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初陽ーー世の上昇曲線。
都心の雪は叶わぬ恋のように淡く消えた。思えばたいそうな心構えだった。過敏すぎるほどの備えに、盤石な安心を寄せていた。
予報が脅す冬の脅威に胸が締めつけられる思いをしたが、通過したあとに振り返れば、冬季幽霊の正体も、枯れススキに似た嗄れ枯れ吹雪。通り過ぎていった雪は、破れた太鼓にバチを振り下ろしたみたいに、拍子が抜けた。
山下達郎が「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう」と歌い、本格的な冬に向かったあの日がすでに遠くにある。あれからまだ2か月と経ってもいないのに。先般の「雪はお昼過ぎに雨へと変わった」。まるで春が正面玄関から冬の渦中に入り込んできたみたいだった。
初陽。もう春は始まっている。花屋の店先に並ぶ桜の枝が、また一輪よぶんに花を咲かせた。
初陽。もし太宰がこの語を冠した物語を書いたなら、明るい結末に向かうことができただろうか。
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