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たまごを茹でるように浸し、目を覚ます。夢に浮かんでいたような世界が茹で上がると引き締まる。
朝の、湯の張ったバスタブはこの世への瞬間解凍剤だ。そんな朝は、目隠しのない大きな窓からたっぷり注がれるミルクのような日差しがほしい。
「おはよう」
バスト下を包むタオルを巻いた風呂上がり。私は鏡の私に朝の挨拶を投じる。返事が返ってきた気はしないが、鏡の彼女は私と同時進行的に挨拶を返していた。
都会の朝はシティライフに溢れている。溢れてこぼれ落ちる人と無関心の暴風雨、効率化に向けた呪縛とに喘ぎながら、息を抜きたくなったら擬似ネーチャーに逃げ込むこともできる。造られた森の、大地にかぶさるあざとい樹木の巨枝と葉葉の下で、私は膨らんだ腫瘍を手絞りで空にするようにデトックスをしてみせる。
田舎でシティライフはこうはいかない。造られた土台がないと、造られたあとの演出は成し得ない。
手に入れたものと引き換えて無くしてしまったものに強く内臓を掴まれることがある。
「それでいいのか?」とそれは訊く。
「戻ってこないのか?」とそれは問う。
「まあだだよ」と私はゆるく返す。
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