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notty78
へっぴり虫
『誠に勝手ながら お邪魔させて頂いております』
彼は出会い頭にそう言った
『少しばかり戸が開いていたもので そこから』
少し戸惑ったが 害が無ければいいかと
その存在を 責め立てることはしなかった
「どうぞ、ごゆっくり」
ぼくは そう伝えた
他に言うこともない
それから 3日間
かれとは あいさつを交わすだけの距離感を保った
ただ単に それ以上の何かが必要とは思えないからだ
出会いから4日目の朝
それは 急に訪れた
いつものように かれの姿を探していた
日課になっていた あいさつをするためだ
しかし どこにも見当たらない
少しホッとした
でも くまなく探す ぼくもいた
特に親しい仲でもない
それ以上でも それ以下でもない
ただ あいさつを交わすだけ
ただ それだけのこと
でも 日課になっていた
そんなことを考えながらも
かれを見つけることはできた
かれは きれいに足をたたみながら
微動だにせず カーテンに隠れていた
「呆気ないもんだね…」
「ちょうどいい距離感だったよ……ねっ」
ぼくは 嬉しくも 悲しくも
感情をのせることもなく
かれを窓のそとへ ふり放った
命の重さなど 微塵も感じさせないほどに
かれは軽やかに宙を舞い
ぼくの見えないところへ 消えていった
かれは ぼくに 日課をくれた
かれは ぼくの 一部になった