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ナンパの約束。

「いちど降りたんだけどね」
 ブランクを経て、小さいバイクに乗り始めたと言う。アウトドアに寄せたジーンとトレッキングシューズ、きゅっとしまったお尻がキュートなおばさんだった。
 車体は50ccなのにナンバープレートが黄色だった。たまに見かける『二段階右折返し』?
 一般的白ナンバーの50cc原付だと、何かと制限があって乗りづらい。二段階右折のほかにも制限速度が30キロまでとルールが窮屈だ。それが51cc以上125cc以下の原付2種、いわゆる原2になると、タイトな規制がぼわんとゆるむ。二段階右折はしなくてすむし、最高速度も道路に合わせて60キロまで許容されてくる。
 そこで50ccなのにもかかわらず掟破りの原2登録という内緒の裏技に打って出る者が出る。エンジンの排気量を上げないと違法行為にあたるが、上げなかったとて誰がどうやって排気量を調べるのかは不明だ。
 ナンバーが黄色(51〜90cc)やピンク(91〜125cc)になると免許は小型二輪以上が必要になるが、おばさんはかつてブイブイ言わせてた(だろう)オートバイ乗りなのだ。免許的に問題はあるまい。
 だからてっきり原2登録の原1なのだろうと思いメーターを覗き込むと、100キロまで刻まれている。純粋な原1なら60キロまでのはずだった。明らかに、オリジナルとは違っている。
「(排気量を)90ccまで上げてあるのよ」
 60キロは原1の限界速度。その60キロを余裕でこなすという。
「自分で作業したのじゃなくって、お店でやってもらったんだけどね」
 
 年式でいうと古いバイクだった。おそらく30年は優に経ている。プラス10年が正確な年式、といったところか? ならばおばさんと同等に生きてきたことになる。なのに、新車並みとまでは言えないまでも、経年からすればはるかにきれいにして乗られている。おばさんもまた、青春とつながった瑞々しさにあふれ、眩しかったよん。
(しかも見た目も若かった。話をしなければうっかり騙されていたところだ)
 
 ナンパしたのじゃない。でも、街のどこかでバイク同士ですれ違ったなら、その時はツーリングの約束でも、と言ってその場を離れた。これって、ナンパの約束をしたことになるのかもしれない。

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