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ここまで一気に書いて、続きを考えた。
男が男を愛する物語に、読者は胸をときめかせる。
負けたくはなかった。
読書会の彼女は私より一歩先に抜きん出た。同じ同人誌に寄稿しているのに、彼女のの作品が先に出版社の目に止まった。
「田野本さん、本気で書いてみませんか」編集者から届いた短い手紙を見せてもらった。見せたというより、見せびらかせしたに近かった。意識しているとしていないとにかかわらず、彼女には勝ち誇った優越感を感じた。文言化はしていないにせよ、当てつけも含まれていた。蹴落とそうとする意地の悪さが瞳の奥の腹の底に渦巻いているのも見透かせた。田野本女子の勝ち誇った顔を私はこれからずっと忘れない。
なぜ、私じゃないのか腹がたった。煮えたぎった鍋のように怒りがぐらぐらと沸騰し続ける。苛立ちが傷ついたレコードのように繰り返され、怒りの琴線を乾かぬ傷に塩を塗りたくるみたいにして痛点を弄び続けた。
雷鳴の大刀が脳天を直撃し、左右の足を絡めとられ仁王立ちする私を、裂けゆく大地が左右に引っ張って股から真っ二つに引き裂こうとしていた。
私にもBLは描ける。彼女よりももっとうまく。
田野本美留香。
私の愛した女性。美留香はこちら側の愛をあちら側に投影させてBLを夢の国に仕立て上げた。無垢な姫は、愛する王子様の陥ちた赤裸々な愛の森に入り込み、遠巻きに眺めていたはずの倒錯した愛に呑まれ、渦中にはまって溺れていく。そこはえもしれぬ目くるめく虹彩の楽園だった。
美留香はそれを「キュンキュンするための入り口」と言い表す。ネコの美留香らしい表現だった。だけど愛はネコだけでは成立しない。
私はタチだ。その立場から描くと決めた。
週末になると、美留香は夕食を作りにうちにやってくる。軽く飲んで食べて、それから。
果てて幸せになった美留香が、ベッドで寝息をたてていた。
(続く)
※気が向いた時に続編を考えていこうと思います。
書き当たりばったりなので、展開は未定です。
アイデアやご感想、この世界の見聞録がございましたら教えていただければと思います。