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その稜線に恋をした

忘れられない景色がある。

旅行が好きになってまだ数年の私は、そんなにたくさんの土地を訪れたわけではない。だけど、今のところダントツで好きで、住んでみたくて、ずるいなぁと思っている場所。それが長野県だ。

6年前の4月。私が縁もゆかりもない長野県へ行くことになったのは、ミスチルのライブのためだった。
過去のライブで、ファンクラブに入っているにも関わらず大阪城ホールに落選。ファンクラブ歴数年で初めてのことで、もうキャパの狭いホールツアーで大阪は狙わないと決めた私たちは、地方遠征に賭けるようになった。そして真っ先に選んだのが、夫が数年住んでいたことのある長野県だった。

夫はマニアックなほど山好きで、私に住んでいた地を見てほしいという気持ちもあり、自分でもまあ、行ってみたいなくらいには思っていた。
そんな程度だった。足を踏み入れる、その時までは。



人生を揺さぶった長野

高速で、岐阜から長野にかけて走っていた時のこと。今でも忘れもしない。

…山、が。
見たこともないほどの高い山々が、連なって。どんなに走っても走っても、ずうっと続いていた。時期的にまだ雪が残っていて、うっすらと稜線を白く染めていた。

そんなの当たり前だよと、長野県民には笑われるかもしれないけど。当たり前じゃないということを伝えたくて、私はこのnoteを書いている。少なくとも私にとっては、人生を変えるほどの景色だったのだ。

「え、なにこれ?」

想像してたんとちがう…。

一気に興奮状態になり、夢中で写真をとった。

自分の地元も、うんざりするほど山に囲まれてたけど、山の定義が違う気がした。

昔母が言っていた。上高地はいいよ、本当に行ってよかった場所だよと。
私が山なんて見飽きたと言うと、あんたねぇ、ここの山とは全然違うから、と。

うん、ごめん。ぜんぜん違いました。
湖と海ほどに。

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ああ、一枚目の写真でわかってほしいのに、ぜんぜん伝わらない!ぱっと見地元とあんまり変わらない!だからか、私が知らなかったのも。

どこかの市街地を走っていたとき、夫がバックミラー越しに「なんかとんでもないもんが見える」と言った。何かと思ったら、昔なかなか一度には綺麗に見られなかった山々が、全て見えるようにくっきりと映っていたらしい(写真下。上がどこかは全くわからないけど、長野を走る雰囲気を感じてほしい)。
そこから引き返し、見える場所まで登っていった。

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ねえ、こんなものが毎日運転しながらとか、歩いてるだけで見える長野って、ずる過ぎるよ。一生飽きずに見ていられそう。


そして松本には、駅から近いのに趣のあるこんな場所も。
『神様のカルテ』の一止とハルが歩いていそうだ。こんな粋な街は、私の生活圏には存在しない。

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このときはライブが目的だったのと、行きたかった美ヶ原にも天候的に行けず、観光らしい観光はしていない。それでも至るところから見えるその桁違いの風景は、ずっと私の脳裏に焼きついて離れなかった。

高まる長野熱、そして上高地

長野へは、その後も純粋な旅行で二度訪れた。
二度目は白樺湖のあたりに泊まって、近すぎる星空を眺めた。
そして三度目に、上高地と、岐阜から穂高へ。

上高地までは、途中で車を停めてシャトルバスに乗り換えなければならない。いきなり知らない人達と隣になり、満員ですこししんどかった。
現地に着く直前、斜め後ろに座っていた夫に肩をたたかれて振り向くと、窓の外に信じられないほど大きな岩肌が見えた。
反射的に涙が出て、息をのんだ。バスのストレスなど遥か彼方へ吹っ飛んだ。こんな気持ちになることは、もう二度とないかもしれない。

一駅前で降りて、森の中のルートを歩く。私の育った山だらけの地元には、蛍がいる川も、本物の山道の通学路もあった。それでも世の中には、こんなにも知らないことがあるのだと思った。そして、どうして大人になった自分は、あんなゴミゴミしたタバコくさい街に住んでいるのだろう、と。15年住んでもまったく愛着が湧かない街。ほんとうはいくらでも、自分で選べるはずなのに。

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森を抜け、かの有名な河童橋で美しさのあまり動けずにいると、隣におじいさんがやってきた。
ふと見やり、視線を外す直前、胸がドクンと鳴った。また涙が溢れてきてしまう。夫が驚いて、え?どうした?と聞くけれど声にならない。
おじいさんは、遺影と思われる写真を、山に向かって掲げていたからだ。

私はしばらく涙をとめることができず、元気なときに大切な人とここに来れたのは当たり前のことじゃないのだと、深く心に刻んだ。

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その夜は、岐阜へ移動。温泉を満喫し、翌日、新穂高ロープウェイへ。

この頂上にいるカメラマンのおじさんがとてもおもしろくて、喋りも上手だった。人がどっと降りてくると、「あちらは憧れの槍ヶ岳」と歌うように案内していた。もちろん写真をとってもらう。少しお話して、記念におじさんと私のツーショットまでもスマホにおさめた。
「はいチーズ」のかわりに「ロープーウェイ」と言うのが見事ツボにハマって、ずっと笑っていた。

ああ、また行きたいな。


夫は長野を好きになった私を嬉しそうに見ている。でも、コロナが落ち着いたらまた長野行こうねと言うと、さすがに次は違うとこ行こうや、どんだけ好きなん、と笑われてしまった。

そうだね、次は別のところでもいいか。
もう、長野ほど感動する場所はないんじゃないかと思っているけれど、それもちっぽけな私の決めつけにすぎない。まだまだ行ったことのない場所があるのだから。

でも、田舎や自然に対する概念を変え、そして自分はこんなにも山に惹かれるのだと教えてくれたのは、長野だけだ。

早くあの稜線がみたくて、あの空気に触れたくて。

元気なうちに、いずれ、また。


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