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論点はそこ? 合ってる? 少子化対策。
「子供が欲しくないわけじゃないの」
妻は目を床に落として力無く言った。床に答えなど落ちているわけでもないのに、妻の目は見つからない解答を、身の丈の現実に探していたのだ。
僕には、妻の言いたかったことがわかった。政府は子が成長した時の学費こそが英断の妨げになると思い込んでいる。確かにお金は大事だよ。快楽の末に授かった子に教育を与えられないことは恐怖だ。増幅する不安こそが少子化の諸悪の根源だと。
違うんだ。それがいちばんの理由じゃないんだ。
そりゃ人並みに子育てはしてみたいさ。お父さんと呼ばれてみたいさ。終わってしまった幼少時代を、子と共にもう一度なぞり直してみたいと思っているさ。足腰が弱くなってろくに歩けなくなっても、お父さん大丈夫? って声をかけてくれる成長して逞しくなった我が子に支えられてもみたいのさ。
だけど、二の足を踏む理由がほかにある。
それは、育った子が直面する現実だ。学費の重圧がそう感じさせるのじゃない。地球のあちこちで人為的破壊が繰り返され、戦火が町を包み、経済事情に悪戦苦闘を強いられる現代の、そしてこの国に、我が子を晒すことが怖いんだ。
どうして、生きることって素晴らしいんだ、と胸を張れる社会を作ってくれないの? 高額な学費のせいじゃない。これから生まれてくる小さな命に、世の中ってこんなに素晴らしいんだよと、そう言える社会にしょうとしてくれないの?
学費の無料化は、おぼつかない片翼のお膳立てにしかすぎない。そんな頼りのない不完全な片翼では心許ない。双発のもう一方側のエンジンが止まると、とたんに墜落するほど頼りない片翼では。
大事なのはそこじゃない。片肺になっても飛行を続けられる芯と筋の通った翼が必要なんだ。子をもうける絶対的前提条件はそこにある。
僕ら夫婦は求めている。政府がいちばん大切なことに気づいてくれることを。これから生まれてくるかもしれない我が子に、ようこそと胸を張って言える社会になることに。
経済的支援は考えるべき少子化対策として間違っていないのかもしれない。だけどその前に、社会での継続飛行に胸を張れる明るい道筋をさし示してほしい。
手放しで「こんにちは、赤ちゃん」と迎えられる社会を僕ら夫婦は見据えている。
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