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商業百合漫画から消えていった同性愛の葛藤・タブー意識
※あらかじめ書いておきますが、本記事は漫画に限定した話題の記事です。あまり話を広げるとキャパオーバーするので、ライトノベルなどは想定自体から省いています。
【本論】同性愛タブー意識の曲がり角
いつだったか「昔の漫画は同性愛に葛藤描写がよくあったけど、最近はそういうのも見なくなったね」みたいな感想を見ました。
ただ、商業百合漫画レーベルが確立したのは2005年創刊の『コミック百姫』以降であり、それより古い漫画となると一般漫画で気まぐれ的に登場する女性同性愛漫画が代表的な百合漫画であり、その他には同人誌のような個人誌であったり、語り継がれにくいアダルトコミックなどに限られてきました。
百合よりも古くから一定ジャンル規模を保ち続けているBLコミックはともかくとして、そういった状況である百合漫画の「昔」は今からでもまだ追いかけやすい作品数ですので、少しずつ古い百合漫画に目を通しておりますが、その途中感想としては商業の百合漫画における差別的な葛藤表現は元々かなり少なかったように感じております。
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(2013年7月発売『彩百合 Vol.5』初出
単行本『スクール☆ガールズ ラブセレクション』収録)
特に印象的なのが2013年発表作品のこのセリフです。この漫画は全年齢として売っていないガチのアダルトコミックなのですが、2010年頃には既に「同性愛は異常」と思うこと自体がタブーとして扱われています。
このあたりは社会の変化…というよりかは、先人の努力による結果なのですが、こうして見ると社会情勢のひとつの転換点として認識できるように思います。
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単行本のオリジナル版は第3巻収録
#やがて君になる 明日5月27日発売の電撃大王7月号に第12話が載ります、よろしくお願いします 今月は沙弥香です pic.twitter.com/JBzIXnBja6
— 仲谷鳰 | 神ちガ3巻発売中 (@nakataniii) May 26, 2016
そう考えると、2016年に発表された『やがて君になる』第12話の「一時の気の迷いのようなものだったのよ」「女の子同士なんて……ね?」は当時の10代女子のセリフとは違和感があります。もちろん「そう言う子だっているはずだ、いや居たんだ」という意見もわかりますが、改めて考えると本当にこれが平成後期の今時なのかどうかは少々疑問を感じます。
\読みきり/
— マンガMee (@manga_mee) October 16, 2023
🎨追加作品のお知らせ🖌
【 #初恋の果て 】#鹿生侑利 #成瀬ちはや
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美大生の月乃は就職が決まり順風満帆な人生を送っていた。でも恋人の栞は月乃に甘え、嫉妬し振り回すー…夢への階段を駆け上がる月乃に対し、栞の態度がまた変化し始め…。 pic.twitter.com/JnMoRj6oc5
まあ確かに女性同性愛を刹那的なものとして処理する漫画は筆者が本記事を書き始めた2023年でも絶えず発表されていて、ある意味需要のある物語なのでしょうが、それにしても『やがて君になる』の例の表現は古風に感じます。
周知の通り『やがて君になる』は同性愛に対して差別的な漫画作品であり、同性愛差別主義者に認められるという不名誉を得た作品でもあります。差別的な作品が古い認識のままであるのは別に不思議ではないでしょう。
【以下おまけ】古い表現を見てみる
だいたい2010年あたりには同性愛の葛藤は社会情勢的に難しくなっていったのではないかという仮説をもとに、以下古い作品を脈絡もなく見ていきます。結論としては既に書き終えたので、これより下はどうでもいい話というか、雑多です。いつか集めた描写のすべてを時代順にまとめてみたいのですが、量が量なので、まあ無理でしょう。
百合とかまったく無関係の漫画を見てみる
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初出:『りぼん』1995年
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初出:『りぼん』1995年
百合漫画を語るのに百合漫画だけを見る人は多いのですが、当時の時代そのものも可能な限りは見ておくべきではないかと私は思います。そんなわけで挙げるのが『ご近所物語』です。1990年代の『りぼん』といえば人気のピーク期あたりで、そのなかでも『ご近所物語』はテレビアニメ化もされているタイトルであります。
そんな『ご近所物語』ですが、1巻収録部分を見ると「同性愛は異常」という同性愛差別が平和な日常の1コマとして普通に描かれています。だいたいこの時期でもまだ同性愛差別が『りぼん』掲載の漫画作品内にあったようです。すなわち、当時の日本社会もこれに近い感じだったのではないかと思われます。
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単行本1巻収録
さらにさかのぼり、『有閑倶楽部』です。この漫画は掲載雑誌の変遷がけっこうあるみたいなのですが、PART3は昭和56(西暦1981)年『りぼんオリジナル』秋の号掲載だそうです。『有閑倶楽部』は今読むと差別表現がかなり目につくとか言われてるらしいのですが、確かになかなかのもののように思います。
鈴木有布子『キャンディ』
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初出:『つぼみ』2010年~2011年
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連載初出:『つぼみ』2010年~2011年
『キャンディ』はちょうど2010年頃に百合アンソロジー『つぼみ』で発表された百合漫画です。けっこう差別描写があったりします。
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連載初出:『つぼみ』2010年~2011年
