卒業の日
卒業式
教授の前に両手を出したけれど
手に紙がおさまる気配がない
頭をあげると
「君にはまだ渡したくないな」
学位記を渡すのをしぶられてしまった
心の底を見透かされたようで
思わず笑ってしまった
もう少し先生のもとで
学んでいたかった
かと言ってその先に
明確な夢があった訳ではないから
ただ、目の前にある
情熱の在処に進むことを決めた
目尻を下げて笑う先生の顔をみるのも
これで最後かな
明日もまたここで会うかのように
先生と後輩と喋り
友人とキャンパスを歩き回って
いつものように別れを告げた
引っ越しも完了して
空っぽになった部屋にさよなら
「お世話になりました」
大家さんに挨拶して、
駅に向かおうとしていた時
電話が鳴った
それは先生が縁を結んでくれた
老夫婦のおじさんからだった
「出発の前に一回泊まりにおいで」
「今日出発するんですよ」
「じゃあ今からおいでよ」
そのご夫婦は、奥さんが10歳年上で、
デパートで働いてる奥さんに
ひとめぼれしたおじさんが猛アプローチ
遅い結婚で子供がいないのよ
二人してそういうけれど、
いつも寄り添いあって
同じ笑顔でほほえみあう様子に
こんな形の幸せもあるんだな、と
教えてもらった
三人でお酒を酌み交わし、
美味しい手料理に
二人の物語や生い立ちを聞く
人様の家だけれど自分の家のように過ごし、
よく寝れた夜だった
縁が縁を結ぶ
先生のもとで学んだのは
学問よりも心の方が大きかったかもしれない
懐かしい写真にふと、
あの頃の記憶が蘇ってきた
写真 夜8時のかぎしっぽ様