睡眠の質が語られるようになった。乳酸菌が効くだの、マットレスが関係するだの、枕を替えるだけで劇的に変化するだの、経済社会は売るための仕掛けづくりに余念がない。
「気にするこたないさ。おいらは学校でも家でも熟睡してる」
寝る子は育つという。だが学校で眠りすぎると社会に出てから育たない。よもや、足し算引き算まで寝過ごして身についていない、なんてことはあるまいが、学びなれていないと、物事の調べかたが身につかない。
「気にするこたないさ。今の時代、何にも知らなくったって、Google先生がぜぇんぶ教えてくれる。現代人の最大の知恵って、もはや蓄積にあらず。おつむにいろんな知識を詰め込んだって、一人の脳細胞が抱えられるキャパシティは知れたもの。もはや蓄積じゃなく、いかに使いこなすかなのさ」
先生から指されても何にも答えられなかった落ちこぼれの君が、社会に出てから生き生きしてる。
「なまじ自分の知識に頼ろうとすると、そいつにしがみついちゃって、頑なにこだわっちゃうじゃない? それが失敗の素」
社会の勝ち組に入れたかどうかわからないけれど、君は意気揚々ともっともらしくぶち上げる。今でも解が二桁になる計算で君はあたふたするくせに、生き方を語らせると舌の動きの滑らかなこと。気持ちいいくらい熟睡したあとの冴えわたった青空みたいな頭脳みたい。
感心していると、「で、ひと組いかが?」ときた。
ひと組って? まさか?
「そう、おいらは今、饒舌な布団のセールスマン。笑顔も板についてるっしょ?」
相変わらず勉強はできないけれど、社会に出て成功する夢を見た。いい睡眠はいい夢を見せてくれる。
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