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桜木の記憶

遠い春の日、
私を見上げていた二人

彼女が彼へ
小さなオルゴールを
渡していた

故郷を恋しがる
彼へのプレゼント

その春の調べには
あの街の時が綴られていた

今、彼は
あの街の時の中
彼の物語を綴っているのだろう

彼女は今、
彼のいないこの街で
彼の知らない物語を綴っている

これから先、
二人の物語が交わることは
もうないのかもしれない

春がめぐる度
今も、あのオルゴールの音と
仲良くよりそう二人の声が
空耳となって

私の足元に響いている

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写真 ななくさつゆり様