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連載初出:『つぼみ』2010年~2011年
百合レーベルの漫画というのを多少差し引くべきかもしれませんが、同性愛に対する負の感情はアンチ側からの描写に集中しているあたり、時代の端境期を感じなくもありません。
初期の『コミック百合姫』
最後に初期の『コミック百合姫』を見てみます。2005年創刊ということで、本記事で書いてきたように、同性愛に対して社会が微妙な時期であると予想されます。
この雑誌で描いていた漫画家の人で「読者に受け入れられず売れなかった」とグチってる人を見たりしますが、実際に読んでみると『百合姫』内ではむしろプッシュされていたりして、「どういうこっちゃ」と思ったりします。そもそも初期『百合姫』で大いに稼げた人自体いたのかどうかよくわかりません。
そして、「昔の『百合姫』は差別的だった」みたいな言説も見たりします。具体的にどの描写を挙げてそう言っているのかよくわかりませんが、とりあえず見てみましょう。
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『コミック百合姫VOL.1』(2005年)掲載
記念すべき『百合姫』第1号の巻頭は『百合姉妹』時代から人気だったと思われる『ストロベリーシェイクSweet』。作者特有のギャグ描写を中心としたコメディ百合漫画です。
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『コミック百合姫VOL.1』(2005年)掲載
この『くちびるにチェリー』は周囲の差別意識発露を描いているので、これが差別的と言えば差別的なのかもしれません。ただ、このレベルを差別だからとまるごと否定されると、リアル路線の漫画がまったく描けなくなるような気はしますが。
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『コミック百合姫VOL.1』(2005年)掲載
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この『First Kiss前編』はシリーズのサブキャラクター編になるのですが、確かに「女子の同性愛は疑似恋愛」という差別的な描写が入っています。
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『コミック百合姫VOL.1』(2005年)掲載
差別描写という観点では『少女美学』が確かにひどいです。しかしながら、『少女美学』から始まる同作者による百合漫画は性愛を重点的に捉えた同性愛作品でもあり、そういう面で評価の声もあがっていた話も見聞きしたような気もします。
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『コミック百合姫VOL.1』(2005年)より
挿絵:水上カオリ
今となっては考えにくい存在となりましたが、森奈津子氏によるお悩み相談コーナーがありました。「『かかあ』の皆様も、実は女性同士の切ない恋を楽しんでいらっしゃるのかもしれないと」が『コミック百合姫 vol.1』にて最も差別的なような気がしてなりません。
そんなわけで、第1号の『コミック百合姫』を見てみましたが、確かに差別的と言えば差別的ではあるものの、断言するには微妙なところでもありました。
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『カーミラvol.4 魅惑のアソコ』(ポット出版 2004年発行)より
※アダルト描写に関して筆者が修正をかけています。
しかし、女性が好きな女性のためのアダルト情報誌『カーミラ』に掲載されている小説・漫画を見ると「本命は男の人❤」みたいなヒロイン像が描かれており、そういった時代性を考えると『コミック百合姫』掲載の漫画に関しても多少差し引く必要性があるのではないでしょうか。
加えて、『コミック百合姫』自体も、2号以降は上記のような差別的描写を減退させているように感じました。4号までは見てみましたが、軌道修正しているかのような印象を受けます。
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『コミック百合姫VOL.3』(2006年 冬号)掲載
前述の『First Kiss』にしても、なんやかんやで「同性愛を偽りと考えたのは間違っていた」という話に持ってきており、トータルで考えればそこまで差別的ではありません。
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『コミック百合姫VOL.3』(2006年 冬号)掲載
どっかの作品が「あなただから好きになったのではなく女だから好きになった~」構文をちょっと入れた程度で画期的だと威張っていたような記憶がありますが、そんな表現はとっくの昔にこうして定番セリフとしてハッキリ描かれていたわけです。
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『コミック百合姫VOL.4』(2006年)より
挿絵:水上カオリ
こういったことを今も訴えている人がいるかどうかは何とも言えませんが、同性愛者バレで解雇を恐れているものや、同性に告白した際に拒絶されたのがショックで性転換を考えている投稿が見られます。このあたりでも時代性を感じ取れるのかもしれません。
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『コミック百合姫VOL.1』(2005年)掲載
余談。『百合姫』の第1号にて、その筋では有名なお二方が登場しております。
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『コミック百合姫VOL.1』(2005年)掲載
残念ながら日本のエスやら何やらを含める“百合”は理解できないようでした。その割には今でも英語圏で女性同性愛作品を語るのに日本作品が度々使われているのも不思議なものですが。
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