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小学生レベルの事実婚と同棲。

 同棲と事実婚の違いについて考えた。いやなに、夕食の買い出しが終わった道すがら、小学生低学年の男子二人が「それは事実婚だよ」『そうかなあ』なんて会話を小耳にはさんでしまったものだから。
「キスはしてるね」
『してるかなあ』
「決まっているさ」
『でもそれは……』
 それは? つい歩調を緩めてしまった自分がいる。それは? 続きはなんだ? 気になって仕方ない。
「唇とくちびるがぁ……」
『うん、その唇とくちびるが?』
 で、その唇とくちびるをどうしようっていうのか、その先、どんな言葉が飛び出してくるのか聞きたかった。可能ならなる早で続きにつなげて。でないと、緩めた歩調でもどんどん二人組から遠ざかっていってしまう。
 それなのに小学生低学年の二人組ときたら、寄り道など無縁な商店街の終わりの際で、のろのろと頭を突き合わせ、未知の領域を切り開こうともがいてる。
「だから唇がね」
『くちびるが?』
 立ち塞がる巨大な壁に阻まれたように、二人の冒険はそこで食い止められてしまったようだった。
 仕方ないなあ。彼らはおそらく、親戚の兄ちゃんだか姉ちゃんが同棲しているとの親の会話をつい耳に入れたに違いあるまい。よく知る親戚の兄ちゃんだか姉ちゃんは、リアルな大人の世界を小学生に見せつけてくる。親戚の兄ちゃんだか姉ちゃんは同棲相手とふたり顔を付き合わせてなにをしているのか、小学生の頭の中は、妄想を爆走させたくて仕方ない。だけど運転技術を知らない拙さでは、ちっとも車を前に進めることなどできないのだ。
 仕方ない。こちらは運転免許で経験を積み上げてきた身。展開が奇想天外な展開なら足のとどめようもあるものの、初心者未満の戯言に割く耳は持ち合わせてはいなかった。
 緩めたアクセルに喝を入れ、加速。小学生低学年の二人組は見る間に遠ざかっていく。

 それにしても、ずいぶん大人な会話をする小学生(しかも低学年)もいたものだと最初、好奇の鼻をくすぐられた。だけど、蓋を開けたら会話の中身はあんなもん。くしゃみひとつで興味もろとも吹き飛んで、所詮はまだ小学生低学年の会話であったと会心した。

 そういえば、事実婚は同棲とどう違うのだろう。二人の小学生が見えなくなったころ素朴な疑問が湧いて出て、頭から離れなくなった。ねえ、誰か、あの小学生低学年の二人組のように、荒唐無稽な話で斬新な展開に持ち込める機知に富んだ話のできる方、お相手をしていただけませんか? 時間があれば、の話ですけど。

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