ま夏 夜の夢。
全国には7月中旬に早々とお盆を迎える地域がある。
早く来てほしいが早々とは終わってほしくない夏休みと違って、盆を心待ちにするのはこちら側ではなくあちら側の面々。
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
婆さまが盆に精霊馬を供え亡くなった爺さまをお迎えしても、わずか1週間のおもてなし。喉元をやり過ごすにはちょうどの短さ。それ以上長引けば、支障が出てくる。
婆さまが猫を飼い始めていたならば、愛情はすでに猫に向けられている。爺さま、居場所がなくなって困ることになる。かたや、精霊馬の出現は、招かれざる客人を呼び寄せてしまう危険がある。不気味な姿の精霊馬に敵対心を燃やすあの世界の破壊神だ。一方爺様は、取って代わられた猫を妬み、轟音の足音ではなく地団駄を踏んでいる。
こうなると戦いの二重構造が透けてくる。
打倒すべき怪獣に闘志を燃やすゴジラと、嫉妬の炎を燃え上がらせる爺さま。家庭内災害はこのようにして勃発する。
抱えなくてもいい苦労として、両者の意地が肩にのしかかってくる。
なんと迷惑な話だ。
だからといって、いっそのこと爺さまとゴジラを戦わせてしまえ、と短絡的に結びつけてはいけない。家の中が滅茶苦茶になってしまうばかりか、家ごと破壊されてしまう可能性がある。
お盆に猫を必要以上に可愛がってはいけない。とくに色の濃い猫ほど。黒い猫には魔法を使えるモノがいるからだ。二者の出現だけでも充分面倒くさいのに、そこに1匹加えると三つ巴の戦いになってしまう。そんな事態にだけは是が非でもしてはいけない。
真夏になれば、夜に夢を見る。真夏の夜の夢。
新盆で、一足早く夏の夢を見た。まだ夏にならない夜の夢。