による歌唱という興味深さ... いや、ヘンデルの英語オラトリオを思い起こさせて、新鮮!
さて、歌曲でも素敵なタイトルがいろいろありまして... コンスタンティン・クリンメル(バリトン)が、アミエル・ブシャケヴィッチ(ピアノ)の伴奏で、伝説や神話をテーマにシューベルトとレーヴェの歌曲を歌う、"MYTHOS"。ロマンティックを正しく抽出しての、得も言えぬ瑞々しさ、広がり、惹き込まれました。そして、サミュエル・ハッセルホルン(バリトン)が、ウカシュ・ボロヴィチ+ポズナン・フィルの演奏で歌う、死と復活をテーマに綴る"世紀末"のリートとアリア集、"Urlicht"。マーラー、コルンゴルト、ベルク、プフィツナーと構成が光り、ロマン主義の終わりのパノラマを、感慨深く、美しく描き出す。最後に、アスミク・グリゴリアン(ソプラノ)が、オーケストラ伴奏版(ミッコ・フランク率いるフランス放送フィルの演奏)とピアノ伴奏版(マルクス・ヒンターホイザーのピアノ)の2つのヴァージョンを並べ、歌う、リヒャルト・シュトラウスの4つの最後の歌... なかなかにチャレンジングな試みを、自信を以って繰り出し、器用に歌い分けたグリゴリアン、見事でした。で、そこから浮かび上がる2つのヴァージョンのそれぞれの魅力!おもしろかった。