マッチ火の先。
マッチを手作りで売る人がいる。箱も自作するものだから、一箱の値段がライター以上になる。
「ライフワークだから」とその人は笑う。徳用マッチの大箱とは違う、あの十把一絡げ感のない洗練の薄型小箱マッチで、一箱に20数本のマッチ棒しか収めない。
タバコ一箱につきマッチの小箱1箱を使い切る勘定だそうだ。
ーーなぜキリのいい20本じゃないのですか?
「着火に失敗した時のお守り」とその人は言った。
全タバコに一発で着火できれば数本余る。だからその人は、余ったマッチ棒をまとめる貯棒箱なる空箱をくれる。
「20箱ごとに一つの空箱」
マッチの軸木に火薬をつけてマッチ棒となる。火薬部分は頭薬と呼ばれ、材料は塩素酸カリウムが使われるようだ。
そういやかつて、軸木が紙でできた、1本ごとにマッチ棒をちぎって擦る紙のマッチがあった。
「ブック型のことね」
だけど2年前に最後のブック型マッチの生産をしていた兵庫のラスト1がその歴史を閉じたという。
「あれはあれで風情があったけどね」
「そうそう、ちぎらずに折って側薬に擦り付けたりして」
「よく知ってるね。そうやって擦れば、軸木というか軸紙を1本単位で捨てずに済む。まとめて捨てられる」
「そのとおり、だからどうだって話じゃない。でも、安全で効率的なライターには、そんな味のある手間の掛け方、真似できないっしょ」
「あれは作らないよ。手作りじゃ難しいんだ、ブック型は。隣同士の頭薬がくっついちゃっていけねえ」
マッチを1本擦るだけで大枚をもらう商売があると聞いた。
「マッチの使い方なんて、使う人でまちまち。それでいいんじゃないの。そこまで介入するこたないさ。使う人に委ねるしかないんだもの」
マッチを擦ると加速する音がする。瞬く間に失速するけど、勢いに乗った短い全盛期にタバコの先に火をつける。盛って潰えた過去の花火と重なる炎は、燃えて消されるタバコに引き継がれる。手作りマッチは今日もまた細々と手作りで生産され続けている。