佐藤惇と江川隆男
SASUKE2024年度大会も幕を閉じたが(いずれnoteで振り返りたい)、2023年度大会でパルクール協会会長の佐藤惇がとんでもない技を駆使して1stステージをクリアしたあと、インタビューでだいたい次のようなことを言っていた。「目標はクリアだけじゃなくて、SASUKEという場を自分の遊び場にすることです」。これを聞いて即座に、哲学者江川隆男が『HAPAX』13号所収のインタビューで述べている次のような言葉が脳裡に浮かんだ。
「私にとっての大学院の演習の意味は、例えば、プラトンやアリストテレス、デカルトやスピノザ、カントやベルクソンを受動的に読むのではなく、最初からテクストを自分から迎えに行くという意識、つまり肯定的なものをテクストから引っ張り出しに行くという価値の感覚と不可分でしたね。そうです。待ち構えているのではなく、まさにテクストという対象性のなかに自らの遊技場を作るという感じです」
この最後の「遊技場」=「遊び場」というところの呼応だけでなく、全体的にも響き合っていると思う。かたやスポーツ、かたや読書というアウトドアとインドアの違いこそあれ、問題提起する力、与えられた問題にただ解答する(SASUKEで言う「クリア」)だけでなく、そこにどれだけ自らの問いを注入できるかという意味で両者は共通すると思うのだ。
江川は岡本太郎のよく発していた「挑む」という言葉を好むと講義で語っていたが、佐藤もSASUKEに「挑む」者である(しかも他の挑戦者とは一味も二味も違った仕方で)。佐藤はクリストファー・ノーランの映画が好きだと言うが、江川が好むドゥニ・ヴィルヌーヴはどうだろうか。私の妄想の中では、二人は魂の交流を見せてやまない。