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残業続きの兄が私に言う。「おまえは気楽でいいよな。思い出したように仕事にいく日々、おれもおまえみたいに犬猫のようにパッパラパーで生きていきたいぜ」
私はムッとする。好きでこんな生活してるんじゃない。本来なら、もっと自由にやっていたいのだ。私は気ままだけど、人間は勝手だ。私にだって、欠かせぬ仕事がある。営業まわりに、自警に、愛想を振りまくことだって忘れはしない。だけど、文句は言わない。箝口結舌、男は黙って態度で意思表示。
宿題に追われる弟が言う。「今日も代わりにやっといて」
兄弟にしちゃあやけに歳が離れているが、まあ、私たちはもっとすごいことになってるから人間のことをとやかく言えた筋合いじゃない。だから黙ってる。黙すること、海底で眠る二枚貝の如し。
私は人口膾炙。世にも珍しい人の役にたつ猫の手の持ち主だ。頼まれれば嫌とは言えない猫の良さも持ち合わせている。
だけど、宿題を手伝ってばかりじゃいけない。弟に自立してもらわなきゃ。甘えの構造を放っておくと、いつか人間ダメになる。それにこのまま弟のお願い聞き入れてると、私の猫の手だけじゃ足りなくなってくる。苦口婆心、きっちり説教、世間の厳しさを教えてやらニャアいかん。
だけど、人間の耳にニャン文句なんだな。
「ねえお兄ちゃん、またタマがニャアニャア喋り始めたよ」
ほら、このとおり。
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