総歩行距離1キロ未満の色彩豆粒ゴジラの赤ちゃん、これ以上大きくならないよ、今ならエサの汚染土1袋付き! どうだ‼︎
「今から30分以内に決めてくれたら特別価格でご提供って言われてね」
『で買ったのか』
「追加購入の押し売りいっさいなしってダメ押しされて」
『追加購入って、そのなんだっけ、ナントカ豆粒ゴジラ、そんなにたくさん売られていたのか?』
「いや、最後の1匹だった」
世の中には世にも奇妙な物が売られることがある。使い果たして壊れたブリキのリモコン・ゴジラでさえ、売りに出せば買い手が現れる。競わせればどんどん値段も上がっていく。
本物のゴジラまで売りに出されたって不思議はない。問題は、飼育環境とエサだ。
飼育環境に関しては豆粒ゴジラ種なら大きめの水草でどうにかなる。エサだって、不幸が幸に転じさせられる。処理に困っている1袋を引き受けられるのだから社会貢献にもつながるってもんだ。
『豆粒ゴジラは室内で飼えるとして、エサの汚染土はどこに保管しておくつもりなんだ?』
「庭に置いておけばなんとかなるんじゃないかな」
『ゴジラ飼育のために庭の半分を潰す気なのか?』
「ゴジラを飼えるんだったら、そんなもん屁でもないさ」
『呆れたやつだな。でも給餌はどうするつもりなんだ。防護服がないと被爆しちゃうだろ。手配はしているのか?』
「そのうちネットフリマで出品されるだろ。それまで待つ」
『それまで豆粒ゴジラは?』
「ゴジラも待つ」
『おいおい、防護服が買えるまでに豆粒ゴジラ、餓死しちゃうんじゃないのか?』
「今まで生き延びてきたゴジラの亜種だぜ。そう簡単に死なないさ」
『ゴジラにおあずけか。我慢してくれるといいがな』
「飯よこせって、暴れ出すってことか?」
『そうだ。空腹は怒りと直結する』
「それもそうだな。じゃ、一丁募集でもかけてみるか」
『なにを?』
「防護服込みでアルバイトしてくれる人」
『そんな奇特な人材、いるわけないじゃないか』
「そうかな」
数日後、庭にプレハブ小屋が作られた。給餌係が住むための掘立小屋だった。
『奇特な人物、世界にはいるもんだなあ』
「後日談もある」
『なんだ?』
「給餌には危険を伴うから餌を与える時には避難していてくださいって言われてな」
『で?』
「避難している最中に色彩豆粒ゴジラが盗まれた」
『それって?』
「昨今の騙しは手が込んでいる。売ったものを回収してまた販売する。ネットで調べたんだが、これをブーメラン詐欺って言うらしい」
『ゴジラで釣って、ジレて連絡が来るまで待って、まんまと金をせしめるってわけか』
「おまけに汚染土処理費用まで懐に入る」
『残されたのは、放射能を発するお荷物ひとつ。だいぶ大きな荷物だがな』
「盗まれたことは残念で悔しいことだけど、いっときでもゴジラを飼えたんだ。いい経験をしたよ」
『ところでそのゴジラ、詐欺師はいったいどこで捕まえたんだろう?』
「お、その手があるよな」
『なんだ? 何を考えている』
「ゴジラはこの地球のどこかにいるんだ。今度はゴジラ発見隊のメンバーを募ってみる」
世の中から欲望が消えない限り、資本主義の渦はさらに肥大化していく。新資本主義とはその別称。一方、欲望は起爆剤を同時に膨らませていく。行きすぎれば危険が増し大波の襲来で爆発するし、文化文明で暮らしの安寧を強く念じれば隣国との境目に摩擦熱を生んで国境の向こうとこちらで戦争が始まる。
ゴジラは、豆粒ともとれない見えない姿で、世界のあちこちに潜んでいる。